63話
開拓団は、朝の光を受けてゆっくりと動き始めた。
大きめな触手が先頭に立ち、ソラとヒナがその後ろを進む。
百五十人ほどの村人たちが、荷物を背負い、武器を携えて列をなしていた。
「これから縄張りの外へ出る。神様の力の届かないモンスターの出る場所になるから、みんな気をつけて」
ソラが振り返り、声をあげ、そして続ける。
「神様の触手が一緒にいるからと油断しないで、外は本当に危険だから、勝手な行動は絶対にしないように」
一行は縄張りの境界を越え、森の中へと入っていった。
木々が密集し、地面の感触が変わる。
空気が重くなり、遠くから獣の遠吠えが聞こえてきた。
移動して三日目、開拓団は小さな部族と遭遇した。
その部族はモンスターの群れに囲まれ、逃げ場を失っていた。
「助けて……!」
部族からの叫び声が森に響いた。
触手が動き出し、ヒナが翼を広げて空から状況を確認する。
触手は素早く動き、モンスターの群れに巻きついて締め上げていく。
部族の人々は驚いた顔でその光景を見ていた。
「これは……何だ……」
一人の男が怯えた声で呟いた。
触手がモンスターを次々と倒していく姿を見て、部族の人々は恐怖の表情を浮かべた。
「モンスターだ……! あれはモンスターだ……!」
女たちと子供たちが悲鳴を上げ、逃げ出そうとした。
ヒナが素早く前に出て、両手を広げて部族の人々を止めながら言った。
「待って! これは私たちの神様の一部だよ。私たちは神様に守られているの」
ソラが触手の前に立ち、穏やかな声で続けた。
「この触手は神様が私たちを守るために切り離したもの。新しい神様の一部なんだ。怖がらないで大丈夫」
部族の長老が震える声で尋ねた。
「神様……? そんなものが本当にいるのか……?」
ソラが優しく微笑みながら答えた。
「神様は本当にいる。この触手が、神様の力の証拠だよ。もしよかったら一緒に来る? 私たちは神様の力を使って、新しく安心して暮らせる場所を作るの」
ヒナが触手を優しく撫でながら、部族の子供たちに声をかけた。
「ほら、触ってごらん。温かいでしょう? 怖くないよ」
縄張りの外の部族の子供が恐る恐る触手に手を伸ばし、触手に触れた瞬間、目を見開いた。
「あったかい……」
その言葉をきっかけに、部族の人々の表情が少しだけ和らいだ。
触手がモンスターの群れを完全に退けると、部族の長老が深く頭を下げた。
「助けてくれて、ありがとう。私たちは……もう、どこにも行き場がなかった」
ソラがうなずきながら言った。
「一緒に行こう。新しい土地で、神様に守られて一緒に暮らしていこう」
部族の人々は開拓団に加わり、列の後ろに並んだ。
人数が少し増えたことで、士気が少し上がったように見える。
移動して五日目、今度は別の部族がモンスターに襲われている現場に遭遇した。
こちらも触手が素早く動いてモンスターを退け、部族を救出した。
しかし、この部族は最初に助けた部族よりも、触手に対する恐怖が強かった。
「化け物だ……! あれは化け物だ……!」
一人の男が斧を振り上げて触手に近づこうとした。
ヒナが素早くその男の前に立ち、翼を広げて遮った。
「待って! これは神様の一部だよ。私たちの神様なんだ」
ソラが触手の横に立ち、静かに説得を続けた。
「神様は私たちを守ってくれる。この触手が、その証拠だよ。怖がらないで」
男は斧を握ったまま、触手を睨みつけた。
しかし、周りの人々が次々と触手に触れ、温かさを感じて驚きの声を上げていく。
「本当に……温かい……」
「モンスターじゃないの?」
男は斧をゆっくりと下ろし、地面に膝をついた。
「私たちは……今まで、ただ逃げ続けるだけだった。神様は、本当にいるのか?」
ソラが男の前にしゃがみ込み、優しく言う。
「いるよ。神様はいつも、私たちを見守ってくださっている。一緒に行こう。新しい土地で、神様と安心して暮らせる場所を作ろう」
男は涙を浮かべながらうなずいた。
新たな部族の人々は開拓団に加わり、再び人数が増えた。
移動して七日目、開拓団はさらに別の部族を助けた。
この部族は触手に対して大きく怯えていたが、ソラとヒナの説得と、実際に触手の温かさを体験したことで、徐々に心を開いていった。
「本当に……神様の一部なのか……」
「神様……」
部族の人々は互いに顔を見合わせ、徐々に納得の表情を浮かべた。
開拓団の規模は、助けた部族を吸収するごとに大きくなっていった。
当初の百五十人から、二百五十人近くにまで増えていた。
ソラが触手に寄りかかりながら、リョウに話しかけた。
『神様、新たな部族の人々を助けることができましたね。みんな、最初は怯えていましたが、今は少しずつ理解してくれてうれしいです』
リョウの声がソラの頭の中に優しく響いた。
『よくやった、ソラ。新しい部族の人々を導いてやってくれ』
ヒナも触手に手を当てて、思いを伝える。
『神様、私はこの人たちが、神様の愛情を感じられるようにします』
リョウの声が再び響く。
『ヒナも、よく頑張っている。これからも、よろしく頼む』
開拓団はさらに前へ進んでいた。
人数が増えたことで、警戒も強くなり、移動のペースは少し落ちていたが、士気は高かった。
ソラとヒナが先頭に立ち、人数が増えたため警戒のために触手は後方から、皆と共に新しい土地へと向かう。
助けた部族の人々は、最初は怯えていた触手を、今では少しずつ信頼の目で見つめていた。
「本当に……神様は存在したのだな……」
一人の老人が静かに呟いた。
その言葉が、開拓団に新たに加わった部族全体に静かに広がっていった。
開拓地までは、まだ数日の距離があった。
一行は、増え続ける部族と共に、ゆっくりと前へ進んでいた。




