27話
朝、小さな布の袋を肩にかけた子供たちが広場で、ティアとラファの前に並んでいた。
ラファが、並ぶ子供たちに声をかける。
「今日は神様の力を縄張りの外で、見せてもらいます。ちゃんとついてきてね」
リョウから切り離された触手の一部が、先頭に立って歩き出す。
その後ろにティアがついていき、子供たちが続く、最後方からラファが子供を見守る形になる。
一行は村を抜け、数時間かけて、縄張りの境界を越えた。
縄張りの外の道が整えられているわけがなく、地面の感触が変わり、木々が少し密集し始める。
子供の一人が後ろで小さく息を飲む。
切り離された触手。
それはリョウが群体となったことで、それもまた本体と変わらない存在になっている。
子供たちはその触手が神様の一部だと教えられており、時折かすかに信仰心の宿る視線を向ける。
森が深くなるにつれて空気が重くなっていく。
一人の女の子がティアの袖をそっと掴んだ。
彼女は、外で家族と逃げ回っていた記憶を思い出し、不安そうな顔をしている。
突然、低い唸り声が前方から聞こえてくる。
牙狼が二匹、茂みから飛び出してきた。
子供たちの足が止まる。
リョウの触手が素早く動き、一本が牙狼の首に巻きつき、もう一本が胴体を締め上げた。
牙狼は体をくねらせて抵抗したが、すぐに動きが止まる。
触手はもう一匹の牙狼にも絡みつき、地面に叩きつけた。
骨の折れる音が小さく響き、二匹は完全に動かなくなる。
子供たちは、その光景を見て息をのむ。
微笑みながら、ティアが子供たちに言う。
「モンスターがやってきても神様の触手が、皆をこうやって守ってくれるの。神様がいるから、皆は縄張りで安心して暮らすことができてるんですよ」
ラファが子供たちに目をやりながら続ける。
「皆はちゃんと覚えてるかな? 神様の縄張りに来るまで、外はいつもこんな風に危なかったよね」
一人の女の子が体を震わせながら、信仰の色を深くした目でリョウを熱心に見つめている。
彼女は過去に牙狼に追われて村に来た子だった。
モンスターをリョウの触手が一瞬で片付けた様子を見て、目を見開いていた。
「神様……すごい……」
縄張りの外で生活していた子たちは、体を固くしていた。
彼らはモンスターに追い回され、家族を失った記憶がまだ残っている。
だが、リョウの触手がモンスターをあっさり倒す姿を見て、肩の力がゆっくり抜けていく。
その様子を確認したティアが、子供たちを見回し言う。
「神様はいつもこうして守ってくれる。外に出ても安心できるのは、神様がいるからだよ」
ラファが一人の角人の子を抱き寄せながら言った。
「怖かったよね。でも今は神様がいるから、皆守られるの」
子供たちは触手が倒したモンスターの死骸を遠巻きに見る。
誰もが言葉を失いながらも、目には確かな光が宿り始めていた。
縄張りの外の恐怖を知る子たちは、熱のこもった目で触手の動きをじっと見つめていた。
一行はさらに少し進んでから引き返した。
子供たちの足取りは出発時より軽くなっていた。
村の入り口が見えてきた頃、一人の男の子がティアに近づいた。
男の子は興奮して震える声で言う。
「巫女様……神様、本当に強いんですね」
ティアはうなずきながら彼の頭を軽く撫でた。
子供たちは朝集合した広場の方へ向かいながら、小さな声で今日見たことを話し合っていた。
広場で解散した子供たちは、それぞれの家に戻りながら、触手の動きを何度も思い返すのだった。




