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フォルドウ  作者: お寿司


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ラヒミ幕間② 聴取

十月二十八日。火曜日。


VAJA(情報安全保障省)本部、地下一階。聴取室C。白い壁と金属の机。椅子が二脚。録音装置のランプが赤く点いている。


ファルハド・アミニは椅子に座っていた。手は膝の上。指が微かに震えている。


ラヒミは向かいに腰を下ろした。ファイルを机に置いた。厚さ三センチ。中身はアミニの経歴、家族構成、AEOI(イラン原子力庁)内での評価、通信記録。だがファイルは開かない。


「アミニ博士。紅茶は飲むか」


ファルハドが顔を上げた。聴取で紅茶を出されるとは思っていなかったのだろう。「……いただきます」


ラヒミはインターホンで二杯を頼んだ。


「遠心分離機の専門家だそうだな。IR-6の設計チームにいたと聞いている」

「はい。回転体の流体力学が専門です」

「優秀な研究者だ。評価書を読んだ。所長もお前を買っている」

ファルハドの肩が少し下がった。

「遠山悟という日本人を知っているな」

「友人です。ペルシアン・アトラスの技術者で——」

「どのような関係だ」

「エンジニア同士です。彼は耐震設計の専門家で、技術の話が合う。家に招いたこともあります」


紅茶が来た。ラヒミは一口飲んだ。ファルハドはカップを両手で包んだ。指の震えを隠すように。


「遠山氏に、研究室を見せたことは」

ファルハドの目が動いた。

「……一度だけ。UCF(ウラン変換施設)の見学を兼ねて」

「何を見せた」

「遠心分離機の部品です。外側のケーシングだけです。回転物理の説明をしただけで——彼はそういう人間じゃありません」

「分かった」


ラヒミはファイルを閉じた。閉じるというより、最初から開かなかった。


ファルハド・アミニは何も知らない。友人を家に招き、技術の話をし、研究室を見せた。それだけの男だ。


問題はアミニではない。


ラヒミは立ち上がった。


「もう少し話を聞かせてもらうことになる」


ドアの外でジャヴァドが待っていた。


「拘束を継続しろ。だが乱暴はするな。この男から出るものはもうない。聴取は俺が直接やる」

「遠山の方は」

ラヒミは廊下を歩き始めた。「泳がせろ。反応を見る」


執務室に戻り、デスクの引き出しから手帳を出した。黒い革表紙。ページの端が擦り切れている。


遠山悟。三ヶ月分の行動記録。ラヒミは指で日付を追った。出勤時刻、退勤時刻、昼食の場所。数字の羅列の中に、一つのパターンがあった。


毎週金曜、午後二時から四時の間、所在不明。グランドバザール周辺で三回目撃。


手帳を閉じた。


友人が拘束されたと知れば、動きが変わる。変わり方で正体が分かる。素人なら接触を試みる。大使館に駆け込むか、アミニの家族に連絡を取ろうとする。プロなら距離を取る。関係を切り、痕跡を消しにかかる。遠山がどちらの反応を示すか——それが答えだ。


だが本当に訓練を受けた人間は、第三の反応をする。何も変えない。完全に日常を維持する。金曜の外出も、出勤時刻も、昼食の店も。それが最も難しく、最も見破りやすい。人間は危機の中で完璧な日常を演じることができない。どこかに綻びが出る。声のトーン。視線の動き。コーヒーカップの持ち方。


ラヒミは手帳をデスクの引き出しに戻した。


ポーンを一つ動かした。相手の応手を待つ。


引き出しを閉め、執務室を出た。廊下を歩きながら、アミニが紅茶のカップを両手で包んでいた姿を思い出した。あの震えは演技ではない。


廊下を渡り切った。角を曲がった。


立ち止まった。


廊下の窓の外に、VAJA本部の中庭が見える。街灯の光が石畳に落ちている。人気がない。


ポケットの中で手が握られた——開いた。


握って、開く。歩き出した。

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