第12話 「振動」
午後の授業は、やけに長く感じた。
黒板の文字を写しているはずなのに、気づけば別のことを考えている。
『正しい』
昼休みに届いた通知。
何が正しいのか。
考えても答えは出なかった。
「じゃあ、このプリント後ろ回して」
先生の声がする。
前からプリントが回ってくる。
雨宮が振り返った。
「はい」
差し出されたプリントを受け取る。
「ん」
それだけ。
昨日までなら何でもないやり取りだったはずなのに、今日は妙にぎこちない。
雨宮も何も言わない。
俺も何も言わない。
プリントだけが後ろへ流れていった。
チャイムが鳴る。
休み時間。
教室が少し騒がしくなる。
俺は何となく斜め前を見た。
翔太が友達と話している。
笑っている。
いつも通りだ。
その時。
ふと、翔太がこちらを見る。
目が合う。
一瞬。
本当に一瞬だけだった。
俺が何か反応する前に、翔太は何事もなかったように友達との会話へ戻る。
気のせいかもしれない。
でも、なぜか引っかかった。
次の授業が始まる。
またチャイムが鳴る。
気づけば窓の外は少し赤くなっていた。
一日が終わろうとしている。
なのに、何も進んでいない気がした。
帰りのホームルーム。
先生が何か話している。
進路のことだったか。
来週の予定だったか。
よく覚えていない。
前では雨宮が窓の外を見ていた。
斜め前では翔太が頬杖をついている。
いつも通りの教室。
そのはずなのに。
少しだけ遠く感じた。
「じゃあ終わり」
先生の声と同時に、教室が動き出す。
椅子を引く音。
鞄を閉じる音。
話し声。
いつもの放課後だった。
前の席で雨宮が帰る準備をしている。
教科書を鞄にしまう。
立ち上がる。
そして、振り返る。
目が合いそうになって、思わず視線を逸らした。
「じゃあ」
小さな声。
「……おう」
少し遅れて返事をする。
雨宮は小さく笑った気がした。
それから教室を出ていく。
その背中が見えなくなってから、ようやく息を吐いた。
何やってるんだろうな。
自分でもそう思う。
教室の人数が減っていく。
部活へ向かうやつ。
帰るやつ。
騒がしかった教室は、少しずつ静かになっていった。
ポケットに手を入れる。
指先に触れるのは、もう一台のスマホ。
翔太のスマホだ。
昨日から返せていない。
返そうと思うたびに、タイミングを逃していた。
斜め前を見る。
もう翔太の姿はなかった。
いつ帰ったのかも分からない。
今日も話せなかった。
静かになった教室の中で立ち上がる。
このまま帰るわけにはいかない。
せめてスマホだけでも返さないと。
そう思った、その時。
ポケットの中でスマホが震えた。
反射的に動きが止まる。
取り出す。
画面には通知が一件。




