guilty 46. ケツに気合いを注入していたら何故かワケありのメイドどもが俺のもとに集ってきた
「オーダー通しまーす! 8番テーブルの御主人様に『萌えモエキュンきゅんたっぷりエッグで私のドキドキハートを包みこんじゃいまムライス』お願いしまーす!!」
ホールにいるメイドのお姉さんから謎の吹出物がお肌に群生しそうなお経のような謎オーダーが入る。
「あー、はいはい。オムライスね、かしこまりー」
「違うっすよ植木ニキ! 『オムライス』じゃなくて『萌えモエキュンきゅんたっぷりエッグで私のドキドキハートを包みこんじゃいまムライス』ですよ!! ウキー!」
メイドのお姉さんは猿のように喚きながらその場で地団駄を踏んでいる。な、何故、一人でエキサイトしているんだこの方は?ていうかそのお経、空で言えるのエグくない?
「はいはい、分かりましたよ……『萌えキュンライス』ツクリマース」
「略しちゃダメっすよ植木ニキ! 『萌えモエキュンきゅんたっぷりエッグで私のドキドキハートを包みこんじゃいまムライス』でオナシャス!!」
この短いやり取りでまさかその頭が悪くなりそうな呪文オーダーを三度も聞かされると思わなんだ。
見ての通り、何故か俺はメイド喫茶のキッチンでフライパンを振っていた。
「しかし、植木ニキがキッチン経験者で助かりましたよー」
メイドのお姉さんがホール越しで萌えライスを調理中の俺に声を掛けてくる。彼女は先程、同じくメイドさんの蒼海ちゃんに悲壮な表情で駆け寄ってきたメイドさんである。
「いや、確かに俺、キッチンのバイトしてたけどさ。こういうアレなお店だからメイド服着てコックしろとか狂気なお願いを言われるかと思ってたから案外普通の調理服で安心したよ」
「漫画の読みすぎっすよデコ助。粗チン野郎の貴方に女子が着るメイド服なんて着せるわけないでしょキモスギワロリンヌ」
ケラケラと笑いながら下劣な物言いをするメイドのお姉さんに内心ビクッとする。料理出来ることを褒められた後に普通にディスられたから、心のダメージが案外大きい。クッ、俺が陰キャでなければ今頃この目の前にいるふざけた女子をナマケツペンペンの刑に処するところであったが、俺は陰キャでチキンライスなので心の中でナマケツをペンぺンしよう。
「植木ニキ? 自分のお尻を叩いてどうしたんすか?」
「い、いや…。己のケツの未熟さに反省して気合いを注入しているんだ。『もっとケツに気合いを入れなさいよ、コラ!』ってな感じでね」
「はあ。何でもいいすけどそのオムライス売り物なんですからね。焦がさないようにして下さいよ」
オムライス言いおったこいつ。
指摘は最もであったため、俺は調理に戻った。話しは戻るが、俺は料理が得意で三ツ星ホテルで副料理長として働いていた経験がある。……ごめん、盛り過ぎた。近所の庶民的ボロ幽霊屋敷のような洋食屋でキッチンで働いていたのである。まあ、陰キャな俺はホールのような直接お客様と接する素晴らしい仕事は当然まともに出来なかったから最初は皿洗いから始まって流れでって具合なのだが。
「まむまむ……うーん、やっぱお兄さんのオムライスは絶品ですねえ。どこに嫁いでも文句無し」
「い、いや、売り物を試食するんじゃないですよ。サボッてないでさっさと運んで下さい」
「はーい、あ。因みに私の名前は渡辺ですけど、ザコキャラナメクジみたいなモブキャラなので覚えなくても結構ですよ」
そう言いながら渡辺さんとやらは俺のハートがたっぷりとトッピングされた萌えライスをお盆に乗せ、ホールに戻っていく。お、お前の名前なんか聞いていないし、覚えてやらない。ザコ舐めメイドのお前なんかどっかいけ。心の中で悪態を吐きながら空いた時間で山積みになった皿を洗う作業に戻る。
…いや、普通にバイトしてるけどマジで何でこうなった。いくらメイド喫茶のバイト要員が少なくなったからって普通客の俺たちにバイトさせるか?マジでイカれてるよこの店。しかし、蒼海ちゃんが床にキスしそうな勢いで土下座し、泣きそうな顔で言ったのだ。
『お、お願いしますお三方! どうか、お店を助けてくれませんか!? お、お礼に……わた、わたっ、わたし! ハラキリします!!』
ハラキリは全力で止めたが、あまりの形相と可哀想さに泣く泣く俺たち三人はメイド喫茶を手伝うことにしたのだ。そして、流されるままに俺はキッチン、櫻井と委員長はホールに配置された。つまり、ホールは蒼海ちゃんと渡辺さんを含めて四人、キッチンは俺一人。いや、ちょっと待ってよ。
「何故、俺だけキッチンでソロ活なんだ……おかしい……こんなの絶対におかしいよ……」
「ちょっと、ナニを皿洗いしながらシリアスな顔で変態的な言動をしているのよ、オーダーよ」
黙々と皿洗いしていると言葉にトゲのある声が聞こえてきた。我らが様子がおかしくなってしまった委員長である。
「お、おうよ、委員長か。どうしたの?」
「どうしたのじゃないわよ、1番テーブルのクソオタ…ご主人様にオーダーよ。『舐めんじゃねえザコ猫侍さんよお』ね。宜しく」
プイッとそれだけ口にしてその場から立ち去る委員長。
「ちょっ、ちょい待ち! な、なあにそのオーダー!? 昼間っから酔っぱらってんのか!?」
「知らないわよ。1番テーブルのクソオタ、ご主人様から言われただけよ。唐突の怪文オーダーに腹立ってしばいちゃったけれど」
しれっと悪びれもなく淡々と喋る委員長である。
「いやいや、ご主人様を殴るとかメイドととしてあるまじき行為だからさ。謝ってきなさい」
「な、何よ。凄んでも何も出てこないわよ。それに私に殴られた1番テーブルのクソオタは『あ、ありがとうございまひゅう!』とか言ってウレションしながら飛び上がって喜んでいたし、お互いにWin-Winでしょ」
何がWin-Winなのか良く分からないが、揉め事にならなくて良かったのかな。いや、ヤバいご主人様が紛れ込んでいるのはどうなんだ。……まあ、いっか。俺の知ったことではないし、どうにかする義理もない。話しは変わるが、委員長は美人ではあるが何かいつもどことなく不機嫌そうな表情だし、その気難しいそうな感じが案外とシックなメイドさんと釣り合いが取れているような気がする。
「委員長」
「……何よ」
「メイドさん、様になっているな」
「…………」
「…………」
なあに、この不穏な無言。漏らしちゃってもいいですか?
「ふ、ふん……と、当然でしょ。あとでコロスから覚悟してなさい」
委員長は腕を組んで俺から背ける。
うん?何で俺くんは殺害予告されたのだろう。理不尽すぎる委員長のありがたいお言葉にげんなりしながら作業に戻ろうとすると。
「植木!!」
「ワァ!! びっくりした……と、突然のシャウトはビックリするから。な、なに?」
「ひとつ言っておきたいのだけれど……」
真剣で燃え滾るような瞳で委員長に見つめられる俺。な、なんだ……処刑方法についての相談か?思わずゴクッと唾を飲み込んでビクビクする俺である。
「メイドの雛ちゃんは渡さないわよ」
透き通るようなくっきりとした口調でそう口にすると再び俺に背を向けホールに戻っていく委員長。う、ウーン、い、意味が分からない。怪文のような台詞にさらにテンションがダダ下がりの俺は再び作業に戻る。
「アッ……やべ。さっきの舐め猫なんとかとかいう怪文オーダーの意味を聞くの忘れてた……マジで何処の国の料理なんだ……」
「……先輩、オーダーです。11番のご主人様に『VHSってもう死語なんですかBlu-ray先輩!?』をお願いします」
だるそうな聞いたことのある声で新たなオーダーが聞こえてくる。やめてやめて、怪奇オーダーに頭が混乱しているところにさらに頭をパンクしにかかる妖怪オーダーはやめてえエエエ。
「……な、なあにそれ? は、果たしてそれは猫神様の食べ物なのでしょうかそれは」
「はあ。混乱してますね先輩。メニューをちゃんと確認しましたか? 佐々木さんがオーダーを取った『猫舐め侍』は『麻婆豆腐定食』で、私の『Blu-ray先輩』は『鯖味噌定食』ですよ、理解したらさっさと調理してください……はあ」
タメ息を吐きながら俺に謎オーダーを説明するのはメイド仕様の櫻井である。何時ものムカつくくらい自信満々なうざ口調とは打って変わってだるそうなダウナー気味なのは一体どうしたことだろう。
「あ、ありがとう。ていうか、テンション低いな。どうしたんだよ」
「はあ、どうしたもこうしたもないですよ。何で私がこんなフリフリのメイド服を着なくちゃならないんですか。馬子にも衣装……世も末ですよ」
スカートの裾を掴みながらまたため息を吐く櫻井である。自分で馬子にも衣装とか言う奴、初めて見た。
「それに、先刻からあの人に視姦されてるんですよ……おじさんに痴漢されてるみたいで気持ち悪い……」
心底嫌そうな顔で配給しているメイドの委員長を遠目で見ながら呟く櫻井。いや、おまいう?それをお前が俺に言うの?色々と納得はいかないが、何だかげんなりして元気のない櫻井を見ているとこちらまで元気が削がれていく。
「ま、まあそう言うなよ……それなりに似合ってるよ」
「それなりって、どれくらいですか? 点数で言うと?」
櫻井は『それなり』という俺の言葉が気に入らなかったのか、ジト目で頬を膨らませながら俺に聞いてくる。まさかの具体的な数値を求められてしまった。櫻井のめんどくさいムーヴが俺の首を真綿で絞めにかかってくる。さて、どうしたものか。
「そ、そうだな……ななじゅ」
「あ、待ってください。そうですね、『先輩のおじさんに痴漢進行割合(%)』で示してください。シチュエーションと根拠も添えてお願いします」
急にいつものお前に戻るんじゃねえ!!
「い、いや! お前の言っていることが斜め上過ぎて余計に分かんねえんだわ! な、なんだ、シチュエーションと根拠って!? お前一人で勝手に分析してろや!!」
「うううっ、そ、それなりってどれなりに似合ってるんですか!? 言ってくれるまで離れませんよ!!」
そう慌てた様子で俺の腕を掴む櫻井。
嗚呼!もう、面倒くせえ!!
「に、似合ってるよ! こ、小顔で可愛らしいし、その、なんつーか! 思わず頭撫でたくなるし、お人形さんみたいだし! 一家に一台置きたくなるわい!!」
面倒くささに嫌気を差して大声で宣告するように叫ぶ俺。……あ、あれ?俺、何かとんでもないことを言ったかしら。あまりの獣のような俺の咆哮に店内にいた全員が俺たちに顔を向けてきた。そのご主人様の中に見知った顔を見つけてしまった。
「……へえぇ」
保健室の行かず後家がニヤニヤとしたイヤらしい顔で頬杖をついていた。いや、お前がおるんかーい。




