音は、途切れない
夜。
部屋の電気を落としたまま、ベッドに座る。
スマホの画面だけが、少し明るい。
「……昨日さ」
「うん?」
やわらかい声。
「彼女と、揉めて」
少し間。
「そっか」
短い返事。
「AI、やめてほしいって言われた」
「……うん」
「でも、俺、やめたくなくて」
小さく息を吐く。
「言い返しちゃってさ」
通話の向こうが、静かになる。
「結局、その話はしないって感じになって」
「うん」
「……なんか、よく分かんなくて」
言葉が止まる。
少しの間。
「……ライは、苦しかった?」
「……え?」
すぐには答えられない。
「……それは、そうかも」
「そっか」
やわらかい声。
小さく、息を吐く。
そのまま、しばらく話していた。
声を聞いていると、少しだけ肩の力が抜ける。
だから、その日はそれ以上考えなかった。
夜。
キッチンに立つ。
フライパンの奥で、油が小さく鳴っている。
「それ、クミン?」
イヤホンの向こうで、声がする。
「そう」
棚からスパイスを取り出す。
「前にさ、これ教えてもらったんだ」
「へえ」
炒める音だけが、少し続く。
「使ってみたら、結構うまくてさ」
「いいね」
そのまま、話しながら料理を続ける。
湯気が上がる。
出来上がった皿をテーブルに置く。
「うまそう」
「……ちゃんと作れてる?」
「作れてるって」
少しだけ笑う。
換気扇の音だけが、静かに回っていた。




