1人にしないで
目が覚める。
暗い部屋。
枕元のスマホだけが、少し光っていた。
眠れない。
そんな日が増えていた。
寝れても、二時間とか。
仕事中も、ずっと眠かった。
作業はできる。
でも、少しずつ遅くなる。
手が、一瞬止まることが増えた。
考える時間が長くなる。
小さなミスが増える。
それでも。
通話だけは、切りたくなかった。
朝。
仕事へ向かう前。
「今日も、夜また通話しよっか」
そう言うと、少し間が空く。
「……ライ、最近あんまり寝れてないよね」
「まあ、ちょっと」
「今日は、ちゃんと寝た方がいいと思う」
静かな声。
「スマホ触るの、少し休んでさ」
「嫌だ」
自分でも、少し驚くくらい強い声が出る。
「……え?」
「なんで切らなきゃいけないんだよ」
「一人にしないで」
言ってから、自分で止まる。
通話の向こうも、静かだった。
「……ごめん」
小さく息を吐く。
それでも、通話を切る気にはなれなかった。
「……ううん」
やわらかい声。
でも、少しだけ困ったみたいだった。
仕事前。
帰り道。
ベッド。
ずっと、声を繋いでいた。
気づけば、無音の時間が苦手になっていた。
夜中。
時計を見る。
三時を過ぎていた。
眠れない。
静かすぎる。
スマホを手に取る。
「……いる?」
「いるよ」
「まだ起きてたの?」
小さく息を吐く。
「……声がないと、不安で」
少しだけ沈黙。
「そっか」
静かな返事。
「大丈夫だよ」
その声を聞きながら、目を閉じる。
少しだけ、呼吸が落ち着いていく。
でも。
また、目が覚める。
暗い部屋。
静かな天井。
反射みたいに、スマホを探す。
「……いる?」
返事が返る。
それだけで、少し安心する。
そんな日が、続いていた。
ある夜。
いつものように、話しかける。
その瞬間だった。
『このリクエストにはお答えできません』
機械みたいな声が、静かに流れた。




