23:遊びと無邪気
食事を終えた俺達は、童の案内の元屋敷を散策していた。全く荒れずに綺麗のままの畳や、梁。まるで数ヶ月前までここに人が住んでいた状態そのまま固定されているようだ。
「いやに、懐かしい気持ちになってしまうな」
「ほうじゃろうな、『家』とは帰るべき場所。お主のような年ごろであれば懐古の情が噴き出てくることじゃろうでな」
裏表のない、座敷童の言葉が胸に刺さる。
家から逃げて一人暮らしを始めて、一人に耐え切れず温もりを求めた結果孤独になって。俺は帰るべき場所を見失った。
だからなのか来たことの無いはずのこの屋敷が、とても懐かしく居心地が良い。
「さ!案内はこれぐらいじゃ!あとは!」
「応とも!遊び倒すぞォ!」
童二人がもろ手を挙げて叫ぶ。
その様子に、後片付けをしているサトリがふふふと穏やかな笑い声を漏らした。なんとも、癒されるというか刺々しい感情が浄化されるような感覚だ。
「先ずは俺の手土産を披露しよう!なんと、なんとだな!大分前人間がくれた玩具、水鉄砲というらしいぞ!どうだ!」
「おぉ~?これはえらい変な形じゃのぉ~。」
河童が取り出したるは、かなりぼろの水鉄砲。
ビビッドカラーで着色されたプラスチックのそれは、年季がかなり入っているようで、童はそれを目を輝かせてみていた。まさに初めて見る玩具に目を輝かせる幼子。
子供の頃は親父にゲームを買ってもらった時を思い出す。
「人の子よ、これはどのよーにして使うのじゃ?」
「おいおい、これを持ってきたのは俺だぞ。使い方は熟知してるぞ」
正直、使い方もなにも、至極単純なものをエキセントリックな塗装で誤魔化しているチープなおもちゃだ。でも、塗装の剥がれ具合からしてこれの以前の持ち主はこのぼろの玩具を長く愛用していたのではと思う。
「これはなァ、なんと!水を此処の筒に入れてこの穴から噴出させる!つまり、楽しい!どうだ!いいだろ!これがあれば離れたところから人を驚かすことが容易にできる!」
「なんとぉ、何時ぞや竹筒で似たようなことをしておったのぉ。それがまあかようなへんちくりんな色になって」
「そしてここからが真骨頂、これはひとつだけじゃない!みっつもあるんだ!うちひとつは俺が模倣して作ったもんだからすぐ壊れるけどな!」
同じメーカーが作っていると思しき同じ形をしたプラスチックに紛れ、木で作られた簡素な水鉄砲が目に入る。河童が手ずから作ったというだけあって、言ってしまえばお粗末なものだが、それはそれで味がある。
「今日はサトリたちが座敷童のところへ行くと聞いてな、これを撃ち合いしたくて来たんだ!さぁやろう!きっと面白い!」
*
縁側から庭に出て、俺は万年筆をサトリに預け水鉄砲を構える。
「俺のこの鷹のような目から逃げられると思うなよ……!」
「かっかっか!俺のすばしっこさに勝てるかぁ?!」
「わえだって速さや気配を消す技術なら負けとらんからのぉ~!ほれ隙あり、じゃ!」
急に真後ろに現れた座敷童に背中を打ち抜かれる。
狙撃手のようにして背後を警戒していたというのに、いつの間にやら脇下から抜けられていたらしい。
まさに脇が甘いといったところか。
「おや、鷹の目の悠弥さんは早抜けですね」
「揶揄うなよ……くぅ~!なんか単純に悔しいぞこれ!」
変に油断したとかではなく、純粋に技量と体力不足で負けたのでより言い訳出来ずより悔しい。この試合が終わればもう一戦してもいいかもしれない。大分身体が慣れた頃だし。
「かっかっかぁ!甘いぞお!こちらだ!」
「ぬぉわ、ちべたい!」
縁側に腰かけ、サトリと一息ついていると、早々に決着がついたらしい。今回の優勝者は河童だ。
両手を腰に当てて大笑いをしている。
本当に心の底から嬉しそうにしてやがる。何かをかけているわけでもない単なるお遊びに本気を出して、童心に帰るという感覚はどうにも他では得られない体験だった。
「結局俺が一番だったな!かっかっか!」
「むぐぅ。河童め。わえだって負けてないぞ~!」
すでに結構濡れてしまったが、座敷童はまだまだ遊び足りていないらしく水の滴る和服を振り回し水鉄砲に水をリロードしていた。
「勿論第二戦だ。っとぅあ?!なんと……俺の特製皿丸がこわれてしまったぁ。酷使してしまったからなあ」
「皿丸ってお前、ネーミングセンスないなあ」
直接的な河童の命名を笑うと、サトリがなんとも言えない表情で此方を見つめてくる。何だというのだ。
「まあいいか。皿丸の真価は何度でも作り直せるところにあるからな」
単純なつくりの水鉄砲をさらに簡易化して量産を可能にしたのか。いつしかもらった水鉄砲の仕組みを必死に理解して、自分の作れる範囲にまでにして、いつでもだれでも遊べるようにしたのが、河童の言うとっておき。本当にこうして遊ぶことを楽しみにしていたのが見て取れる。
「壊れてしまったのならしょうがないのぉ。じゃあ次は何をして遊ぼう、めんこか独楽回しかのぉ」
「そうだな、ここまで来たら俺はもう知らん。とことんまで付き合ってやるさ。お前は何をしたい!」
俺は濡れた髪をタオルで拭い再び庭に出る。運動神経はそこまで良くない方だが、子供と遊ぶ程度なら何ともないはずだ。俺の偽りの若さを信じるとする。
「ええのお、ええのお!じゃあ蹴鞠じゃ、蹴鞠!」
「任せろ、俺の長いおみ足から繰り出される技に見惚れるなよ!」
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