幕間⑤ 確信
霞が関合同庁舎六号館B棟、地下。
午前一時十七分。
柏木真帆の暗号通信端末がアラートを発した。
深夜のオフィスに柏木だけだった。缶コーヒーの四本目から手を離し、復号鍵を入力した。
ファイルが展開された。
船舶名:パシフィック・スター号。パナマ船籍。コンテナ識別番号 IRSU-4521780。積荷申告:工業用セラミック部品。現在位置:北緯三十二度、東経百三十七度付近。北東進行中。目的港:横浜港南本牧ふ頭CT。
浦賀水道到達まで推定八時間。
起爆シーケンスの技術仕様。衛星経由リモート信号。暗号化コード体系。送信周波数。データの末尾に注釈があった。
「フォルドウ通信制御室はUF6/HFガスにより汚染。起爆コントローラの機能回復には完全な基板交換が必要。現時点で起爆信号の送信は不能と推定」
推定。確証ではない。
だが、このデータを持ち出した人間がいる。施設の内部に。名前も顔も知らない。
三ヶ月前のホテルニューオータニの廊下が浮かんだ。モサド連絡官のコーエン。「仮定の話——フォルドウで兵器が完成に近づいているとしたら」。あのとき国交省の担当官が廊下の向こうから歩いてきた。アザデガン油田の次期契約交渉。
柏木は受話器を取った。NSC事務局次長・久保田直樹の携帯番号を押した。
三コール。四コール。
「……誰だ」
「柏木です。公安調査庁の。次長、あのとき握りつぶしたレポートの件です。船が来ます」
久保田の呼吸だけが回線に載っていた。五秒。十秒。
「……データの確度は」
「フォルドウ核施設の内部サーバーから持ち出された作戦データです。捏造するには核兵器の設計知識が必要です」
沈黙。三秒。
「……海保に回せ。今すぐだ」
回線が切れた。柏木の指が震えていた。
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