21:童と童
「河童は座敷童と顔見知りなのか?」
「あぁ、昔はよく人間をどっちがより揶揄えるか競ったもんだ。アイツの気配を消す技術にはついぞ勝てなかったなあ~」
頭の皿を撫でながら目を細める河童。
座敷童と河童という日本人ならば必ず耳にする妖怪同士、仲が良いようだ。河童と言えばカワウソと呼ばれていたり河の虎とかかれていたりと色々な姿を持つ妖怪だが、全て人に悪戯を仕掛けてくるという所は共通している。
ロジカルに考えると、野生動物の変異個体や或いは人里から離れたところで生活していた野生児などが考えられるが……やはりここでそのことを考えるのは無粋だろう。今、目の前で昔に思いをはせている緑色の妖怪は、間違いなく今を生きる存在だ。
「いい仲だったんだな」
「応ともさ。俺の名前の漢字を知っているか?座敷童に教えてもらったんだが、河の童と書くそうじゃないか!童同士だとな!かっかっか!」
成程な、童ときたか。
邪気を孕まない、純粋な心を持つ妖怪としての河童。故に悪意には悪意で返してくるんだろう。それが悪霊や悪さをする妖怪としてかかれる一因か。
「さて、そろそろ悠弥さんの息も回復してきたころでしょうか?」
「あぁ。そうだな、行こうか」
「出立か!待ってくれ、瓜と手土産を見繕うから!」
そう言って川にどぼんと飛び込んでいく河童。そうそう、河童と言えばキュウリだよな。頭の皿、相撲に尻子玉。最後にキュウリ。テンプレート全部のせだ。
数分空をじっと見上げ、俺は河童を待つ。
体中に付いた砂をはらい、再びシャツを着る。何もない時間が、過ぎていく。
ここにいる時ぐらいは、河童の言っていたように、すねこが俺の足を止めてくれたようにのんびりとしよう。
「ふふ。実に素晴しい怠惰ですね。」
「あぁ、俺は案外サボり魔の才能があるのかもしれんな」
少しばかりサトリと駄弁っていると、また水面が膨らんで河童がその中から上がってくる。体を犬のように振るい、水しぶきを飛ばしながらこちらへと近づいてきた。
一応こちらを濡らさないようにする気遣いはもっているらしい。
「待たせた!いい手土産があった、これは座敷童が喜ぶぞォ!」
「何もって来たんだ?」
「かっか、そりゃ後のお楽しみだ。さあ行こう!横丁を少し歩いた先だったな!」
いつの間にか、河童が音頭をとる。強引な奴め。
「えぇ、ここの道をぐぅっと進んだ先に座敷童の家があります。あの子はずっと昔からあそこで偶に訪れる妖怪たちと遊んでいるので、もしかしたら先客がいるかも」
「かっかっか!居たのならその先客とも遊べばいい、俺のとっておきは複数対応だ」
「とっておきって相撲じゃなかったのか」
「応とも、相撲はとっておきじゃなくて十八番だ。言っただろう?あとのお楽しみだって」
水浸しの風呂敷を背負い、嘴をかっ開き笑う河童。相当とっておきとやらに自信がある様子だ。言葉からして遊び道具だろうが、一体なんだろうな。
疑問を少しばかり抱きつつ、俺達は閑散とした田舎道を歩いて行った。
*
道中、見覚えのあるような妖怪がちらちらと居た。まさに妖怪横丁、妖怪オタクからすれば垂涎の的のような場所だろうな。
「さて、そろそろですよ。あの子が暮らす屋敷は」
「相変わらずでかい家だ、童しか暮らしてないのが寂しいところだな」
伝統的な日本家屋、所々古くなっているものの、しっかりとした木造の平屋が佇んでいた。庭もある、日当たりも上々。生垣もしっかりと手入れされているし、これはかなり立地のいい建物だな。などとつい値踏みしてしまう。この癖はたぶんぬけないだろう、泥田坊の時にも思ったがこの考え方をしてしまう俺も俺だ。役に立つ立たないはさておいて、認めてやるほうがいい。
「そうですとも、どのような考えであれ貴方の気持ちに嘘をついてはいけませんからね」
「ん?なんだなんだ、俺を置いて話すな、河童は寂しがり屋なのだぞ!」
俺とサトリの言葉抜きコミュニケーションについていけず、河童がご立腹。とんがった嘴を俺とサトリの方へ交互に向けて文句を垂れた。
「ん~、これは賑やかな声~。玄関に居るのは誰ぞ~?」
「おや、庭で遊んでおいででしたか。お久しぶりですね座敷童、私です」
「お~、サトリじゃ、サトリじゃ~。懐かしいのぉ、懐かしいのぉ~!」
おかっぱ頭を揺らしてひょこひょことサトリの足元で跳ねる小さな子供、伝承の通りの姿がそこにあった。
「座敷童よ、俺もいるぞ!久しぶりだな!」
「んぅ?河童か!相変わらず生臭いのぉ。いつぶりかのぉ、今日は何じゃ?遊びに来たかえ?ならちょうどいい、蹴鞠はひとりではつまらんからのぉ!」
小さな身体に見合わない老人のような口調で、玉を転がすような笑い声を響かせる座敷童。
「えぇ勿論、ですがその前に昼食を一緒にいかがです?実はここへ来る前に少しばかり体を動かしていて」
「そうか、つまり河童がまた相撲を無理強いしたんだの?身勝手な奴なのに磨きがかかっておるのぉ~その皿のように!」
「かっかっかっか!そう褒めるな照れてしまう!」
「多分褒めてねえと思うぞ、この子は」
ついツッコんでしまった。別に俺はツッコみキャラじゃないのだが、河童がツッコみやすいボケをかましてくるので、ついそれに乗ってしまう。
「ん~?今日はサトリと河童だけではないのかえ?それにこの気配……まさか人!本当か?!」
どうやら河童同様、人と遊ぶことに飢えているらしく、座敷童は俺の姿を認めるや否や小走りで駆け寄ってきて目を輝かせる。
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