guilty 45. 友人の妹(ver. メイドさん)が笑顔でスカートをたくし上げたらヤバい女と委員長と俺の愚息が元気になってしまった
「エッ……う、蒼海ちゃん?」
「う、植木さん……ど、どうして……」
口を押さえて狼狽えるような仕草見せる蒼海ちゃん(ver. メイドさん)。どうしてに続く言葉は『こんなところに居るのですか』といったところだろうか。だが、次の言葉が続かないのは彼女の謙虚さ故かあるいは動揺からかそれは俺には分からない。
「アッ……アッアッアッ、アッ」
生まれたての小鹿のようなおぼつかない足取りでヨロヨロと後ろ歩きで俺から距離をとる蒼海ちゃん。背後にあったテーブルにも尻から激突してしまい、尻餅をつきそうになる。そして、青ざめて泣きそうな表情で俺や櫻井、委員長を交互に見ながら痙攣している。い、いや、流石に動揺し過ぎじゃない?!そりゃあ、あの引っ込み思案そうな蒼海ちゃんが接客業をしていたのはビックリしたけれどそんなちきう最期の日みたいな絶望的な挙動を見せられたら余りにも気の毒すぎてこちらが謝り倒したくなってくるよ。
「絶望ナース……これはイケるわね」
蒼海ちゃんの様子を見ていた委員長は顎に手をあて、小声で呟く。ナニがイケるのか知らないが、委員長には眼科に行ってくださいと進言したい。あとついでに心療内科にも。
「い、いやいや、蒼海ちゃん、動揺し過ぎだよ落ち着いて。別にとって喰うわけじゃないんだからさ」
「そうですよ。先輩は貴方のような美少女には一切合切、興味ないんです。だから脂ののったイキの良いおじさんをとって喰い散らかす先輩の言葉なら信用できますよ」
「だ、黙れ痴漢天使、いらんことを言うな。俺だって人並みに美少女にも興味はあるわい。いや、これだとまるで俺がオジさんにも興味ある雑食系男子みたいじゃねえか! び、美少女にしか興味ない! 金髪碧眼の美少女にしか興味ないよ!」
「ヒッ」
俺の言葉を聞いた蒼海ちゃんはさらにビビりながら後退する。いや、櫻井の横からの茶々に反応し過ぎて俺がいらんこと言い過ぎた説あるなこれ。
「ナニを言ってるのよ植木。あんたは美少女に興味があるんじゃなくて美少女の豆パンに興味があるんでしょ」
蒼海ちゃんにフォローしようとしたら今度は委員長から謎の台詞が飛び出してきた。真顔で一体ナニを言い出すんだこの方は。
「いやいやおかしいおかしい。何で唐突に美少女の豆パンが登場するの? てか、豆パンに興味というか大好物なのは貴女ですよね?」
「確かに私は共に同棲してるといっても過言ではない程、寝食を共に豆パンと過ごしているけれど」
こ、こっわ。
「私が学食で豆パンを頬張っている姿をジッと獲物を狙うような目付きで視姦してたじゃない、あの時は私の豆パンを狙われそうで怖かったわ」
はあと息を吐きしみじみとした表情で呟く委員長。お、俺が学食で豆パン食ってる委員長を視姦していただと。一体、何処の世界線の俺くんなんだ。ヤバい、身に覚えが無さすぎて俺が痙攣しそう。そして、遠回しに自分のことを美少女だと宣言するのはなかなかにおこがましいのレベルが高いな。少しは謙虚に服を着せたような蒼海ちゃんの爪の垢を煎じて飲んで貰いたい。いや、自他共に認める美少女なのは間違いないけれど。
「先輩。さすがに女子の食べ掛けの豆パンを虎視眈々と狙うのは卑猥ですよ」
櫻井はジト目で俺を抗議してくる。
「チ、チガウ! ナニが卑猥だわけのわからないことを言うな!!」
「う、植木さん。若輩者の私が言うのは大変恐縮なのですが控えめに言って汚物まみれの下衆の者ですね」
「控えめに言ってソレなの!? 可愛い顔して結構口悪いねキミ!? ていうか、今の今まで動揺していた君は何処に?」
「あっ、あの。植木さんの狼狽した姿を見てたら何だか微笑ましくて、いつの間にか落ち着いていました。有り難うございます、エヘヘ」
蒼海ちゃんははにかみながらお礼を言う。
う、嬉しくない。狙っていたあの娘に『俺くんって可愛いね』ってカミングアウトされるくらい嬉しくない。こんなにも美少女のお礼が嬉しくないのは初めてである。
「私の冗談はひとまず置いときましょ。植木、この娘を紹介しなさいよ。見た感じあんたの知り合いなのでしょ」
委員長は今までのことがなかったかのような振る舞いで手をヒラヒラと振り、俺にそう促してくる。じょ、冗談?結構悪質な冗談だったと思うのですが。そしてどこからどこまでが冗談なのですか?そんなさらっとティッシュで鼻かむみたいな感じで流すのですね。
「あ、ああ、ハイ。この娘は折原の妹の蒼海ちゃんだよ。偶に奴の家に突撃するから顔見知りなんだ」
「か、『顔お尻』!? 顔お尻で突撃ですって!? この尻フェチマニアが、ブッコロすわよ!?」
も、もういいよ、貴方の空耳アワーは。
「なるほどですね、先輩は蒼海ちゃんの顔がお尻に見える程、性的な目で見ているわけですね。いや、どうせならオジサンのお尻の谷間に挟まれて至福の時を過ごしたいとか言ってくださいよ」
い、言わねーよ。
な、何が至福の一時だよ。鳥肌がブワッと群生したわ。ホモに鳥兜をケツの穴に無理矢理詰められても絶対言わねえよ。
「わっ、わわっ、わあ! う、植木さんはそんな過激な目で私を……あ、ありがとうございます御主人様」
唐突な御主人様呼びはやめて。そして、そこでお礼を言うのは最高にいかれちゃってるぜ。
「あ、でも……えっと。確か、貴方は以前ルノワールでお会いしたことがありますよね。ジャイアント鈴木ポメラニアン翼さんでしたっけ?」
蒼海ちゃんは過去の出来事を思い出すかのように櫻井に向かって話しかける。なんだその小学生が思いつきでつけた痛々しいRPGの主人公の名前みたいなのは。売れない芸人でももう少しマシな名前を付けるぞ。
「チ、チガイマス。ワ、ワタシハポメ子、鈴木ポメ子デス」
「え? 貴方はポメ子じゃなくてひっむぐ」
「ワーワー! わああああ!! おっオネエチャン、ダイスキー」(←棒読み)
委員長は首を傾げて何かを言いかけるが、慌てた櫻井が口を塞ぐ。ああ、何か思い出したわ。そう言えば何故か前にも蒼海ちゃんの前では偽名を名乗ってたな。エッ、じゃあ俺も櫻井をポメ子って呼ばなきゃならない流れなの?舌出して愛嬌のある顔のポメラニアンと狸顔の櫻井が頭の中に交互で流れてきて噴出しそうになるからやめて欲しいんですけど。
「……フフン」
櫻井に姉と認められて嬉しいのか何だか知らんが、委員長はどうよみたいなどや顔で俺をチラ見する。いや、によによした顔が普通にキモいな。
「しかし、折原の妹って。あんな肥溜めの中で生育したチャラチャラした下衆の極みみたいな男にこんな可愛らしい妹がいるなんて。私にはぐうたらに服を着せたような姉しかいないのに……く、悔しい」
委員長はひとり、聞こえるか聞こえないかくらいのか細い声で呟いている。いや、興奮したりドヤ顔したり落ち込んだり、委員長の感情が渋滞しているな。ていうか、滅茶苦茶悪態吐かれてるじゃん折原。あまりにもあんまりな言われように何かあのホモのことがちょっぴり可哀想になってきたわ。
「と、ところで聞きたいんだけど。何で蒼海ちゃんはここで働いているの?」
何だか間が持たないからこちらから質問することにする。恥ずかしそうに下腹部を配膳用のお盆で隠しながら周囲を気にするようにもじもじする蒼海ちゃんの姿は正直眼福ものである。しかし、人見知りしそうな彼女がこういう人と触れ合う機会が多い接客業に精を出すのは意外に思える。どちらかいうとお弁当の工場で存在価値があるのかないのか良く分からない緑の食えない草みたいなオプションを真顔で黙々と流れ作業で乗せていくような虚無バイトの方が向いているような気がする。いや、完全に彼女のイメージでこういうことを考えるのは失礼であるのは分かってはいるのだが。
「えっ、えっと。お、おチン、おっ、おっ、おチンギンが欲しかったからです!!!!」
「い、いや声でかっ。そ、そういう切実で現実的な話しじゃなくてね。何でメイドさんの喫茶店で働いているのかなってちょっと気になっちゃって」
「ご、ごめんなさい。こんな私にメイド服なんて似合ってないですよね。よ、良ければ植木さんの手で私のメイド服を思い切りズタズタに切り裂いて、繁華街のごみ回収所にポイッと捨ててください」
蒼海ちゃんは目を閉じ、体を震わせながら俯く。ナニソレ、何故、ワタクシが汚れのない純真無垢な彼女にそのような鬼畜じみたエゲツナイ行為をしなければならないのでしょうか…。
「い、いや、蒼海ちゃん、マジでちょっと落ち着こ? メイド服が似合ってないとか俺は一言も言ってないからさ」
「ううっ、いいんです。自分でも分かっているんです。社交的でない私にメイド服なんて似合わないです。私なんか冥土服で充分です」
蒼海ちゃんは胸元を腕で抱き締めながら諦めたような表情になる。め、冥土服って何だ?喪服かな。相変わらず蒼海ちゃんは気遣いが激しくて、自傷癖の亜種みたいな言動をするな。折角、可愛い顔をしているのに損していると思う。
「そ、そんなことないって。金髪碧眼のメイドさんなんて珍しいし、その、似合ってるよ」
「そうね。そのたわわに実った胸の隙間にチップを挟み込みたくなるくらいには魅力的な娘ね」
委員長は俺の言葉に同調するかのようにウンウンと頷く。何か微妙にオッサン臭い喩えで同調されたような気がするけどまあいっか。
「あ、ありがとうございます。折角のご縁ですし、サービスしますね」
蒼海ちゃんはそう言いながら小鳥も思わず小躍りしそうな素敵な笑顔でスカートをたくし上げ、俺たち三人の目の前でスカートの中身を披露する。精白のソックスにガーターベルトで繋がれた黒の下着はアンバランスでありながら絶妙に男の股間をくすぐる甘酸っぱいあの頃の青春がふと甦る…。
……。
エッッッッ!?
な、何だこの夢のようなサービスは?お、俺は今、夢でも見ているのだろうか。いやきっとこれは白昼夢だろう。これが夢なら今はとりあえず黒下着を目に焼き付けておこう。
「ごっつあんです」
「ふう、ごちそうさまでした」
「ちょっ、こ、こらあ……何、二人して満ち足りた顔してるんですか! う、蒼海さん。や、やり過ぎですよ! な、なに、変態共々にセンシティブゾーンを晒しているんですか!」
「あ、ポメ子さん。大丈夫ですよ、私のふしだらな姿で世界が救えるならパンツのひとつやふたつくらい晒しても問題ないです」
「問題大有りですけど!? わけの分からないことを言ってないで……と、とにかく、こっちまで恥ずかしくなるので早くスカートを下げて下さい!」
櫻井は慌てて蒼海ちゃんのスカートを下げる。
……ハッ。今、俺は今、何をしていたんだ。ウッ、頭が……お、俺はいま蒼海ちゃんに対してとんでもないことをしていたのではないか?あ、謝らなければ。
「蒼海ちゃん! ご、ゴメン! キミのパンツが魅力的過ぎて思わずガン見してしまったよ……下着の皺を確認したいからもっかいだけスカートを託し上げてもらっても宜しいですか?」
「ちょ、調子に乗らないでください!!」
「イテッ」
櫻井に頭を叩かれた。
な、何でお前が切れるんだよ。しかし、確かに本日の俺くんは調子に乗りすぎた感が否めない。食欲、性欲、物欲……欲というもの際限が効かない壊れたブレーキのようなものである。
「あ、あとあれもやって欲しいわね。オムライスにケチャップで萌え萌えお絵描きってやつ。勿論、蒼海ちゃんの舌を筆がわりに書いて欲しいわね」
本日の俺くんより本日の委員長の性欲が大分ヤバいんですけど。
「は、はああああ!? な、なに、言ってんですか貴方は!? ここはフーゾクじゃないんですよ!?」
「あら、蒼海ちゃんにやって貰うのが気が引けるのならポメ子ちゃんの貴女が代わりにやってもいいわよ。私はどっちでもイケるわ」
「グエエエエ! ど、どっちでもイケるわじゃないですよ!! い、嫌ですよ!!」
櫻井と委員長が蒼海ちゃんや俺を差し置いて言い合いをしている。いや、正確には櫻井が委員長に罵っているといったところか。いや、俺も普通に目が覚めたわ。委員長がキモすぎる。
「は、はひ……お、お嬢様のた、ためなら、や、ヤります……ひっ、ひっ、はあーはあー!」
泣きそうな青ざめた表情でフラフラと店の厨房に向かう蒼海ちゃん。な、なんか過呼吸になってなあい?
「うおい、ちょっ、ちょっと待ってください! や、やらなくていいですよ、そんなお下品なの! そんなのしたらSNSで拡散されて、この店が終わりますよ!」
すぐさま蒼海ちゃんを全力で止めに行く櫻井。
ヤバい、何時もは異常な行動及び言動しかしない櫻井が今はとてもまともな奴に見えてきたぞ。
「う、蒼海! や、ヤバイよ…今、夜からシフトの子から電話掛かってきて、三人とも体調不良でお休みだって! ど、どうしよ…て、テンチョーもワイキキにバカンスで不在だし」
キッチンから出てきたバイトの女の子が悲壮な表情で蒼海ちゃんに泣きついてくる。な、なんだなんだ。聞いている感じじゃ普通に店もヤバそうじゃないか。
「そ、そんな……三人ともって」
そして、振り返り、俺たち三人をチラ見する蒼海ちゃん。ヤバい、何かいやな予感がする。




