第13話 「探すな」
ポケットの中でスマホが震えた。
反射的に動きが止まる。
取り出す。
画面には通知が一件。
『探すな』
しばらく、その文字を見つめた。
探すな。
誰を。
考えるまでもない。
ポケットには翔太のスマホが入っている。
返さなければならない。
ただ、それだけだ。
それなのに。
『探すな』
意味が分からなかった。
思わず小さく息を吐く。
通知に従えば上手くいく。
少なくとも今まではそうだった。
だから無視できなかった。
でも今回は違う。
ポケットの中のスマホを握る。
冷たい感触が伝わる。
昨日からずっと持ったままだ。
返そうと思えば返せたはずなのに。
結局、今日も返せなかった。
翔太は何も言わなかった。
昨日も。
今日も。
スマホを失くしたはずなのに。
探している様子もなかった。
昼休み。
友達と笑っていた。
休み時間。
一瞬だけ目が合った。
放課後には、いつの間にかいなくなっていた。
どれも普通だ。
普通のはずなのに。
何かがおかしい気がする。
昨日のことを思い出す。
トイレの床を転がったスマホ。
拾った時、確かに翔太のものだった。
ケースも見覚えがある。
見間違えるはずがない。
なのに。
今日の翔太は普通すぎた。
まるで、スマホなんて失くしていないみたいに。
『探すな』
再び画面を見る。
眉をひそめる。
探すなと言われると、余計に気になる。
そんなことくらい、通知を送ってくる未来の俺だって分かっているはずだ。
教室を見回す。
残っている生徒はもう数人しかいない。
誰かの笑い声が遠くで聞こえた。
窓の外は夕焼けで赤く染まっている。
いつもの放課後だ。
変なのは俺だけみたいだった。
スマホをポケットへ戻す。
帰るか。
そう思う。
でも足は動かない。
返さなきゃな。
小さく呟く。
誰に聞かせるわけでもない。
気づけば教室を出ていた。
廊下には人影もまばらだ。
夕日が床を長く照らしている。
歩きながら、もう一度ポケットを触る。
そこにスマホがあることを確かめるみたいに。
階段を降りる。
昇降口の方を見る。
もちろん翔太はいない。
当たり前だ。
もう放課後なんだから。
それでも足は止まらなかった。
探すつもりなんてない。
本当に。
ただスマホを返したいだけだ。
そう思った時だった。
前の廊下から誰かが出てくる。
見覚えのある制服。
長い髪。
雨宮だった。
雨宮もこちらに気づいたらしい。
少し驚いたように目を丸くする。
それから首を傾げた。
「まだいたんだ」




