第23話「気づいたか」
翌日。
「翔太。」
教室を出ようとした翔太を呼び止める。
「何。」
「昨日のこと。」
翔太が足を止める。
「……どれ。」
「トイレ。」
一瞬だけ、翔太の目が変わった。
「まだ気にしてるのか。」
「気にするだろ。」
翔太は何も言わない。
「俺、お前を追ってトイレに行ったんだよな。」
「そうだ。」
「でも。」
少し間を置く。
「俺、お前がトイレに入るところ見てない。」
翔太が黙った。
「……」
「おかしくないか?」
翔太はしばらく俺を見る。
やがて、小さく息を吐いた。
「……気づいたか。」
「やっぱり何か知ってるんだろ。」
「知ってる。」
「じゃあ話せよ。」
翔太は周りを見る。
「ここじゃ話せない。」
「……分かった。」
俺は一度息を吐く。
「じゃあ、別のこと聞く。」
翔太を見る。
「何でトイレにお前のスマホが落ちてたんだよ。」
翔太は答えなかった。
「俺が拾った時、トイレには誰もいなかった。」
「……」
「でも。」
そこで言葉が止まる。
「あの時、誰かいた気がする。」
翔太の表情が変わった。
「誰か?」
「分からない。」
「見たのか?」
「……それも分からない。」
自分でも、はっきりしない。
ただ。
あの時、確かに何かがおかしかった。
「人影だったのかもしれない。」
「声は?」
「覚えてない。」
翔太は黙って俺を見る。
「でも、一人じゃなかった気がする。」
長い沈黙が流れた。
やがて翔太が口を開く。
「……それなら、俺にも分からない。」
「お前にも?」
「ああ。」
翔太は目を逸らす。
「だから、あの日のことを考えるなって言った。」
「無理だろ。」
「……そうだな。」
翔太は小さく息を吐いた。
「ただ、一つだけ。」
「何。」
「お前が見たものを、無理に思い出そうとするな。」
「……何で。」
翔太は答えなかった。
そのまま歩き出す。
「おい、翔太。」
呼び止めても、振り返らない。
俺はその背中を見送った。
ポケットの中には、まだ翔太のスマホが入っている。
あの日。
俺がトイレで見たもの。
床に落ちていた翔太のスマホ。
画面に表示されていた、
――『もう終わった』
そして。
誰かがいたような気がした、あの感覚。
「……結局、何だったんだ。」
答えは出なかった。
でも。
トイレで起きたことは、これで全部じゃない。
そう思えてならなかった。




