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狭間とやらに迷い込みました。~三十路営業マンの癒し癒され妖怪奇譚~  作者: 鯱眼シーデン
無意味なひとつ目

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12/26

12:悔恨と開墾

「私の知る限り、人の悪意をこれでもかと受けて現在の泥田坊がいるのです。子には裏切られ、残した土地を奪われ、その結果も無意味と散る」


 ぐさりと、サトリの言葉が胸に刺さる。

 俺のやってきた事と、泥田坊の結末が嫌にかみ合ってしまう。


 いったいどれほど土地を奪い、ラベリングして価値を埋め込んできただろう。無価値なことは分かっていた。無意味なことも把握していた、しかしそれから逃げられなかった。


 俺だってしたくない。俺が悪いわけじゃない。

 俺がやらなくたって他の誰かがそれをやる。


 そんな言い訳を重ね、ついには何も感じなくなっていた。


 俺はちびちびと茶を飲みながら、いつからか見て見ぬふりをしていた悔恨を思い出した。



「彼の生きた土地は誰かに売られ、誰かに買われ、変容して、変わり果てた後に捨てられた」

「……どこにでもある。現代じゃあごくありふれた話だ」


 つい、言葉を挟んだ。

 愁いを抱くサトリや哀愁塗れの泥田坊を思いやっての言葉ではなく、俺自身が胸の痛みから逃れるために吐いた詭弁。


 俺の言葉に嘘はない。がしかし、正しいだけ。それが、その正しさが何のためになる。

 正しさはいつだって平等だ、平等に人を傷つける。

 俺はその刃に耐えられなくって、この狭間に迷い込んだのかもしれない。

 

「今泥田坊が耕している荒地は、かつて……この空間が生まれたころはとても美しい田園だったと聞きます。その姿が失われてしまった理由の一端は……私にある」

 

 月明かりに照らされるサトリの顔には、俺と同じ……いやそれ以上の後悔が刻まれていた。


「私は……あの場所を人間に紹介したのです。私が生まれたばかりの頃でしたか……。人の心を見る能力を持ちながら、それを未然に防ぐ力を持ちながらそれを放棄してただ漠然と正しいと信じていた。」

 

 正しさは、人だけでなく妖怪にも害をなすらしい。


「何が……あったんだよ」


 俺の呟きで、湯呑の茶が揺れる。少しの間を開けて、やがてサトリは満天の星を見上げて語りだした。


「貴方のように、此処には時折人が迷い込む。どのような理由であるかはその場その場で変わりますし、帰り方も千差万別だ。」


 以前聞いたようなことを言った後、サトリの眉間の皺が深くなった。

 

「本来妖怪と人は深く交わらないものですが、此処へ来るものはその限りではない。妖怪を認知しそれでいて、悪意を持たぬもののみが此処へ来られる素養を持つ。私は知らなかったのです、悪意を持たずして他者を傷つけることができるなんて。」



 悪意のない所業と聞いて、俺は続く彼の言葉を推測した。

 俺の同類が……俺よりずっと前にここへと訪れていたのか。何時の時代にも、善と信じて悪を成す存在はいるもんだ。もしかしたら、俺以上に自分の中の罪悪感を隠すのが巧い人間だったのかもしれない。


「私が案内したその者は、あっという間に元からいた人間を率いてあの土地を開発しようとした。そうすればよりよい暮らしが手に入ると」


 正しい。その通りだ。

 俺はサトリ越しに聞いたそいつの言葉を肯定せざるを得なかった。


 

 言い方とサトリの言葉から察するに、高度経済成長期の人間だろうか。或いはもっと前……文明開化の時とか……。いずれにせよ人間とはもっとやれるんだ、進化の限界などないと信じて疑わない世代だろう。


「泥田坊や他の者は勿論反対して、ありのままを否定し姿を自分都合で作り変えるとは何事かと憤慨しておりましたとも」

「俺に並々ならぬ敵意を向けていたのも頷ける。奴さんに俺が親の仇のように見えたろうぜ」


 まあ蛇蝎の如く嫌われているのは最初から分かりきっていたことだ。それはいい。

 問題は、もっと深いところにある。


 サトリが俺に泥田坊を懐柔できるといった理由、俺がアイツに何かを感じた理由。奴と俺は、どこまでも似ているのだ。


「改めてどうか頼みます……。私の尻ぬぐいを指せるような真似をさせてしまい申し訳ない。恥知らずの懇願をどうか、聞いていただけますでしょうか」


 俺に向き直ったサトリは、腰を折り願い出る。

 ここまで言われて、本気を出さなければ男が廃るってもんだ。


 「任せろ。この守屋悠弥がこの名にかけて約束しよう。この商談、大団円に着地させて見せる」


 いつになく、俺はやる気になっていた。

 無意味を繰り返す泥田坊の姿、何も成せない姿に自分を重ねて許されようとしている。


「それは私も同様です。かつての過ちを、形を変えて償おうとしている大馬鹿者です」


 心を読む妖怪と、数字に取りつかれた男の後悔。

 もし、運命というのがあるのなら……やはり俺はここに来ることが決められていたのだろう。


 俺は、昔から運命という言葉が嫌いだった。命を運ぶ何者かの意思。運ばれる側の意思を無視したそれを、俺は快く思っていなかったからだ。


 でも、今こうしてすねこやサトリ、泥田坊と出会えたことも運命だとするのなら、存外悪くない事なのかもしれない。


 

「ははっ、そうだな。そりゃあいい。俺もアンタも馬鹿なら、泥田坊も大馬鹿だ。馬鹿同士変にこねくり回すよりい思いの丈をぶつけた方がいい分やりやすいってもんだ」


 

おもしろい、つまらない等、どんな感想・評価でもいただければ私はとてもうれしく思います。


もしよろしければぜひともお願いいたします。

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