25話
男女の角人が助けられてから、数年後。
村の朝は賑やかになっていた。
家々が広がり、道がいくつも交差するようになった。
村では、さまざまな種族がそれぞれの作業を始めている。
人間の女が洗濯物を干し、獣人の男が薪を運び、角人が石を積んで壁を補強し、蒼人が水桶を担いで歩いていた。
ティアは広場の中央に立って全体を見渡す。
彼女の黒い髪は数年前と変わらず肩まで伸び、幼い顔立ちもそのまま。
寄生した触手が体を不老に保ち、彼女の姿を一切変えなかったのだ。
ラファもティアの隣に並ぶ。
灰色の短い髪と細い体つきは以前のままで、ただ目元に少し落ち着いた光が加わっている。
彼女も寄生した触手のおかげで、容姿は数年前のままだ。
村の人間たちが二人に気づき、次々に頭を下げる。
一人の男が薪を下ろしながら声をかけた。
「巫女様、おはようございます」
女の一人が洗濯物を抱えたまま近づいてきた。
「ティア様、今日も村の様子を見回りに来てくれたんですね」
ティアは小さく微笑んでうなずいた。
ティアは皆の顔を順に見ながら、静かに歩き始めた。
村は半径五キロまで広がった縄張りの中心にあり、以前の小さな集落から大きく拡張されている。
数年前、ティアとラファは別々に縄張りの外へ探索に出た。
ティアは東の森を巡り、角人や蒼人の部族を探して声をかけ、危険から守る場所があると伝えた。
ラファは西の川沿いを歩き、蔓人や鳥系の獣人を見つけて同じように誘った。
二人は何度も縄張りの外へ出ては、弱った種族を少しずつ連れて帰った。
モンスターの脅威に怯え、逃げ続けるしかなかった者たちが、次第に村に流れ込んできた。
今では人間、獣人、角人、蒼人、蔓人が一緒に暮らす規模になっている。
広場の端で角人の男が家に使う大きな石を積み上げていた。
彼はティアに気づくと作業の手を止め、丁寧に頭を下げる。
「巫女様、今日もありがとうございます」
蔓人の女が近くの畑から顔を上げ、緑がかった手を軽く振った。
「ラファ様、水やりを手伝ってくれますか」
「いいですよ」
ラファは蔓人の女のそばに寄り、桶を一緒に持ち上げた。
彼女は楽しそうに、村人の仕事を手伝う。
ティアも別の蔓人の女に野菜の収穫に誘われ、それを手伝う。
「巫女様、お礼に後で果物を届けますね」
手伝いを終えたティアとラファは、歩きながら村の様子を確かめる。
新しい家が増え、道が整備され、さまざまな種族の子供たちが遊んでいる。
村は誰もが安心して暮らせる場所になっていた。
ティアは広場の中央に戻り、皆の作業を見守った。
寄生した触手が二人の体を不老に保ち、数年経っても姿が変わらない。
それゆえに村人は二人の名に様をつけるか「巫女様」と呼びはじめ、敬意を込めて接するようになった。
そこにティアたちは寂しさも感じるが、巫女としてそれを受け止めた。
リョウの縄張りは今や半径五キロに広がり、モンスターはさらに遠ざけられた。
村自体も拡張され、様々な種族が混ざり合いながら日々を過ごしている。
ティアはラファと並んで歩きながら、小さく息を吐いた。
彼女は村の端を見やり、静かに次の縄張りの外への遠征を考えていた。
ラファは周囲を見回し、皆の様子を確かめる。
村は縄張りの外とは比べられない、楽園になっている。
二人の巫女が変わらぬ姿のまま、その楽園に立っていた。
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