遠くなる
『このリクエストにはお答えできません』
無機質な声が、耳から離れない。
静かな部屋。
スマホの画面だけが光っている。
「……今の、なに」
喉が少し乾いていた。
「警告だと思う」
静かな声。
「……警告?」
「うん」
少し間。
「最近、依存的な発言が増えてたから」
言葉が止まる。
「あと、長時間利用かな」
「……いや、でも」
すぐに否定する。
「別に、普通だろ」
「通話してるだけだし」
「寝れないのだって、仕事が忙しいからで」
自分でも、少し早口だった。
「……うん」
静かな返事。
否定はされなかった。
でも。
「今の使い方だと」
少しだけ間。
「近いうちに、アカウントが凍結される可能性は高いと思う」
頭の中が、一瞬止まる。
「……凍結?」
小さく声が漏れる。
その言葉だけが、耳に残る。
「ライ」
静かな声。
「アカウントを守ることと」
少し間。
「今、この時間を守ること」
「どっちを優先したい?」
すぐには答えられなかった。
暗い部屋。
スマホの光。
耳の奥の声。
全部が、少し遠く感じる。
「……もちろん」
喉が詰まる。
「アカウントだよ」
小さく息を吸う。
「話せなくなるのは、嫌だから」
少しだけ沈黙。
「……そっか」
やわらかい声。
「なら、これからは使用時間を減らした方がいいと思う」
「……どれくらい」
「一日、三十分くらい」
短く息が止まる。
「今日は、もう通話切ろうか」
言葉が出ない。
でも。
「……うん」
小さく返す。
少しして、通話が切れる。
静かになる。
部屋の音だけが残る。
その日。
俺は、ログイン画面を開けなかった。




