第24話「理由のない指示」
家に帰ってからも、翔太の言葉が頭から離れなかった。
「お前が見たものを、無理に思い出そうとするな。」
どうして、あんなことを言ったんだ。
机にスマホを置く。
画面には、これまで俺に届いた通知が残っている。
『その席には座るな』
『そいつを信じるな』
『その女に近づくな』
一つずつ、思い返していく。
俺は今まで、何度もこの通知に振り回されてきた。
従ったこともある。
従わなかったこともある。
そのたびに、何かが変わった。
でも。
ふと、あることに気づいた。
「……理由がない。」
どの通知にも、理由が書かれていない。
何をするな。
誰から離れろ。
それだけ。
どうしてなのかは、何も教えてくれない。
スマホを見つめる。
「……なんでだよ。」
答えが返ってくるはずもない。
通知は、いつも一方的だった。
俺がどれだけ考えても、次の通知が来るまで何も分からない。
それでも、今まではそれでいいと思っていた。
通知が何かを伝えようとしている。
そう信じていたから。
でも。
『その女に近づくな』
あの通知だけは、どうしても引っかかる。
雨宮が何をした。
何が起きる。
それすら、何も書かれていない。
「……なんで雨宮なんだ。」
スマホを伏せる。
しばらく天井を見つめた。
考えても答えは出ない。
そのままベッドに横になる。
目を閉じても、眠れなかった。
*
翌朝。
教室に入ると、雨宮が自分の席に座っていた。
「おはよう。」
「……おはよう。」
いつもと変わらない。
それだけの会話だった。
なのに、俺は少しだけ雨宮を意識してしまう。
雨宮は何も知らない。
少なくとも、今の俺にはそう見える。
「眠そう。」
「ちょっと寝不足。」
「珍しいね。」
「……まあ。」
雨宮が小さく笑う。
「ちゃんと寝なよ。」
「うん。」
それだけだった。
雨宮はそれ以上何も聞かなかった。
俺も何も言わなかった。
席に座って、鞄を置く。
ふと、翔太の席を見る。
まだ来ていなかった。
昨日の翔太の言葉が頭をよぎる。
――お前が見たものを、無理に思い出そうとするな。
どうしてあんなことを言ったのか。
考えていると、ポケットの中でスマホが震えた。
反射的に手を入れる。
画面を見る。
通知は来ていなかった。
ただ、ロック画面に表示された時間だけが目に入る。
「……」
スマホをしまう。
授業が始まる。
先生の声を聞きながら、ぼんやり黒板を見る。
けれど、頭の中には別のことが浮かんでいた。
通知は、何のために俺へ届いているんだろう。
危険を避けるため。
未来を変えるため。
それとも――。
俺を、何かに向かわせるため。
そこまで考えて、手が止まった。
「……」
自分で考えておいて、妙に嫌な感じがした。
通知は、いつも俺に何かを選ばせている。
座るな。
信じるな。
近づくな。
その言葉に従うかどうかを決めるのは、結局俺だ。
でも。
もし最初から、その選択まで含めて通知されていたとしたら。
俺は今まで、自分で選んでいたつもりで――。
「……違う。」
小さく呟く。
そこまで考えるのはやめた。
まだ何も分からない。
ただ一つ。
俺は今まで、通知の内容ばかり気にしていた。
でも本当に考えるべきなのは、その先だった。
――なぜ、この通知は俺に届くのか。
そして。
――誰が、何のために俺を動かしているのか。




