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魔力ゼロ探偵と美少女たちの魔法学園事件簿 ~その事件、魔法じゃありません!~  作者: にめ
1学年前期:ボタニカル・マギアフェスタ

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第80話 咲いた花と、未来を告げる香り(2)

第80話 咲いた花と、未来を告げる香り





 今回は、ルミエールだ。


 金髪。


 光属性。


 明るい笑顔。


 責任感。


 そして、ときどき普通の少女のように照れる顔。


 蒼真は真剣に花を選び始めた。


 白い小花。


 淡い黄色の花。


 少しだけ青みを帯びた小さな花。


 金髪を引き立てるなら、黄色だけでは単調になる。


 白で柔らかくし、青を少しだけ入れる。


 ルミエールの光に、空の色を足すような感じだ。


 スタッフの女子生徒が横から声をかける。


「すごく真剣ですね」


「せっかくだから」


「贈る相手が大事なんですね」


「大事……」


 蒼真は少し考えた。


 ルミエールは友人であり、クラスメイトであり、何度も事件を通じて関わってきた相手だ。


 最初にこの世界で出会った被害者。


 ルミナスブルームの前でキスをした相手。


 大事ではない、と言えば嘘になる。


「そうですね。大事な人です」


 蒼真が素直に答えると、少し離れた椅子に座っていたルミエールがびくりと反応した。


「蒼真さん……?」


「どうした?」


「い、いえ」


 彼女は鉢植えを抱え直し、顔を赤くして俯いた。


 蒼真はなぜ赤くなったのか分からないまま、花冠作りに戻る。


 不器用ながらも、一本ずつ丁寧に編んでいく。


 花の向きが揃うように。


 色の配置が偏らないように。


 ルミエールの髪に乗せた時、自然に見えるように。


 思ったより時間がかかった。


 けれど、完成した花冠は、前より少しだけ上手くできている気がした。


「できた」


 蒼真はルミエールの前へ戻る。


「本当に?」


「ああ。少し不格好かもしれないけど」


「見せて」


 ルミエールが期待に満ちた顔で見上げる。


 蒼真は花冠を両手で持ち、そっと彼女の金髪の上へ乗せた。


 白と黄色の花が、金色の髪に柔らかく溶け込む。


 小さな青い花が、光の中に涼しさを添える。


 予想以上に似合っていた。


「……似合う」


 蒼真は思わず言った。


 ルミエールは固まる。


「本当?」


「ああ」


「変じゃない?」


「変じゃない。すごく似合ってる」


「っ……」


 ルミエールは顔を赤くしながら、近くの鏡へ向かった。


 鏡に映る自分を見て、目を輝かせる。


「わ……」


 その声は小さかったが、喜びがあふれていた。


「ありがとう、蒼真さん」


「気に入ったか?」


「すごく」


 ルミエールは花冠にそっと触れる。


 壊れ物のように、大事そうに。


「これ、持って帰れるの?」


 スタッフが答える。


「もちろんです。保存用の小瓶に魔力保存液を入れれば、数日は綺麗なまま保てますよ」


「では、それもお願いします」


 ルミエールは即答した。


 蒼真は少し笑う。


「そんなに気に入ったのか」


「気に入ったわ。蒼真さんが作ってくれたものだもの」


 今度は蒼真が少し黙った。


 ルミエールは言ってから、自分で赤くなる。


「……今のは、その、記念として大事にするという意味よ」


「ああ」


「本当よ?」


「分かってる」


「本当に?」


「たぶん」


「もう」


 ルミエールは照れながら笑った。


 花冠づくり体験を終えると、二人はまた通りを歩き出した。


 ルミエールの頭には花冠。


 手には黄色い花の鉢植え。


 その姿は、まるで植物祭そのものを楽しむ姫のようだった。


 やがて、二人は小さなテントの前で足を止める。


 看板には、こう書かれていた。


 ――香り占いの花ブース。


 テントの前には、色とりどりの花が並んでいる。


 香りで性格や相性を占うという体験らしい。


 ルミエールがちらりと蒼真を見る。


「ねえ、蒼真さん」


「ん?」


「二人の相性でも占ってみる?」


「ああ、いいぞ」


 蒼真があまりにも普通に答えたため、ルミエールは一瞬驚いた。


「いいの?」


「祭りだしな」


「……そういう理由なのね」


「他に理由が必要か?」


「いえ。いいわ」


 ルミエールは少しだけ不満そうにしながらも、嬉しそうだった。


 テントの中には、年配の女性が座っていた。


 深緑のローブをまとい、髪には小さな白い花を挿している。


 占い師というより、薬草師のような雰囲気だった。


「いらっしゃい。香り占いかい?」


「はい。二人の相性を」


 ルミエールが少し照れながら答える。


 占い師は、二人を見比べた。


「ふむ。では、それぞれ直感で花を一つ選びなさい」


 テーブルの上には、青、黄色、白、赤、紫、緑など、さまざまな花が並んでいる。


 蒼真は青い花を選んだ。


 理由は特にない。


 ただ、静かで落ち着いた色だったからだ。


「俺はこれ」


 ルミエールは少し迷って、黄色い花を選んだ。


「私はこれにするわ」


 蒼真の青い花。


 ルミエールの黄色い花。


 占い師は二つの花を受け取り、小さな器に入れた。


 そして、目を閉じる。


 花の香りが、ふわりとテントの中に広がった。


 青い花は、雨上がりの空気のような香り。


 黄色い花は、陽だまりのような甘い香り。


 二つが混ざると、不思議と懐かしい香りになった。


 占い師の眉が、ぴくりと動いた。


「これは……」


 蒼真とルミエールは同時に顔を見る。


「何かありましたか?」


 ルミエールが尋ねる。


 占い師は目を開けた。


 その表情は、先ほどまでの穏やかなものとは少し違っていた。


「珍しい組み合わせだね」


「珍しい?」


「青は静かな観察。黄色は真っすぐな光。普通なら、青は光を避け、黄色は青を照らしすぎる。けれど、この香りは混ざっても濁らない」


 占い師はルミエールを見た。


「お嬢さん」


「はい」


「あなたには、試練が訪れる」


 ルミエールの表情がわずかに固まる。


 蒼真も眉をひそめた。


「試練?」


「苦しい出来事だ。迷うこともあるだろう。自分を疑うこともある」


 テントの中の空気が、少し冷えた気がした。


 占い師は続ける。


「けれど」


 今度は蒼真を見る。


「この方が、きっとあなたを守る」


 ルミエールが蒼真を見る。


 蒼真は占い師を見ていた。


「守る……」


「だから、お嬢さん」


 占い師は静かな声で言った。


「この方を信じてお生きなさい」


 ルミエールはしばらく黙っていた。


 やがて、ゆっくり頷く。


「はい」


 蒼真はまだ納得していない顔だった。


「その試練って、具体的には何ですか?」


 占い師は首を振る。


「未来は曖昧だよ。香りは形を持たない。けれど、流れは告げている」


「流れ……」


「考えすぎると、香りは逃げる。今は、心に留めておくことだね」


 それ以上は教えてくれなかった。


 占いを終え、二人はテントを出る。


 外の明るさが戻ってくる。


 祭りの音。


 笑い声。


 屋台の呼び込み。


 さっきの言葉だけが、少し現実から浮いているようだった。


「楽しかったな」


 ルミエールが先に言った。


 その声は明るかった。


 けれど、少しだけ考え込んでいるようでもある。


「そうだな」


「なんだか、初めて会った日を思い出したわ」


「旧校舎の事件か」


「うん」


 ルミエールは花冠に触れる。


「あの時も、助けてくれた」


「俺は、原因を調べただけだ」


「それが、私には助けだったの」


 ルミエールは蒼真を見る。


「ありがとうね」


「どういたしまして」


 蒼真は短く答えた。


 ルミエールは少し笑う。


「やっぱり蒼真さんは、そういうところが蒼真さんね」


「どういう意味だ?」


「そのままの意味」


「分からない」


「分からなくていいの」


 ルミエールは前を向いた。


 けれど、蒼真は少し考え込んでいる。


「試練って何だろうな」


「気になる?」


「気になるだろ」


「蒼真さんらしいわ」


「そうか?」


「ええ。気になることがあると、ずっと考え続けるタイプでしょう」


「否定できない」


「ふふ、そんな感じする」


 ルミエールは笑った。


「でも、今から考えても仕方ないわ」


「それはそうなんだが」


「未来の試練より、今の植物祭を楽しみましょう?」


 蒼真は少しだけ黙る。


 それから頷いた。


「そうだな」


「うん」


 二人は並んで歩き出した。


 ルミエールの頭には、蒼真が作った花冠。


 手には、自分の魔力で咲かせた黄色い花。


 その姿を見て、蒼真はふと思った。


 占い師の言葉が当たるかどうかは分からない。


 試練が何を意味するのかも分からない。


 けれど、もし何かが起きるなら。


 その時、自分はどうするのか。


 答えは、たぶん最初から決まっている。


 事実を見て。


 嘘をほどいて。


 守れるものは、守る。


 蒼真がそう考えていると、ルミエールがふいに足を止めた。


「あ」


「どうした?」


 彼女の視線の先には、花々で飾られた一角があった。


 大きな花のアーチ。


 蔦で作られたベンチ。


 光る花びらが舞う小さな広場。


 そこには看板が立っている。


 ――魔法植物フォトスポット。


 ルミエールの瞳が、また輝いた。


「あそこのフォトスポット……」


 蒼真は看板を見る。


「写真?」


「うん」


 ルミエールは少し恥ずかしそうに笑った。


「蒼真さん、写真撮ろうよ」


 花冠が風に揺れる。


 黄色い花が、彼女の手の中で淡く光る。


「せっかくの思い出だもの」


 蒼真は少しだけ考え、頷いた。


「ああ。いいぞ」


 ルミエールの顔が、ぱっと明るくなった。


 植物祭の午後は、花と光の中で、まだ続いていく。

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