guilty 47. 友人の妹(ver. メイドさん) が行かず後家の命令でイッヌの物真似をしたら俺の愚息が切なくなってしまった
「ヒッヒッヒッ、これはこれは……誰かと思ってたら萎木くんじゃあないか」
行かず後家が魔女のような邪悪な笑みを浮かべながら俺に声を掛けてきた。ていうか、煙草を口に咥えながら普通にキッチンに入ってきた。いや、おばさん、ココ禁煙です。そして俺は萎木くんじゃなくて植木くんである。突っ込んだら何かアイスピックで思いきり刺されそうで怖いから指摘しないけど。
「いや、あの……ここ、関係者以外立ち入り禁止なんですけど」
「だあれが、関係者じゃないって、ああん!? おち●んちん萎木ぃ!?」
ダンプカーのような勢いでカウンターに乗りだし、獣のような声で威嚇する大沢先生。あの笑顔が星のように素敵な美夜さんと血の繋がった姉妹とは到底思えない悪魔のような形相である。モエモエメイド喫茶に居ていい人種じゃないだろ。一部の客は何故か股間を押さえながら『あ、ありがとうございます!』とお辞儀している。スラム街かな。
「か、関係者じゃないって……大沢先生はここの関係者なんですか?」
「ああ、そうだよ。私はここのオーナーだからねえ。この店に足を踏み込んだ瞬間、私の治外法権さ。ここでは私が法律なんだよ。可愛いメイドさんを全裸靴下で首輪をつけて犬のように従えても誰も文句は言えやしないよ」
煙草をお構い無しにぷかぷかと吹かせながら、カウンターにもたれ掛かる大沢先生。と、とんでもない奴がオーナーになったもんだ。しかし、このメイド喫茶のオーナーが大沢先生だと?正気か。この人の顔というか雰囲気がメイド喫茶と絶望的にマッチしていない。法外な金額をぼったくられるセフレ喫茶とかの方が似合っているんじゃないか。
「いや、オーナーだからってナニをしても許されるわけじゃないと思うんですけど」
「はあ? 只の一介のゴミクズバイトの萎木が私に意見するってのかい? まだ、私の怖さが分からないようだね。おいっ、そこの……金髪メイド! 四つん這いでワンッとお鳴き!」
俺の常識的な指摘が勘に触ったのか、大沢先生は近くで配膳をしていたメイドの蒼海ちゃんに指差す。え?意味が分からない、突然ナニを言い出すんだこの方は?そこはあんたの怖さを俺に知らしめるところじゃないのか。
「えっ……あ、お、オーナー。わ、分かりました……わ、わん」
蒼海ちゃんは心なしか恥ずかしそうに顔を背けながら口元を隠し、か細い声で犬の物真似をする。いや、君は君で普通にやるんかい。しかし……ヤバい、何か背徳的にイケないことをしているような妙な気分になるんですけど。
「はあああ? 声が小さいし、四つん這いにもなってんないじゃあないか! もっと! 犬の気持ちを考えて! 地べたに這いずり回る情けない犬を想像しながら! 舌を出して! 『ワン!』って鳴くんだよお! ほらっ、わんっわんっわぁああああん!」
「はっ、ヒィッ、す、すみませんっ」
大沢先生は蒼海ちゃんの犬の物真似が気に食わなかったのか、獣のように咆哮している。一体、一人で何を興奮しているんだこの良い歳こいたおばさんは。何か変な悪霊にでも取り憑かれたのかな。いや、何か巻き込まれるような形になった蒼海ちゃんが流石に気の毒になってきた。
「ちょっ、ちょっと。大沢先生、それはいくらなんでもやりすぎじゃあ」
「い、いいんです植木さん。私はダメなメイド、略してダメロイドなのでお仕置きされても口答えできないダメロイドなんです……はあっはあはあ……」
「いや、そんな特撮の怪人みたいに略されても……ていうか、君なんか心なしか興奮してなあい?」
ていうか、美少女が恥ずかしそうに右手で口元を覆いながら、左手で下腹部をスカートの上から押さえる姿が何かそそる……じゃなくて色々と僕も込み上げてくるものがあるからやめて欲しいんですけど。
「ほらあ! ぐだぐだと御託はいいからはやくワン公におなり!!」
「は、はいぃ! …………ワッ、わぁあん……」
地べたに四つん這いになり、泣きそうな表情かつ愛くるしい柴犬のような瞳で先程よりもか細くかつ扇情心を掻き立てられそうな声色で犬鳴きする蒼海ちゃん。……エッッッロ……ナニコレ、何で僕は目の前でエロ同人誌みたいなやり取りを見せられているのでしょうか。
「……ヨシッ!」
とびきりの笑顔で現場猫みたいに蒼海ちゃんに指を差す大沢先生である。な、何が、ヨシなんだ。お前の頭が危険なんだからまずはお前の頭を安全確認しろ。
「そして、萎木ぃ……ボッキ、ヨシッ」
そして振り返り、今度は俺の股間に指を差す大沢先生。
「や、やめっ……やめてくださいまし! お、俺はこ、コーフンなどしておりませぬ!!」
「あ……う、植木さん。わ、私で興奮してくださったんですね……ありがとうございます」
両手で口元を覆い、うるうるとした瞳で熱い視線を送る蒼海ちゃん。や、やめてっ、その変に熱を帯びた瞳で俺を見つめるの!お、俺の性癖が何かネジ曲がりそうで怖いです!
「き、きっつ」
そして、今の今まで傍で静観していたメイドの櫻井は両腕を抱え、俺から半歩下がりながら呟く。
「な、なにが、きついだ! お、俺の何処がきついんだよ! きついのはあの若い子に平気でセクハラをかますおばさんだろ!」
「いや、私は興奮してるのにそれを必死にひた隠そうとしている先輩の存在と股間がきついと言ってるです」
「えっ、存在? 今、俺の存在がきついと言ったか!? あと、俺の股間がきついとも言ったな!? ど、どういう意味だ!」
「そのままの意味ですよ。先輩が興奮して良いのはメイド服を装備したおじさんだけですよ。乳首の部分だけ不自然に破れたメイドおじさんの乳首を舌で弄びながら、おじさんの喘ぎ声をBGMにご自身でご自身を慰めてあげてください」
「げ、ゲロ吐きそうな妄想を平気な顔で披露するのはヤメロ! 恐いわっ、お前のアタマ!」
「そ、それに……さっき私のことお人形さんみたいに可愛いって言ってたくせに、こんなことで興奮するなんてひどい人です。とんだタラシですね」
毛先を黒電話のコードのようにくるくると弄りながら、頬を膨らませる櫻井。は、こ、こいつ……嫉妬してんのか。さっき、勢い任せに口走った言葉を気にしてんのか。案外、可愛いところあるじゃん。……いや、マテ!!俺をおじさんと意味不明な痴漢劇で恋仲にしようと企む危ないキューピィハニィなんだぞこいつは!あ、危ない危ない……ふと垣間見える年頃の乙女な姿に騙されるところであった。
「あれ? 大沢先生じゃないですか。なんでこんなところに」
配膳を終え、カウンターに戻ってきた委員長が大沢先生に声を掛けてきた。嗚呼、そういや委員長も俺と同じ学校だから当然、大沢先生と顔見知りだから知ってるわな。
「おお、優等生の佐々木じゃねえか。いや、このダメロイドがポンコツでな、お仕置きしてたんだよ」
「くうぅん……お仕置き、してください……」
まだやってたよ、この人たち。
「何を意味不明なことを……私の蒼海ちゃんに手を出さないで下さい。あ、ご注文ですね、少々お待ちください」
お前の蒼海ちゃんじゃねえよ、とツッコむ前に仕事に戻っていく委員長である。蒼海ちゃんも服を整え、そそくさとホールに戻っていく。何か去り際にもの足りそうで寂しそうな表情をしていた蒼海ちゃんが意味不明だったけど。
「ガハハハ、まあ平日にこれだけ繁盛してるのを見るだけでもオーナー冥利に尽きるわなあ、がつがつがつがつ」
二人のメイドから振られて手持ち無沙汰になったのかオーダーで出来上がった萌えライスを手掴みでモシャモシャと食いながら俺に話しかけてくる大沢先生である。冬眠後の熊か、この人。ていうか、がつがつとか口にして食いもん食う人、二次元以外で初めて見たわ。
「いや、店の売り物勝手に食わんでくださいよ。ていうか、暇なら話相手くらいしてやれよ、櫻井」
「え゛っ……いや、あの、この人……は、あはは、ちょっと……」
俺に声をかけられてビクッと身体を震わせる櫻井。ん?何でビビってんだこいつ。そういや、こいつ、大沢先生と話している時、あまり会話に入ってこなかったな。
「がつがつがつがつ、おん? 櫻井……? いま、櫻井と言ったか萎木ぃ?」
「いや、俺は萎木じゃなくて植木……え、櫻井がどうかしたんですか?」
「んー……いや、なんかどっかで聞いたことがあるような? あー、なんだろ……私の遠い昔のカレピッピの苗字と同じだったような。もしかしたら私のお腹を痛めて産んだ隠し子かもしんない」
「そ、そんなわけがないだろ、おばさん。寝言は寝てから、歳を考えて言ってよね」
「ああん? 今、なんつった小僧!? シバくぞ、こらあ!!」
げっ、思わず地が出て、考えたことをそのまま口に出してしまった!案の定、バイトが終わるまでおばさんに絡まれる俺くんであった。
「あれ? 櫻井?」
そして、この出来事を境にいつの間にか櫻井は逃げるように俺の前から姿を消すのであった。




