第7話「そこにいた」
投稿遅くなりましたm(_ _)m
これからは月4~5ぐらいのペースで投稿したいと思います。
『だから動くなと言った』
その文字を見たまま、しばらく動けなかった。
手の中には翔太のスマホがある。
蛇口から流れ続ける水の音だけが、静かなトイレに響いていた。
――間に合わなかった。
その感覚だけが頭の中に残っている。
気づけば、俺はトイレを出ていた。
廊下を歩く足音がやけに大きく聞こえる。
教室の前まで来たところで、足が止まった。
ドアの向こうから先生の声が聞こえてくる。授業はまだ続いていた。
何も変わっていない。
そのはずなのに、ポケットに入った翔太のスマホだけが、現実から浮いているみたいだった。
ゆっくりとドアを開ける。
先生が一瞬だけこっちを見る。
「遅いぞ」
軽くそれだけ言って、また黒板へ向き直った。
教室の中はいつも通りだった。
チョークの音。ページをめくる音。誰かの小さな咳。
そんな普通の音が、今は妙に鮮明に聞こえる。
席へ向かいながら、斜め前を見る。
廊下側の席。
そこに、翔太が座っていた。
思わず足が止まりそうになる。
普通に前を向いている。
何事もなかったみたいに。
頭が追いつかない。
じゃあ、さっきのは何だった。
あのスマホは。
『もう終わった』は。
その時、翔太がゆっくりこっちを見た。
目が合う。
ほんの一瞬。
でも、翔太は何も言わなかった。
すぐに前へ視線を戻す。
まるで、知らないふりをするみたいに。
「……大丈夫?」
不意に声がした。
その声で、はっとする。
前の席の雨宮が、肩越しにこっちを振り返っていた。
「顔色悪いけど」
騒ぐでもなく、ただ違和感に気づいただけみたいな声だった。
「あ……いや、大丈夫」
そう返したつもりだったけど、自分でもわかるくらい声がうまく出ていなかった。
雨宮は少しだけ俺を見たまま、
「……ならいいけど」
小さくそう言って前へ戻る。
席に座る。
鼓動だけがやけにうるさい。
斜め前には翔太がいる。
でも、ポケットの中には翔太のスマホがある。
その違和感が、頭から離れなかった。
その時。
机の中でスマホが小さく震えた。
反射的に取り出す。
画面を見る。
そこに表示されていたのは――
『まだ話すな』




