4話
ティアが先頭を歩き、部族の人間たちがその後ろにぴったりとついて歩く。
男たちが時折地面を確かめながら進み、女たちが子供たちの小さな手を離さないようにして。
リョウは集団の後方から全体の動きを確認しながらついていく。
道は徐々に開け、木々がまばらになってくる。
歩き続けさらに時間が経つと、前方に少し広い平地が見えてきた。
そこは草が短く生えていて、近くに小さな川が流れている。
男の一人が立ち止まって周囲を見回し、声を低くした。
「このあたり……モンスターの気配がほとんどないな」
女の一人が子供を抱き直しながらうなずいた。疲れた顔にわずかな安堵が浮かぶ。
ティアは集団の前で振り返り、皆に視線を配った。
よさそうな場所だと思ったリョウはその場で触手をゆっくり広げた。
彼は自分の魔力を、周囲の空気に溶け込ませるよう放出する。
魔力は周辺に広がり、この場所をリョウの縄張りとして、強力な魔力により強く主張する。
モンスターだけがその力を感じて、逃げ出して、近づけなくなる。
魔力の感知能力の低い、普通の獣や鳥、川の魚はそのまま残る。
リョウはティアに行動の意味を念話で伝え、ティアはそれ皆に説明した。
「神様がこの場所を縄張りにしてくれました。これでモンスターは近づけません。普通の動物や魚はいるので、食料に困ることはありません」
年配の男が顔を上げ、ゆっくりと周りを見渡した。
彼は棍棒を杖の様に地面に立てながら、まだ完全には信じきれない様子で口を開いた。
「本当にモンスターが来ないのか? ティアの言う通りなら、ここで少し休めそうだ」
髭の生えた男が川の方へ歩み寄り、水面を覗き込んだ。
彼は、川底に魚の影が見えるのを確認して声を上げた。
「魚がいる。捕まえられそうだ」
「こっちにはシルルの実があるわ」
女たちは、近くの木に実っている小さな赤い果実を見つけた。
一人が手を伸ばして実を摘み、子供に渡す。
子供は実を口に運びながら、初めて笑みを浮かべた。
ティアはリョウに視線を向け、小さくうなずいた。
彼女の頭の中に直接、リョウの声が届いた。
『ティア。縄張り内なら安全だから、人間たちに自由にするように伝えろ。ティアも好きにしていい』
『私は神様のそばに』
ティアは皆の中心に立って声を上げた。
「神様の縄張りだから安心してください。木の実もたくさん落ちていますし、川で魚を取れば食べ物は十分です。みんな自由にしてください。私は神様のそばにいます」
人間たちは思い思いに行動を始めた。
リョウは魔力をさらに少し広げて縄張りを固める。
彼は触手を地面に這わせて周囲を巡らせ、モンスターの気配がちゃんとなくなっているか確かめた。
感知範囲内に、モンスターの気配はなく、小動物が茂みから顔を出し、川の水音が穏やかに響いていた。
(よし、問題ないな。モンスターだけ寄せ付けない縄張りが作れたり、魔力って本当に便利だ。人間たちの定住が上手くいけば、人口も増えて色々発展していくだろうな……。将来的には俺を打ち倒そうなんてやつも出てくるかも。そうなっても負けないように鍛えておかないとな)
未来を想像して、リョウは内心一人で笑う。
女と子供たちが、摘んだ実を配り歩く。
そんな中、男の一人が川辺で石を積んで簡単な仕掛けを作り、魚を狙う準備を始めた。
彼はティアに声をかけた。
「ティア、魚が取れたらみんなで分けるぞ。神様にも何かお供えした方がいいのか」
『俺に食事は必要ない』
俺の言葉を聞き、ティアは首を横に振って答えた。
「神様はそういうものは必要ないそうです」
女たちが周りの草むらを探り、食べられる根や葉を集め始めた。
年配の男が集団の端に座り、遠くを眺めながら小さく息を吐いた。
彼はこの突然の安全に戸惑っていた。
リョウは集団の少し離れた位置で、ティアと静かに部族の人間を見守っていた。
彼は時折、寄生した触手を介してティアの体内の強化をそっと進める。
人間たちは徐々にこの場所に慣れ、背の低い草の上に寝転がったり、川の水を飲んだりし始めた。
ティアは皆の様子を確認する。
男の一人が地面を平らに整え、簡易の寝床を作る場所を決め始めた。
女が子供を抱えてそのそばに座り、安心した声で言った。
「ここなら夜も大丈夫そうね」
ティアはリョウの方を見て、頭の中で言葉を伝える。
『神様、この場所で皆は暮らせそうです』
リョウは触手を軽く振って返事をした。
彼は内心で軽く満足していた。
(自然が多くて、食料に問題がないおかげで、すぐに生活が成り立つな。動物や魚はともかく、木の実に関しては魔法で成長の促進も出来そうだし、1年中実らせ続けることもできるから、人数が増えてもそうそう食糧問題もないだろう。たぶん。俺は縄張りを適当に守るだけで、のんびり神様ごっこやって、楽しむ。今の娯楽はティアを育成して、完全にファンタジー世界の人間にすることだな。適当に始めた神様ごっこだけどなかなか楽しいもんだ)
集団は平地に散らばり、追加で木の実を集めたり、川から水を運んだりし始めた。
子供たちが周りを走り回り、女たちがそれを優しく見守る。
男たちが交代で周囲を巡回し、万一に備えたが、モンスターの影は全くなかった。
男の一人が川で捕まえた魚を、皆に示しながら笑みを浮かべた。
「これで夕飯にありつける」
女たちがうなずき合う。
リョウはそんな光景を眺め、魔力を縄張りに染み込ませるように広げる。
この場所が人間たちにとって住みやすい基盤になるように。
集団の動きは穏やかになり、誰もが少しずつこの平地に馴染んでく。
人間たちはモンスターの脅威から解放されたこの場所で、彼らはようやく長い息をつけた。




