第25話「誰からの通知」
授業が始まってからも、さっきから同じことを考えていた。
――誰が、何のために俺を動かしているのか。
黒板を見る。
先生の声が聞こえる。
それでも、頭の中ではそのことばかりが引っかかっていた。
昨日までなら、通知に書かれている内容を考えていた。
でも今は違う。
そもそも、この通知は誰から届いているのか。
「……。」
シャーペンを止める。
未来の俺。
今までずっと、そう思っていた。
でも。
それを証明するものなんて、一つもない。
俺は未来の自分を見たことがない。
声を聞いたこともない。
ただ、スマホに通知が届く。
それだけだった。
*
放課後。
教室の中から人が少しずつ減っていく。
俺は席に座ったまま、スマホを取り出した。
通知は来ていない。
画面を見つめる。
これまで届いた通知を、一つずつ確認していく。
『その席には座るな』
最初の通知。
あの日、言われた通りに席を離れた。
その直後、俺が座るはずだった場所に照明が落ちた。
『そいつを信じるな』
翔太のことだった。
あの時も、俺は通知に従った。
その後も、いくつもの通知が届いた。
どれも、俺が何かをする前に届いている。
だから俺は、未来を知っている俺が送っているんだと思っていた。
でも。
俺は画面をスクロールする。
ふと、指が止まった。
通知に従わなかった時のことを思い出す。
『動くな』
あの時も、俺は迷った。
それでも、何かがおかしいと思って動いた。
そして、翔太のスマホを見つけた。
あの日から、いろんなことがおかしくなった。
もし、あの通知に従っていたら。
今とは違う何かが起きていたのかもしれない。
逆に。
通知に従ったからこそ、今の状況になったのかもしれない。
「……。」
どっちなんだ。
通知は俺を助けているのか。
それとも。
俺がそうなるように、選択肢を与えているだけなのか。
画面を閉じる。
考えれば考えるほど、分からなくなる。
でも、一つだけ確かなことがある。
俺は今まで、通知そのものを疑うことはあっても。
通知が存在する理由までは、ちゃんと考えていなかった。
「……そもそも。」
スマホを見つめる。
「誰が送ってるんだ?」
声に出した瞬間、その疑問が妙に大きく感じられた。
未来の俺。
そう決めつけていただけだ。
もし違うなら。
誰が、俺の行動を知っている?
どうして、これから起きることを知っている?
そして。
どうやって俺のスマホに通知を送っている?
「……。」
通知を開く。
送り主を確認する。
何もない。
名前もない。
電話番号もない。
メールアドレスもない。
ただ、文章だけが表示されている。
「……なんだよ、これ。」
通知を長押しする。
表示されたのは、通知を消したり設定を変更したりする項目だけだった。
返信する場所なんて、どこにもない。
俺はメッセージアプリを開いた。
新しいメッセージを作る。
『お前は誰だ』
入力する。
そのまま送ろうとして――
指が止まった。
送り先がない。
当然だった。
俺は相手を知らない。
番号も、アドレスもない。
「……送れない。」
文字を消す。
それでも、画面を閉じる気にはなれなかった。
もし、本当に未来の俺が送っているなら。
何かしら、こっちから連絡する方法があってもおかしくない。
そう思った。
でも、何もない。
通知は届く。
俺からは送れない。
「……一方通行か。」
その言葉が妙に引っかかった。
今まで、通知が届くことを当たり前だと思っていた。
でも。
よく考えれば、最初からおかしかった。
誰から送られているのか分からない。
どこから送られているのかも分からない。
それなのに、俺のスマホには確実に届く。
しかも。
俺がまだ知らないことまで知っている。
「……どうやって。」
スマホを握る。
未来の俺が送っている。
そう考えれば簡単だった。
未来から、過去の俺へ。
でも。
そんなことが本当にできるのか。
俺には分からない。
分からないのに、今まで信じていた。
通知の内容が当たっていたから。
それだけで。
「……。」
スマホを伏せる。
今まで俺は、通知の内容ばかり気にしていた。
何をするな。
誰から離れろ。
その言葉に従うかどうか。
でも。
本当に気にするべきなのは、その先だった。
――誰が送っているのか。
そして。
――どうやって送っているのか。
「……分からない。」
小さく呟く。
答えは返ってこない。
当然だ。
返事を送ることすらできないのだから。
暗くなった画面だけが、俺を映していた。
その画面を見ながら、ふと思う。
もし次に通知が来たら。
俺は今までと同じように、ただ従うのか。
それとも。
今度は、その通知そのものを確かめるのか。
まだ、答えは出なかった。




