16話
次の日の午後。
リョウは触手を一本、ゆっくりと自分の本体から切り離した。
切り離された触手は床の上に落ちた瞬間も、触手は本体と完全に意識が繋がったままだった。
独立した触手が床の感触をそのままリョウに伝え、視界も音もリアルタイムで共有される。
リョウは触手を、神殿の外まで這わせる。
『おお、すごいな。これは俺の目と耳が複数になったようなものだ』
リョウの声がティアとラファの頭の中に直接響く。
二人は神殿の床に座ったまま、静かにその様子を見守っている。
リョウはさらに力を込めて、もう一本の触手を切り離した。
二本の触手がそれぞれ独立して動きながら、本体と同じ知覚をリョウに送り続ける。
切り離した時点で与えた力の量で強さが決まるが、時間とともに成長もする。
必要なら本体に戻して再び融合させることもできる。
リョウは満足した様子で触手を動かす。
『これで俺は群体だ。本体一つの思考じゃなくて、複数の視点で同時に物事を見られるようになった』
彼はさらに二本の触手を切り離し、神殿の外周を巡らせる。
縄張り内は魔法で知覚できていたから、今回の変化の真価は縄張りの外に出た時に発揮される。
複数の思考がリアルタイムで並行して動く感覚を、リョウは味わっていた。
『今まではリモートで一つずつ考えていたけど、これからは同時にいくつものことが進められそうだ。ティア、ラファ来てくれ』
ティアとラファは呼ばれ、リョウに近づく。
リョウは近づいてきた二人に触手を伸ばし、腹部に寄生している触手を、慎重に引き抜く。
痛みはなく、ただ温かい何かを喪失した感覚だけ残った。
リョウは引き抜いた寄生触手を自分の本体に戻し、そのまま二人の腹部に再度押し当てる。
触手が再び体内に入り、寄生する形で根を下ろす。
今度は寄生触手そのものがリョウ自身となり、二人の結びつきが格段に強くなった。
『これで俺の一部がお前たちの体の中にしっかり根付いた。離れていても、俺とお前たちの繋がりはもっと深くなる』
ティアは自分の腹に手を当てて小さくうなずいた。
ラファも同じように触手を体内に感じ取り、安心した表情を浮かべた。
リョウは二人の視界と聴覚を同時に共有しながら、複数の触手を動かし続ける。
神殿の外では切り離した触手が村の様子を見て回っていた。
人間たちが家々の前で作業をし、獣人たちが仮設小屋の周りで動き回るのが、すべてリアルタイムでリョウに届いた。
複数の視点が同時に処理される感覚が、頭の中で広がっていく。
『今までは一つの目でしか見えなかった世界が、急に何倍にも広がった感じだ』
リョウは切り離した触手をさらに遠くへ送り、縄張りの境界近くまで移動させた。
そこから見える森の景色が、本体と行くのと変わらない鮮明さで伝わってくる。
リョウは二人の頭の中に再び声をかけた。
『これからは俺の視点がいくつも増える。お前たちも、俺の一部として一緒に強くなっていこう』
二人の巫女は寄生触手を体内に感じながら、リョウの新しい力を静かに受け入れる。
村の時間は、穏やかに流れていくのだった。




