26話
朝の村のある建物に、子供たちが集まってきていた。
簡素な木造の小屋。
そこは学校として建てられた建物だ。
多種族の子供たちが床に直接座り、互いに体を寄せ合うように並んだ。
ティアが教室の奥に立ち、皆を見渡した。
彼女はゆっくりと息を吸い、静かに授業を開始する。
「今日はまず文字の勉強から始めましょう」
ティアは机に置かれた平らな板を取り、指に染料をつけ、ゆっくりと線を引く。
彼女は板に「神様」という文字を書きながら、言葉を続けた。
「神様とはこうやって書きます。神様の二文字は一番最初に覚えましょう」
子供たちは体を乗り出して板を見つめる。
ティアは板を持って、一人ひとりに見せて回る。
それが終われば、お手本として一人一人に、指でなぞらせた後、一枚ずつ板を渡し、神様の二文字を書かせる。
間違えがあれば、板の表面を削り書き直させ、問題なければ、何度も書いた文字をなぞらせる。
慣れてくれば、板の表面を削り、何度も何度も書かせる。
ティアの手本と見比べ、他の子と見比べ、少しずつ全員の文字が上手くなっていく。
ある程度経つと、ティアが子供たちの手を止めさせ、文字の授業の終わりを告げる。
「今日はこれで、文字の授業を終わります。10分の休憩をした後に、ラファが来て数字の授業をします」
お手洗いを済ませたり、時間までゆっくりしているようにと言い、10分の砂時計を置いて、ティアは教室から出て行った。
子供たちがそれぞれにゆっくりしていると、入り口からラファが入ってくる。
机の板を手に取ると、、彼女は言う。
「今度は数字の授業だよ。神様が守ってくれる村には、何人いるか数えてみよう」
子供たちが指を折りながら数を数え始めた。
ラファは板に数字を書きながら、ゆっくりと説明をする。
数字を教えつつ、実際に起こった村人の増減で、計算を教える。
子供たちに数字を書かせ、例えを出し、数の増減の計算をさせる。
理解の怪しい子には、周りが手助けし、子供たちはどんどんと学習していく。
「神様のおかげで、村は人がいっぱいいて、物もたくさんあるんだよ」
ティアは数字の授業をしながらも、合間合間に、神様のおかげ、神様がいるから、神様に感謝を、など神様に対するポジティブキャンペーンを行う。
一人の蒼人の子が手を挙げた。
「巫女様、神様はいつも見守ってくれて、私たちが安全に暮らせてるんですよね」
ラファはうなずき、数字の横に神様の文字を書き足した。
彼女は子供たちの顔を順番に見ながら言葉を続けた。
「そうだよ。神様がいるから私たちは安全に暮らせる。毎日感謝の気持ちを忘れないように。神様に見捨てられて、縄張りの外で暮らしたくないよね?」
ラファの言葉に、和気あいあいとしていた教室の空気が凍り、シーンとなる。
子供たちは縄張りの外にいたころを思い出し、中には泣き出す子もいる。
「しっかりと勉強して、神様に感謝して、みんなで協力して神様のために生きていきましょう」
ラファは、新しい計算問題を出し、泣いている子を今の生活のために、頑張ろうと励ます。
次第に教室の空気は落ち着いていき、子供たちは数字の勉強を必死に進めていく。
人間の子が獣人の子に肩を寄せ、角人の子が蔓人の子に小声で教える。
子供たちは時に協力し合い、小屋の中は真剣な空気に包まれていた。
ラファにより、緊張感のある数字の授業が終わり、休憩時間を挟み次の授業が始まる。
教室にティアが再びやってきていた。
ラファも教室に残っており、次の授業は2人体制となる。
彼女は子供たちに板を回しながら、静かに語りかけた。
「神様は触手で私たちを守ってくれてます。見た目が怖くても、心は優しいんですよ」
子供の一人が目を輝かせて聞いた。
「巫女様、神様に会いたいです」
「そうですね。近いうちに会う機会があるでしょう」
ティアは微笑みながらうなずいた。
彼女は神様の優しさを一つずつ言葉にし、子供たちの記憶に残るように繰り返す。
ラファも横から補足を加え、子供たちが感謝の気持ちを自然に持つように誘導する。
授業は短い休みを挟みながら続いた。
文字の書き方を何度も練習し、数字を数えるゲームを繰り返した。
その合間に神様の話が必ず入った。
子供たちは手を動かしながらも、耳を傾け続ける。
ティアは最後に板を胸に当て、皆を見回した。
彼女は静かに声を落として言った。
「今日はここまで。家に帰ったら、神様に感謝する時間を必ず作ること」
ラファが子供たちを順番に抱き寄せ、頭を優しく撫でた。
子供たちは小屋から出て行きながら、今日習った文字と数字を口の中で繰り返していた。
ティアとラファは小屋の入り口に並んで立った。
二人は互いに視線を交わし、静かに息を吐いた。
村の広場では子供たちがそれぞれの家へ散らばっていった。
授業は週に三回だけだ。
でもその短い時間に込められた内容は濃く、子供たちの心に深く染み込んでいく。
村の時間は穏やかに過ぎていくのだった。




