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18 再会と贖罪

 魔人の騎士が居なくなって、街には一時の平和が戻った。それなのにオバちゃんは相変わらず忙しい日々を過ごしている。旅をしてた時より大変そうだ。


 忙しい理由は2つ。生存者の治療と街の復興だ。


 オバちゃんの旅の目的は勇者に聖剣を届ける事だ。ならば目的は達成されている。ここノザリスに留まる理由は無い。


 しかし、そこは人の良いオバちゃんのことだ。剣だけ置いて、ハイサヨナラは自分が許せなかった。クラストやグスタフが眠ったままなら尚更だ。


 オバちゃんだって自分の宿屋や残してきた旦那さんは心配だろう。でもそんな素振りはおくびにも出さなかった。


「さぁスープが出来たよ、今日も一日頑張っておくれ」


 戦いが終わってはやくも8日が経った。今日もオバちゃんの炊き出しの声が聞こえる。


 街の被害状況は深刻だった。人手が足りないのもあって、オバちゃんは引っ張りだこだ。


 負傷者の治療に街の防衛、ここでの仕事は山ほどある。回復魔法だけではとても捌き切れる人数じゃないし、魔物もいつ戻ってくるか分からない。


 僕は過労を心配していたが、そんなのは杞憂だった。オバちゃんは僕が思ってるよりずっと逞しい。


 僕はというと、勝利の証として小高い丘で立て掛けられていた。大丈夫だ、放置される事には慣れている。それにここは広場よりも見晴らしが良い。


 今の僕はエクスガブバーではなくガヴリールの姿だ。


 どうして戻ったのかは分からないが、元からしてバグ技みたいなものだ。そこまで都合良くはないらしい。


 怪我人の手当てが落ち着いてからはオバちゃんが料理を担当している。宿屋での経験を十二分に活かせるようで、ここ数日は特に楽しそうだ。


「マリー、この人が俺達の命の恩人かい?」


 炊き出しのテントに2人の男女が入っていくのが見えた。

 白いローブを着た女性はマリアンヌだ。もう1人の男の方は、顔がよく見えない。全身に体に包帯を巻いている。歩ける程に回復したようだが、かなりの重傷者だ。


「やぁマリーちゃん、そっちはクラスト君かい? もう大丈夫なんだね」


 そうか、クラストだったのか。鎧を着てないと案外分からないものだ。

 でも余程親しくないと、マリアンヌのことをマリーとは呼べないだろう。


 少し経ってからオバちゃんと3人でテントから出てきた。まっすぐこちらに向かってくる。


「これが聖剣ガヴリール…」


 クラストは聖剣の前に立って呟いた。5年振りの再会、色々と思うところがあるだろう。

 少なくとも僕にはある。言葉は届かないけども。


「ありがとうございます、キャロラインさん。危険を冒してまで届けて下さって」


 5年経っても礼儀正しく謙虚な姿勢は変わらない。だけど顔は随分と変わった。少しやつれた頬には傷があり、目つきも鋭い。

 それが旅と戦いの厳しさを物語っている。


「なんか改めてお礼を言われると、カラダがムズムズするねぇ」


 ガラにもなくオバちゃんは顔を赤くしていた。頭をポリポリ、身体をクネクネ。


 思えば今までずっと旅と戦いの連続だった。まだ忙しいとはいえやっと一息つけたのだ。もしかしたら、これがオバちゃんの素の笑顔なのかもしれない。


 それともアレか、若いイケメンにチヤホヤされて舞い上がってんのか。


「それに聖剣が力を貸してくれたからここまで来れたんだ。だから礼を言うならガヴリールにしな」


 そう言って、コツンと剣をノックした。


「コイツもアンタ達に置いてかれて寂しそうだったよ。あははは」


「フフフッ。まぁ、そうなんですの」


 オバちゃんの軽い冗談に、マリアンヌは笑みをこぼした。まぁ冗談ではないのだけど。


「そうか。俺の力が足りないばかりに……」


(違うよ。クラストは何も悪くない、謝るの僕の方だ)


「ここまで来てくれてありがとう」


 それでも、クラストは優しく柄を撫でてくれた。それだけで僕の心は救われた。

 転生してからの、この5年間溜まった胸の支えがスッと消えていくのが分かる。


 チラリとオバちゃんを見ると、僕の視線に気づいたようにウインクをした。

 チクショウ、泣かせやがって。


「怪我が完治したら直ぐに出ていくのかい?」


 オバちゃんの質問に2人は顔を見合わせる。


「グスタフの肩が完治するまではまだここで滞在するつもりです。ただ……」


 クラストは言葉を濁した。その様子を見て、オバちゃんの顔も曇る。


「姿が見えないと思ったら、まだ本調子じゃ無いのかい。心配だねぇ」


 それを聞いてクラストは困ったような、マリアンヌは呆れたような顔をした。


「いえ、身体が鈍るからと城壁の建設作業に…」


「安静が必要だとあれほど言ったのに。回復魔法をかける身にもなって欲しいものだわ」


 これにはオバちゃんも苦笑いだった。

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