第34話 絵世にざまぁ
魔穴の近くまで進軍。
魔導金属の1円玉が付けられた矢が放たれる。
何でかというと空に向かってじゃないとムーンブレイカーが物騒過ぎるからだ。
森を吹き飛ばしたいわけじゃない。
ドラゴンに矢が当たったのだろう。
爆発音が聞こえた。
「ギャャャオォォォ!!!」
凄まじい雄叫び。
寝ているところを起こされたんだから、そうもなるか。
ドラゴンが空中に羽ばたいた。
俺の所まで風が吹く。
ドラゴンが空中に上がって、俺はムーンブレイカーを抜いて狙いを定めた。
まだだ。
隙を見せるまで我慢だ。
ドラゴンは大きく息を吸い込んだ。
今だ。
ムーンブレイカーから光の束が立ち昇る。
宇宙戦艦の主砲があったらこんな感じなのかもな。
外したか。
だが、問題ない。
剣の向きを変えてドラゴンを追うだけだ。
サーチライトが動くみたいに、ドラゴンを追いかける。
ブレスが届く前に光がドラゴンに当たった。
ドラゴンに光が当たって盛大に火花を散らす。
ドラゴンは錐もみして落ちてきた。
どうやら死んだようだ。
戦いなんてこんなもんだよな。
実力が伯仲するなんてことは滅多に起こらない。
それが現実だ。
領主の館に帰ると、既に報せが行っていて、領主の顔はにこやかだった。
「ありがとう、おかげでこの街は救われた。この恩に報いるにはどうしたら良い」
「まずは、これを渡しておく。ムーンブレイカーは代々の家宝にするんだな」
領主はムーンブレイカーを抜くと起動したみたいだ。
1メートルほどの光の剣が出来上がる。
「ドラゴンスレイヤーも使い手によってはオークを倒すのが精々だな。まあ、家宝なんてそんなものだ。実際には役に立たない」
「褒美は……その前に人払いをしてくれないか」
「みんな出ていけ」
警護の者も全員が部屋から出て行った。
「拒否してくれても構わない」
「もったいぶるな。早く言え」
「真実の本を1日貸してほしい」
「なんだそんなことか」
「法律違反なんじゃないか」
「そうだな。だが、ばれなければ問題ない」
領主は執務室の金庫を開けると本を一冊取り出して差し出した。
「必ず返す」
「そうしてもらわないとややこしいことになる。まあ、なくなってもスキャンダルぐらいで収まるが」
さあ、横領の罪を俺に被せた絵世に復讐しに行こう。
日本に帰り、アポを取った。
絵世が俺の前で横領してないと宣言すれば、俺は示談金を払うと言ったら、会っても良いそうだ。
会議室に入る。
懐かしいな。
ここで会議を散々やった。
絵世と役員は全員揃っている。
会社の弁護士と俺が雇った弁護士もだ。
「忙しいところお集まり頂きありがとうございます。俺は面と向かって言われないと信用しない性質なんでね。絵世に語ってもらおうと思う」
「いいよ。それぐらいなら」
俺は真実の本を起動した。
「さあ、横領したか、してないかはっきり言って貰おう」
「私は、横領した。なにっ、口が勝手に」
「絵世君、どういうことだね」
社長が絵世を問い詰める。
「どういうことって私は横領した」
「みなさん聞きましたか。俺への告訴は取り下げてもらえますよね。絵世、お前には慰謝料を払ってもらう」
「くそっ、空気に自白剤を混ぜたのか」
「仮に自白剤だとしても、真実を喋ったんだろう。何の問題が?」
「絵世君、今日付けで懲戒解雇だ。告訴するからな」
「そんな……」
「倉本さん、申し訳ないことをした。会社を代表して謝らせてもらう。すまなかった」
「謝罪を受け入れるよ」
「退職金も色を付けて支払おう」
そんなはした金は要らないが、ケリをつけるために貰っておこう。
絵世は何もする気力がないようだ。
うなだれて、ぶつぶつと呟いている。
異世界に行き、速攻で真実の本を返した。
「少し光っているな」
「魔穴の向こうで使ったからな」
「まあ、良いだろ。真実の本が光っているが、問題ない。これぐらいは許容範囲だ。しかし、こんなことだけで良いのか」
「ああ、宿敵のひとりを退治できた。暴力ではなくて、法律で裁かないといけなかったからな」
「クラモトがこちらの女性と結婚できる手を思いついたが、聞くか?」
「こちらで結婚はしないつもりだが、聞いておく」
「魔力を全部使ってしまえば、クラモトはただの人と変わりない」
「そうなるだろう。魔力を吸う力が優れているわけではないと思うからな」
ただ、日本に戻れば、たぶんまた魔力が身に宿るのだろうな。
「前に飲んだビールがあるだろう。あれは凄いな」
「美味かったという意味か」
「いいや、魔水だったから、魔力構造が変化しているんだ。例えればスポンジだな。魔力を吸うスポンジ。あれを飲んだら魔力量が上がった」
「なんだそれだけか」
「貴族にとって魔力量がどれほど大事だと知っているか」
「知らないけど」
「魔力量が多ければ王族に嫁ぐことさえできるんだぞ」
「でも、魔水を飲んだ効果は一時的だろう」
「そんなの嫁ぐ前の検査さえ誤魔化せれば問題ない。知られたのが、わしで良かったぞ」
「分かった、ビールはめったに持ち込まない」
「それが良い」
魔力構造の変化か。
魔力を吸うスポンジね。
色々と応用が利きそうな事実だけど、面倒事も舞い込むのだろうな。
ポーション用の魔水も持ち込んでいるが、あれも同じだろう。
まあ、コスト的にあれを飲むのは散財だろうな。
大貴族ならあり得るのか。
ただ、魔水は俺から売っているとの情報は漏れてないはず。
領主がそういう情報を漏らすとは考え難い。
横流しもないと思う。
まあ、暴力で来ると対処は容易いが。
権力で来られたら、こちら側にめったに来なければ良い。




