第19話 「隠していること」
「来ると思ってた。」
翔太はそう言って、小さく笑った。
俺と雨宮は木の陰から出る。
夕方の公園は静かだった。
風で木の葉が揺れる音だけが聞こえる。
「……何なんだよ。」
思わず声が漏れた。
翔太は首を傾げる。
「何が。」
「とぼけんな。」
ポケットからスマホを取り出す。
翔太のスマホ。
ケースの欠けた角が夕日に照らされる。
「これ、お前のだろ。」
翔太はスマホを見る。
そして、小さく頷いた。
「ああ。」
「じゃあ何で。」
一度、言葉を止める。
「何で、トイレに落ちてた。」
空気が止まった。
翔太は何も言わない。
「俺は見た。」
一歩、翔太へ近づく。
「あの時、トイレには誰もいなかった。」
「……」
「落ちてたのは、このスマホだけだった。」
握る手に力が入る。
「なのに教室に戻ったら、お前は普通に座ってた。」
翔太は目を逸らさない。
ただ、静かに俺を見る。
「どういうことなんだよ。」
沈黙だけが流れる。
風が吹き抜ける。
やがて翔太は、小さく息を吐いた。
「……そこまで見たか。」
「何を。」
「俺のスマホ。」
一瞬、言葉が止まる。
翔太の視線が、俺の手元へ向く。
「画面も見たか。」
ポケットの中のスマホを握る。
少し迷った。
でも、もう隠す意味なんてなかった。
「……見た。」
翔太は目を伏せた。
「そうか。」
その反応が、逆に怖かった。
「何だよ、その反応。」
「……」
「俺が何を見たのか分かってるみたいじゃん。」
翔太は答えない。
その沈黙が、何より気になった。
「説明しろよ。」
声が少し強くなる。
「俺には何が起きてるのか全然分からない。」
翔太はゆっくり顔を上げる。
「……今は話せない。」
「またそれかよ。」
思わず笑ってしまう。
乾いた笑いだった。
「何で話せない。」
翔太は静かに俺を見る。
「話したら、もっと危なくなる。」
「危なくなるって何だよ。」
翔太は答えない。
その時。
「……翔太くん。」
雨宮が静かに呼んだ。
翔太が雨宮を見る。
「何。」
「さっきから、二人とも何か隠してるよね。」
翔太の表情が止まった。
ほんの一瞬。
でも確かに。
警戒したように見えた。
「……何のこと。」
「分からない。」
雨宮はそう言った。
「でも、本当のことを言ってないのは分かる。」
夕方の風が吹く。
翔太は何も言わなかった。
俺も言葉が出なかった。
雨宮は未来通知のことなんて知らない。
知るはずがない。
なのに。
俺たちが何かを隠していることだけは、見抜いていた。
「雨宮。」
名前を呼ぶ。
「何?」
「……怖くないのか。」
自分でも何を聞いているのか分からなかった。
雨宮は少し首を傾げる。
「何が?」
「いや……」
言葉に詰まる。
雨宮は少しだけ笑った。
「二人が何か悩んでるなら、それを気にするだけ。」
その言葉は普通だった。
いつもの雨宮だった。
なのに。
なぜか、その普通さが怖かった。
その時。
ポケットの中のスマホが震える。
全員の視線が一瞬だけ集まる。
俺はゆっくり画面を見る。
通知は一件。
表示された文字は――
『その女に近づくな』
息が止まる。
反射的に雨宮を見る。
雨宮は何も知らない顔で、俺を見ていた。
「……どうしたの?」
答えられなかった。
翔太も俺の表情を見て、何かを察したようだった。
「……また来たのか。」
小さな声だった。
夕暮れの公園で。
俺たちは誰も動けなかった。




