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フォルドウ  作者: お寿司


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幕間③ 仮説

十一月。東京。霞が関。


公安調査庁調査第二部の柏木真帆は、専用端末の新着通知を開いた。CIA東京支局からの情報共有。分類:「中東・核不拡散」。優先度:「通常」。ソース評価:「C-3」——信頼性は中程度、情報の正確性は確認困難。


本文は短かった。


『一、イラン国内で活動するモサドの情報ネットワークに、日本国籍の協力者が関与している可能性を示す情報を入手。詳細不明。


二、ナタンツ核施設南方に位置する未申告施設(通称「ピッケル山」)に関する新規情報が、HUMINTソースから入電。


三、上記二件の関連性は未確認。


四、付記:バンダレアッバース港発の不定期コンテナ船に通常と異なる出港パターンを観測。関連性不明。』


日本国籍の協力者。モサド。イラン。


二件の関連性は未確認。CIAはそう書いている。だが並べて送ってきた。並べたこと自体がメッセージだ。


六月の邦人安否確認リストが浮かんだ。ライジング・ライオン作戦の後、テヘラン在住の日本人の無事を一人ずつ確認した。何十人もの名前にチェックを入れて閉じた。あの中の誰かが——。


上司の山岸課長補佐のデスクに行った。


「CIA共有の件です。モサドの日本人協力者とピッケル山の情報が並んで送られています」

「C-3だぞ。裏が取れていない。北朝鮮と中国で手一杯だ。イランの穴掘りに割くリソースはない」


デスクに戻った。ピッケル山の商用衛星画像を検索した。トンネルの入口。建設機材。A4に一枚プリントした。モニターの横に立てかけた。


 ◇


二ヶ月後。一月。


プリントはまだデスクの上にあった。同僚は何も言わない。柏木のデスクには常に何かが立てかけてある。


内線が鳴った。在日イスラエル大使館の駐在武官から、非公式の面会申し入れ。柏木宛て。


モサドの東京連絡官が、PSIAの一分析官に直接面会を申し入れてきた。


 ◇


紀尾井町。ホテルニューオータニのロビーラウンジ。


コーエンは時間通りに来た。四十代後半。短く刈り込んだ灰色の髪。情報将校の体だった。


「フォルドウについて伺いたい」


「フォルドウ」


「ピッケル山と呼ぶほうがお好みですか」


柏木は答えなかった。


「我々の情報源がフォルドウ地下施設の内部で確認した情報があります。濃縮度が申告値を大幅に超えている。九十パーセント以上。兵器級です」


「IAEAの査察では——」


「査察は一部区画にしかアクセスできていません」


コーエンはカップに手を伸ばした。


「フォルドウで兵器が完成に近づいているとしたら。次に問題になるのは運搬手段です」


「弾道ミサイル」


「それだけではありません。バンダレアッバース港から出ているものがある」


柏木は表情を変えなかった。CIA共有の四件目。バンダレアッバース港の出港パターン。コーエンは同じ港の名前を出してきた。


「もう一つ。情報源は日本国籍です」


手がカップの取っ手で止まった。


十一月のCIA共有が蘇った。C-3。「日本国籍の協力者」。


「この人物が拘束された場合、日本政府として邦人保護の対応が必要になります。事前にチャネルを確保しておきたい」


邦人保護。イラン国内で拘束された日本人。


コーエンは名刺を出した。裏に手書きの番号。


「何かあれば、この番号に」


 ◇


公安調査庁に戻った。山岸に報告した。


「独自にやれ。ただしリソースは使うな」


デスクに戻った。缶コーヒーを買った。


商用衛星画像とAISのトランスポンダ記録を六ヶ月分重ねた。バンダレアッバース港発のコンテナ船。複数の船がホルムズ海峡を出た後、オマーン沖で不自然に停泊している。停泊ポイントを地図上に落とすと半径数キロの円内に収まる。小型船舶の影。洋上での積荷移送。


NSC(国家安全保障会議)にレポートを上げた。フォルドウの未申告濃縮活動の疑い。航路異常。モサド情報との関連。


三日後。「現時点で独自の対応を取る根拠が不十分」


午後九時。フロアに柏木だけが残った。デスクライトの光。


何かが動いている。イランの中で。日本人が関わっている。


ピッケル山のプリントを手に取った。二ヶ月以上デスクに置いていた。指で端を撫でた。モニターの横に戻した。


コーエンの名刺を内ポケットから出した。裏の手書きの番号を個人の携帯に登録した。名前は入れなかった。番号だけ。

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