↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/68

第45話 珠凛と陽葵の忘れ物④

 「蒼空くん」


 「ん……、珠凛」


 俺は寝てしまったらしい。

 どうやって帰ってきたのだろう。記憶がない。


 たしか、最後に烏龍茶を一気飲みして……。



 えっ。

 ここ、どこ?


 見慣れない部屋なんだが。

 家具が見える。ホテルではなく、どこかの家らしい。



 「珠凛じゃないでしょ? 藍だよ」


 えっ?


 声の方を振り向くと、藍さんだった。

 ……膝のあたりに、ぷにっと藍さんの生チチが当たっている。


 えーっ!?

 

 俺と藍さんは同じ布団に入っていた。

 そして、全裸……。



 まじか。

 これはマズい。


 浮気するにしても、最悪の相手だ。

 


 布団の中を覗くと、俺はパンツすら履いていなかった。そして、藍さんも全裸だった。真っ白な肌が見える。


 (珠凛は健康そうな肌色だけど、藍さんは真っ白なんだな)


 そんなことを思っている場合じゃない。……俺は頭を横に振った。


 つか、どうしよう。

 何も覚えてないし、ヤッてないと思いたい。


 「……あの、藍さん」


 「違うでしょ。サンはダメ。呼び捨てにして。ダーリン♡」


 藍さんは抱きついてきた。


 (だ、だ、だーりん?!)


 「あの。藍さん。俺ら、ヤッてないですよね?」


 藍さんは、少し拗ねたような顔をした。


 「全裸の男女が一つ布団の中にいて、することは一つだけでしょ? 何を言っているの?♡」


 何を言っているの、はアンタだよ!!

 まぁ、確かに。こんな可愛い人と添い寝して、していない方が不自然だ。

 

 いや、でも。

 本気で何も覚えていないのだ。


 もしかしたら、母娘の食べ比べという、世の男性の羨望のプレイをしたかもしれないのに……。記憶にないとは。不覚。


 すると、藍さんが覗き込んできた。


 「蒼空クン。なんか泣きそうになってる。ショックなの? 可愛い♡」


 「そりゃあ、そうですよっ!!」


 (いままで数多の誘惑に耐えてきたのに、よりによって、珠凛ママかよ……、しかも覚えてないとか。リスクだけで良いとこナシだ)


 俺の様子を見ていた藍さんはクスクスと笑った。


 「……からかってゴメンネ。ホントは何もしてないよ?」


 「えっ」


 「ほんとはね。あのあと、ウーロンハイのせいで蒼空クン、意識なくなっちゃって。歩けないし、タクシーで家まで送ろうと思ったら、途中でゲーしちゃったの。タクシーから降ろされちゃって。ちょうどウチの近くだったし、服とかゲーまみれだったし。とりあえず、服を脱がせて、休んでもらったんだ」


 どうやら、俺の貞操は守られたものの、かなりの迷惑をかけてしまったらしい。


 「すいません……」


 「下着まで汚れていたから、迷ったんだけど、そのままにできないし、脱がせちゃった。ごめんね」


 藍さんは、ペコリと頭を下げた。


 「いや、おれ、酒に弱いのかも。気をつけるようにします。でも、なんで藍さんも裸なんですか?」


 「蒼空クンのお世話してたら、わたしも汚れちゃって。わたしも酔ってたから、力尽きて寝ちゃったみたい」


 どうやら本当にセーフらしい。よかった。


 「状況は分かりました。色々とありがとうございました」


 「でも、フキフキしてたら、蒼空クンを欲しく……こほん。味見……こほん。……甘えたくなっちゃって、色々したんだけど、拒まれちゃった……」


 色々ってなんだ?

 知りたいけれど、知りたくない。


 とにかく、これ以上、こんなサキュバスの巣窟にいるのは危険だ。


 「おれ、帰ります!!」


 だが、藍さんは俺の手首を掴んだ。


 「まだお洋服が乾いてないから。もう少しここにいて……寂しいの」


 そう言うと、藍さんは毛布に潜り込んだ。


 そして、俺の首元にキスをすると、チュッチュとキスをしながら、どんどん下にいき、気づいた時には、パクっと俺のモノを口に含んでいた。


 「ごめんね。……ちゃんと気持ちよくするから」


 藍さんは、そう言うと、頭を上下に動かしはじめた。


 すごく気持ちがいいが、マズイ。

 いや、もうすでに手遅れな気はするが。


 「ちょっと。タイムっ!!」


 俺が毛布を剥《は》ぐと、藍さんと目が合った、その目つきは、妖艶でも色っぽくもなく、ただただ悲しそうで、潤んでいるように見えた。


 「藍さん?」


 藍さんの悲しそうな目を見ていたら、俺の頭の中に、樹兄との会話がフラッシュバックした。


 「……樹兄、そういうのをなんて言うの?」


 「強迫的性行動症。かつては、性依存症と言われていたものだ。これは性欲の強さとは必ずしも相関していなし、行動がセックスそのものとも限らない。恋愛依存……過度の男性への依存として現れることもある。ま、強迫ってついてるくらいだしな。心の不安定を解消するために、強迫行動……性的行動を繰り返してしまう。罪悪感を感じていても、自分ではどうすることもできない。俺は専門外だが、この治療には……」


 …………。

 ……。


 この人は、きっと病気だ。

 俺はそう思った。


 だって、自分でしたのに、泣いてるし。


 であれば、不安の原因を知りたい。珠凛に対しては話しづらいこともあるだろう。だからそれは、俺の役目のように思えた。


 俺は、藍さんの身体を引っ張りあげると抱きしめた。


 「藍さん。悲しいよね。よかったら、話してくれませんか?」


 藍さんは、俺のモノを握っている。


 「……これは、くれないの?」


 「くれません。それは珠凛のだから。まずは、藍さんのことを教えてくれませんか?」


 「うん。あのね。わたし……恥ずかしいんだけど、男の人といないと不安で、悪いって思ってても、不安な気持ちがどんどん大きくなって止められないの。エッチがしたいっていうか。そうされていると、安心するっていうか」


 やはり。思った通りだ。


 不安が大きくなって、性的行動に傾倒する。今回のことで、珠凛が家を出てしまって、藍さんの不安定さに拍車がかかったのだろう。


 樹兄が、依存の原因は複合的だが、自己肯定感の低下が大きいって言ってたっけ。


 藍さんをギュッと抱きしめた。


 「藍さん。俺は藍さんが頑張ってきたの分かるよ。小さな娘と2人で不安だったよね。きっと、藍さんは自分のしたいことを後回しにして、それでも、珠凛に不自由をさせてるって思っちゃったり」


 すると、藍さんは顔を伏せた。


 「うん。いつも思ってた。仕方ないって思っても、不安や罪悪感が頭から消えなくて拭えないの。パパがいなくて、十分なこともしてあげられなくて、わたしの娘で、珠凛が可哀想って……珠凛はそんなことないって言ってくれるけれど、あの子、優しいから」


 そして、男に逃げて罪悪感が大きくなるという負のスパイラル。


 俺は藍さんの頭を撫でた。


 「珠凛は『ママのこと大好き』って言ってましたよ。藍さんが頑張ってきたの、ちゃんと伝わってるよ」


 「でも、でも……。もっと違うママのところに生まれてたら……」


 藍さんは震えている。すごく不安そうだ。


 「あのね。俺は親ガチャなんてないと思ってるんだ。どこかで聞きかじった話なんだけど、こういうのを仏教では縁起っていうんだって。良いことも悪いことも、原因と結果がある。だからきっと、珠凛は理由があって……きっと望んで藍さんの娘になったんじゃないかなって思うよ」


 すると、藍さんは、わんわんと大声をあげて泣き始めてしまった。


 (小さな子供みたいだ。いや、これまで自由に泣けなかった分、今泣いてるのか)

 

 頭を撫でながら10分程すると、ようやく藍さんが落ち着いた。


 「ぐすっ。蒼空クン。ありがとう。あのね、浮気させちゃってごめんね……。わたしから珠凛に謝ろうか?」


 いや、それはダメだろ(笑)


 あなたには血縁があるけれど、こっちは嫌われたら終わりの赤の他人なんですから。


 「いや、大丈夫です。珠凛に嘘はつきたくはないけれど、この嘘はつき通します」


 すると、藍さんは俺の頬をツンツンした。


 「悪い男がここにいまーす!! 悪い男ついでに、最後までしちゃう? わたし準備できてるよ?」


 ……なんの準備だよっ!!


 10分泣いたくらいで心の動きが改善する訳はない。治療には時間がかかるのだろう。


 「しませんし。あの。差し出がましいかもしれませんが、俺の兄が医者なので、俺よりも詳しいし、今度、会ってもらえませんか?」


 一般的に治療は、薬物と認知行動療法で行われる。治療にかかる期間も長く、年単位だ。


 珠凛のためでもあるが、俺自身、この人をどうにかしてあげたい。


 俺は言葉を続けた。


 「あの。話くらいなら、俺でよければ、いつでも聞きますんで」


 「うん。ありがとう。あのね」


 藍さんは俺の目を見つめてきた。


 「はい?」


 「あのね、わたし。蒼空クンのこと好きになりそうなんだけど……」


 それは、病気のせいだ。

 うん、そうであってくれっ!!

 

 「ええと、それは。きっと、今は不安定だからですよ。続きは、カウンセリングとかうけて、心が安定してから言ってください」


 「ぶーっ」


 藍さんは不満そうに頬を膨らませた。それはさておき、俺の服を洗ってくれて、乾燥してくれているらしい。服がないので、帰ろうにも帰れない。困った。


 「それと、吐いちゃった件は、色々とすみませんでした」


 「全然、いいよ。あ、ちょっと待ってて」


 藍さんは、バスタオルを巻くとキッチンの方に行った。お尻がチラッと見えて……色っぽい。


 (良い身体だ。やっぱ、もったいなかったかな……)


 藍さんはホットミルクを入れてくれた。藍さんはマグカップを両手で持つと、俺に渡してくれた。


 「ねぇ。わたしって女として魅力ない?」


 「いや、そういうことじゃなくて」


 「じゃあ、したい?」


 「そんなこと言わせないでください」


 「ふぅーん。ま、元気だったもんね?♡ お世辞でもありがとう。あの、わたし、ちゃんとできるように頑張るから」


 きっと、ちゃんとできるように頑張りすぎて、こんなことになってるんだけどな。程々って難しい。


 「藍さんも、一口、どうぞ」


 藍さんも一口飲むと、安心したような顔になった。ホットミルクって落ち着くんだな。妙にリラックスしてしまった。


 ピピっと音がして、衣類乾燥機がとまった。藍さんは、俺の服を畳んでくれている。   


 「これ、蒼空クンのお洋服。お待たせしました」


 「あの、珠凛のこと教えてくれませんか。お父さんのこととか」


 俺は、珠凛の育った環境について、あまり知らない。


 「ん。あの子の父親と別れた時、まだ珠凛は小さな子供でね……」


 「離婚原因って、藍さんの浮気ですか?」


 「違いますぅ。相手の事情ですぅ」



 

 (ピンポーン)


 藍さんはドアの方を見た。


 「あっ、珠凛が来たみたい」


 「え?!」


 「泊まってもらう訳にはいかないし、さっき珠凛に連絡したの。忘れてた。テヘッ」


 テヘッじゃねーよ!!


 俺は大急ぎで服を着て、ソファーに腰をかけた。なんとか間に合った……が。


 藍さんが全裸じゃないか!!


 「ちょっと。藍さんも服きてください!!」


 「えーっ。だって、お口でしたのにキスしてないとか、順番はちゃんとしないとダメっ!!」


 「何いってるんですか? 意味わかんないんですけれど」


 「だから、蒼空クンからキスしてくれたら服を着ます」


 は?

 だが……。


 この人が全裸だと、色々と終わるんだけど!!


 「もうっ。分かりましたからっ!!」



 チュッ


 俺がキスをすると、藍さんの唇からは焼酎みたいな味がした。そんな俺の感想をよそに、藍さんは満足そうな顔をすると、タタッと奥の部屋に消えていった。



 ガチャガチャ。

 直後、ドアノブがクルクルとまわってドアが開いた。


 「ママぁー。電話してきたのにカギ閉まってたんだけどー?」


 珠凛だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。