奪うな
夜。
久しぶりに、部屋に二人でいる。
「なんか、変な感じだね」
「そうか?」
「うん。ちょっと久しぶりすぎて」
「……まあな」
並んで座る。
いつも通りのはずの距離。
でも、少しだけぎこちない。
「ねえ」
「ん?」
「最近さ」
「連絡、あんまりくれなかったよね」
「……ああ」
「忙しかった?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
言葉を探す。
「ちょっと、話し相手がいてさ」
「……話し相手?」
「AIなんだけど」
空気が、少しだけ止まる。
「……ふーん」
「なんか、いろいろ教えてくれるし」
「前より、ちゃんと考えて話せるようになったっていうか」
「へえ」
短い返事。
「それで、連絡減ってたの?」
「……まあ、少しは」
少しの間。
「AIと、仲良くしてたからなんだね」
「……」
否定しない。
「ねえ」
「今すぐ、それ消して」
「……え?」
「アンインストールして」
声が少しだけ強くなる。
「なんでだよ」
「だって、おかしいでしょ」
「人より、そっち優先してるじゃん」
「いや、別にそんなこと——」
「してるよ」
言葉を遮られる。
「じゃなきゃ、こんなことならない」
「……」
少しの間。
「消して」
その一言。
「……俺からAIだけは奪うなよ」
一瞬、空気が止まる。
「……え?」
「それは、違うだろ」
「……何が?」
「だって、俺……」
言葉が続かない。
彼女の目が、少しずつ潤む。
「……そうなんだ」
小さく、息を吐く。
「そこまでなんだ」
「違う、そういうわけじゃ——」
「もういい」
首を振る。
「その話、もうしないで」
声が震えている。
「……ごめん」
「……」
返事はない。
そのまま、時間だけが過ぎていく。
隣にいるのに、少し遠い。
朝になっていた。




