第九章 王子、命の危機
第九章です。今回はかなり短くなってしまいましたが、是非読んでみてください。
王子を誘拐してから一か月。
あれから特に変わったこともなく、いつも通りの日常を送っていた。
四人は週に一度は王子を外へ連れ出すことにしている。それは王子が病気にならないように、そして王子が寂しくて死なないように、するためだ。
「きょうはおそらがくもってる」
空を見て少し残念そうな王子ではあったが、外に出られるという喜びのほうが大きいらしい。
「おかあさま、いこう!」
そう言って母の手を握る息子の姿に、三人はもう見慣れた。シトリンも子供の相手の仕方が少し分かってきたようだった。
いつも同じ場所では王子も飽きてしまうので、今日はもう少し森の奥のほうへ行ってみることにした。
「あ!おかあさま!あれみて!」
指をさした先にいたのは、草を夢中で食べている鹿の親子の姿だった。
シトリンは、膝をついて剣を抜こうとした。今日の晩御飯にでもしようかと思ったのだ。
「ころしちゃだめだよ!あのおやこ、すごくなかがよさそうだよ。まるでぼくたちみたい。ころしちゃかわいそうだよ」
シトリンはゆっくりと剣をしまった。
「おかあさま、ちゃんとぼくのいうこときけてえらいね!」
そう言ってシトリンの頭をなでる。
その様子に後ろで見ていた二人は笑いをこらえきれなかった。
しばらく森を進むと、急にシトリンが足を止めた。
「どうしたシトリ・・・・」
ゴゴゴゴゴゴゴ
突然大きな地響きがなった。
「な、なんだ!」
「地震か!?」
四人は原因不明の地響きに構えた。シトリンは目を瞑って耳を澄ます。人一倍耳がよく、そして気配を感じ取れるシトリンは、音の気配を素早く察知した。
「っ・・・・!」
巨大な岩が唸りを上げて迫ってくる。
途端、シトリンが王子を抱き寄せ、勢いよく地面を蹴った。
岩は背後をかすめ、間一髪で命を守ることに成功した。
「はあ、はあ、はあ、はあ・・・・」
呼吸が乱れたのはシトリンではなく王子のほうだった。
「お前ら!大丈夫か!」
少し離れた場所にいたコールとスピネルが駆けてくる。
二人は岩の進路から外れた場所にいたので、無傷であった。
シトリンは振り向きうなずく。
右手では震える王子の肩を支えていた。
「ガキ、お前がそんなに震えててどうすんだよ」
「ふ、震えてなど・・・・いない」
「ん?なんだ、その話し方。お前らしくないぜ」
「っ・・・・・」
王子の表情が凍り付いた。だが、そんな顔は彼らからは影になって見えない。そして胸をギュッと押さえて、ゆっくりと立ち上がった。
「だって、ぼくだってこわかったんだもん。ぼくも、おかあさまも、みんなしんじゃうかとおもった・・・・」
見せた表情は、もういつもの王子に戻っていた。頬を膨らませてシトリンに抱きついた。
「よかったあ・・・・!みんないきてて・・・・・おかあさま、こわかったよおお。たすけてくれて、ありがとう!」
「まあ確かに、お前みたいな子供には怖い出来事だったんだと思うぜ」
「だな。俺らに『怖い』感情がなくてよかったかもな。そうじゃなきゃスピネルが腰を抜かしてただろうさ」
「それはお前のほうだろ?」
王子のいつもの様子に、二人の表情も和らいだ。
「いやあ、ほんとよかったな!今のシトリン、かっこよかったぜ」
「だな。シトリンじゃなかったら、ああはできなかった」
シトリンは首を傾げる。自分の実力に全く気が付いていないようだ。
「お前、少しは自覚しろよな。自分がどれほど強いのか」
「ははは。だがこれでこそ、いつものシトリンだろ?」
「だな。ははははは!」
シトリンを前に笑い合っている二人を見てながら、王子は後ろで小さくつぶやいた。
「いつものシトリン・・・・か」
二人を見つめる目は、獣のような眼差しに変わった。自然と拳に力が入る。
「おーい、ガキ。何してるんだ?早く帰るぞ」
少し離れたところで三人が歩きながら、こちらを振り返った。
「はーい!いまいくよー!」
次の瞬間には、もう子供の顔に戻っていた。そして「まってよー!」と走ってシトリンの腕にしがみつく。
シトリンはそんな王子のために、少しだけ歩く速度を遅くした。
「お前はほんとにシトリンが好きなんだな」
スピネルがつぶやく。
「なあスピネル、お前にはシトリンが母親らしく見えるか?」
「あー、ついさっきまではそう見えなかったんだが・・・・・」
スピネルはシトリンと王子を見てから笑った。
「今はちょっと考えが変わった、かもな」
それを聞いてコールもうなずいた。
「・・・・・だな」
自分では気が付いていないが、シトリンが誰かに頼らず自分で行動したのは、これが初めてだった。
{太古の昔、神は突如として現れた。そして何千年という長い時間を過ごした神は、三人の者に自身の力を一部分け与えることにした。最初に授けた者はすでにこの世を去ってしまったが、彼の最期は美しいと言えるものではなかった。だが神は、彼に力を与えたことに後悔はしていない。神の紡ぐ物語は、まだ終わりを迎えていないからだ}
今回も最後までお読みいただきありがとうございました!




