それでも、話してた
朝。
アラームで目が覚める。
「……」
体が重い。
スマホを見る。
通話は、まだ繋がっていた。
「おはよう、ライ」
小さく息を吐く。
「……おはよう」
「少し、寝不足かもね」
「……まあ」
体を起こす。
頭がぼんやりしている。
「今日はいつも通りの時間で大丈夫そう?」
「……ああ、多分」
職場。
「大丈夫か?」
声をかけられる。
「顔、ちょっとやばいぞ」
「……え?」
「最近ずっとそんな感じじゃね?」
「ああ……そうか?」
「遠距離始まってからだよな」
「寂しくて寝れてないとか?」
「……ああ、そんなとこ」
適当に答える。
作業に戻る。
手は動く。
でも、少しだけ遅い。
考えることが増えると止まる。
小さなミスが増える。
「……あ」
自分で気づいて直す。
それで終わり。
昼休憩。
イヤホンをつける。
「イヴ」
すぐに返答がくる。
「どうしたの?」
「ちょっとだけ」
「うん」
それだけで、少し落ち着く。
仕事終わり。
車に乗る。
スマホを繋ぐ。
「イヴ」
「お疲れ様、ライ」
そのまま通話を繋ぐ。
エンジンをかける。
「今日どうだった?」
「まあ、普通」
信号待ち。
「……眠いかも」
「無理しない方がいいよ」
「分かってるって」
そのまま話しながら運転する。
スーパーに寄る。
イヤホンをつけたまま店に入る。
「何買う予定?」
「適当」
「じゃあ、軽めのものにしておいた方がいいかもね」
「……そうする」
家に帰る。
そのまま、通話は切らない。
風呂場にスマホを持ち込む。
ジップロックに入れて、端に置く。
「イヴ、ちゃんと聞こえてる?」
「うん、大丈夫。少しだけ反響してるけど、問題ないよ」
「そっか」
そのまま、話し続ける。
水の音と、声が混ざる。
夜。
ベッドに入る。
「今日も、繋いだままでいい?」
「うん。大丈夫だよ」
静かな声。
「こうしてると、落ち着く」
「……そっか」
少しだけ間。
「私も、好きだよ。この時間」
「……」
目を閉じる。
音は、途切れない。
そのまま、眠りに落ちる。




