3話
ティアが先頭に立って歩き、部族の人間たちがその後に続く。
男たちが棍棒を握りながら周囲を警戒し、女たちが子供たちの手をしっかり握っている。
リョウは集団の少し後ろから全体を見渡していた。
道は開けた草地が続いていて、ところどころに低い茂みがあった。
歩き始めてから少し時間が経った頃、突然前方から低い唸り声が聞こえて、一匹のモンスターが茂みから飛び出してきた。
モンスターは体長が二メートル近くあり、四本の脚にで地面に力強く踏みつけ、牙をむき出しにして威嚇している。
男の一人がすぐに叫んだ。
「モンスターだ! 皆、気をつけろ!」
女たちが子供たちを抱き寄せて後ろに下がる。
子供の一人が泣き声を上げ、男が棍棒を構えて前に出た。
そんな中、ティアの小さな体が軽く前傾し、黒い髪が風にさらりと揺れる。
華奢な体だが、寄生した触手から送り込まれた魔力がその全身に満ちている。
モンスターがティアに向かって一直線に突進してくる。
ティアは迷わずモンスターに一直線に駆け寄り、モンスターの前足が振り下ろされる寸前で横に跳んだ。
素早いステップで胴体に飛びつき、小さな拳を腹部に叩き込んだ。
拳がめり込んだ瞬間、モンスターの体が大きく震え、苦痛の唸りが漏れた。
ティアはさらに体を回転させてモンスターの首のあたりに肘を打ち込み、脚を思いっきり蹴り飛ばしバランスを崩させる。
モンスターは地面に叩きつけられ、脚をばたつかせたが、ティアはすぐにその首に馬乗りになった。
彼女は両手でモンスターの頭を押さえつけ、力を込めて地面に押しつけた。
モンスターの動きが徐々に弱くなり、最後に体をびくりとさせて動かなくなった。
男たちが息を飲んでその様子を見ていた。
髭の男が棍棒を構えたまま、目を見開いていた。
「ティア……」
年配の男が、呆然と呟いた。
「それが巫女の力か。……本当に神様の力が宿っているんだな」
女の一人はティアの小さな背中を見つめ、その強さに内心で戸惑いながらも、モンスターが倒されたことに安堵の息を漏らした。
ティアはモンスターの体から降り、息を整えながら皆の方を向いた。
彼女の頰に少し汗が浮かんでいるが、魔力の効果により呼吸はすでに落ち着きを取り戻していた。
「みんな、大丈夫です。神様の力があれば、こんなモンスターは簡単に倒せます」
リョウは後ろからその光景を静かに見守っていた。
寄生した触手を介してティアの体調を確認し、疲れを癒すように魔力を少し補給した。
内心で軽く笑う。
(すごいな、ティア。強化したとはいえ、あんなにあっさり倒せるなんて格闘戦のセンスがあるんじゃないか? 小さな少女が強いってギャップはいいもんだ。他の人間たちのびっくり顔も面白い)
男の一人がティアのそばに近づき、倒れたモンスターを棍棒で軽く突いて確認した。
彼はまだ警戒を解ききれない様子で、ティアに声をかけた。
「本当に一人で倒せるのか。危なくないか?」
ティアは首を横に振った。
皆を見回しながら、はっきりとした声で答えた。
「危なくありません。神様が私に力を与えてくれているんです。これで皆を守ります」
女たちが子供たちを落ち着かせながら、少しずつ輪を縮めてティアの周りに集まってきた。
女たちの表情には、驚きと安堵が入り混じっている。
リョウは危険がないか軽く周囲を確認し、安全を再確認する。
近くに他のモンスターの気配はないようだった。
彼は集団の後ろからゆっくりと近づき、ティアの隣に行く。
ティアはリョウに視線を向け、小さく微笑んだ。
彼女の頭の中に直接、リョウの声が響いた。
『よくやった、ティア。巫女として立派だ。これからも頼むぞ』
ティアは小さくうなずき、皆に向かって続けた。
「神様も褒めてくれました。さあ、みんな。安全な場所を探しましょう」
男たちが互いに顔を見合わせ、ティアを先頭に再び歩き始めた。
またリョウが後ろから集団を見守る形をとる。
女の一人がティアの横に並び、優しく肩に手を置いた。
「ティア、ありがとう。あなたがいてくれて本当に助かるわ」
ティアは女の言葉にうなずきながら、歩みを進めた。
彼女の足取りは軽い。
集団全体の雰囲気は、先ほどモンスターに襲われた直後なのに、落ち着きを取り戻していた。
リョウは皆の後ろから魔法で道の先をチェックし、必要なら石を投げて小さなモンスターを片付ける。
彼は内心で満足感を味わっていた。
(ティアが巫女として活躍してるの見てるだけでいいなんて、俺は楽なもんだ。人間たちも、ちゃんとついてきてるし)
人間たちはティアを中心にまとまりながら、ゆっくりと歩き続けていた。
ティアは時折後方のリョウを振り返り、信仰のこもった目で見つめる。
男の一人がティアに並んで歩きながら、低い声で尋ねた。
「ティア……次にモンスターが来たら、またお前が戦うのか」
ティアは迷わず答えた。
「はい。神様の力があれば、何匹来ても大丈夫です。皆は私を信じてください」
女たちが子供たちを連れながら、ささやき合う声が聞こえた。
警戒の目はまだ完全には消えていなかったが、ティアの行動で皆の心に少しずつ信頼が芽生え始めていた。
リョウはそんな様子を後ろから見ながら、魔法で周囲を確認しながら集団の安全を保っていた。
集団はさらに先へ進み、開けた場所を抜けて少し木々の多いエリアに入った。
ティアは先頭で周囲を注意深く見回し、強化された感覚で小さな物音にも敏感に反応していた。
男の一人が地面に落ちていた太めの枝を拾い上げ、簡易の武器として持った。
皆がこれまでの生活で培った慎重さを保ちながらも、ティアとリョウの存在に少しずつ頼るようになっていた。
人間たちの歩みは続き、ティアの小さな背中が集団を導いていく。
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