第十章 誰かさんのせいで、騎士団も忙しい
ついに、第十章まで物語を紡ぐことが出来ました!ありがとうございます。
ここはマラカイトの宮殿の北側に位置する訓練場。
そこで騎士の格好をした二人の男が、自分たちの槍を布で拭いて手入れをしていた。
「はあ・・・・・最近、全然休めないっすね。団長」
ため息をついたのは、アウインという若い男だった。背中を丸めながら目をこすっている。
「ええ。どこかの王子のせいで、ですね」
団長と呼ばれた男の名は、エピドート。グラナイト王子専属騎士団の団長を務めている。アウインは彼の下で働いている。
「アハハ!よくそんなことを堂々と言えるっすね。王子が怖くないんすか?」
「グラナイト様は只今ご不在です。今が愚痴を言える絶好の機会と言えるでしょう。この機会を逃したら、次はいついなくなってくださるか分かりませんからね」
「アハハ!団長は相変わらずの性格っすね。思ったことは、ビシバシと言っちゃうんすから」
「アウイン、あなたもご存じでしょう。グラナイト様の性格を。あのお方のそばに毎日いたら、どんなに元気なあなたでも一気に老けてしまいますよ。どうです?あなたも一度あのお方に仕えてみては?」
アウインは黙って苦笑いをする。流石にそれは勘弁してほしいようだ。
「僕は遠慮しとくっす。遠くから王子をお守りするんで」
「もし王子専用のコーラルが結成されたら、私があなたをそのメンバーに推薦しておきましょう」
「それだけは勘弁してくださいよ!」
アウインが立ち上がると、エピドートは苦笑した。
「冗談ですよ。グラナイト様はコーラルが必要なほど弱いお方ではありません。私たち騎士がこうしてお仕えしているだけで十分ですよ」
それを聞いてアウインは胸をなでおろした。
「それでアウイン。頼んでおいたものは用意できましたか」
「ああ、あれのことっすね。心配しなくても大丈夫っすよ。ちゃんと用意できましたんで」
「それはよかったです。そうでなければグラナイト様が帰られたときに、私たちの命はないかもしれないですから」
「そんな冗談やめてくださいよ!」
「あなたはあのお方の性格を知らないようですね。普段はとても冷酷で、聡明なお方ですが、昔から特定のものへの執着は、私でも手に負えなかったものです」
「そうなんすか?王子の中でも、執着という言葉は一番似合わなそうっすけど」
「アウイン。話をすることは悪いことではありませんが、手が止まっていますよ」
「あ、すんません」
アウインはしばらく黙って手を動かす。
「そういえばなんすけど、どうして王子はあんなものを用意させるんすか?王子には要らないと思うんすけど」
おしゃべり好きなアウインは、黙って仕事をすることができないようだ。
エピドートは、そんな彼をやれやれといった様子で見る。
「フフフ、そのうち分かりますよ」
「え、団長は教えてもらったんすか!」
「いいえ。ですが、長年あのお方を見てきたので、なんとなく分かってしまうのですよ。全く困ったものです」
「団長って、やっぱすげえっすね!僕も下っ端っすけど、王子に認めてもらえるように頑張るっす!」
「フフフ。そなれらばまずは、その口の悪さから直していきましょうかね」
「・・・・・・」
アウインは恥ずかしそうに、頭をポリポリとかくのであった。
同時刻、街の中心部。
コールは古い靴屋に足を運ぶ。
「じいさん、入るぞ」
そう言って扉を開けると、中で仕事をしていた老人がこちらを振り返る。
「おお、来たのかい」
「ああ、この前は世話になったな」
「あれくらい大したことはない。それで、今日はどうしたんじゃ?」
老人はコールを椅子に座るように促す。長い机を挟むようにして、二人は椅子に座った。
「ああ、また頼みごとがあるんだ」
「それはこの前の任務のことかい?」
「ああ」
この老人、実はマラカイトに潜入しているモルガナイトの情報屋だ。
普段は靴屋を営みながら、客から情報を聞き出している。
コールも、何回か彼にはお世話になっている。
コーラルの一人が密書を持っているという情報を提供してくれたのも、王子を誘拐するために宮殿の情報を提供してくれたのも、全てこの老人なのだ。
「それで、何を知りたいんじゃ?」
老人は優しい顔をして聞く。
「王子は今、俺たちのもとにいるんだが。王子の話によると、あいつは王に愛されていなかったらしい。このままでは、あいつが味方に付いても王を殺す機会がないかもしれない」
「それで?」
「今俺は他の策を練ってみているんだが、どうもいい考えが思い浮かばないんだ。何か新しい情報があれば、と思ってね。あればもしかしたら、そこから何かひらめくかもしれない」
「そういうことかい。でも残念なことに、君の役に立ちそうな話は今のところ持っていないんじゃよ」
「そうか・・・・」
コールは少し残念そうな顔をした。だがすぐに、もう一つ気になっていたことを思い出した。
「なあじいさん。王子が誘拐されたっていうのに、街が静かすぎないか?スピネルは気にするな、と言っているが、俺は何かおかしいと思うんだ」
「ああ、確かにそう思うのも無理はない。だがね、コール。それは別に変なことでもないんじゃよ」
「ん?どういう意味だ、じいさん」
「お前が頭がいいことは知っているよ。だけどね、君は王と民の関係についてはあまり知らない。だからそう思ってしまうんじゃよ」
「王と民の関係だって?」
「ああ」
老人はゆっくりとうなずく。
「モルガナイトも、マラカイトも、国王が全権限を握っているのは知っているじゃろ?」
「ああ、知っているが」
「国を統べる王は、どんな時も完璧でなくてはならない。何かが少しでも欠けてしまうと、民たちは王に対して不満を覚えるんじゃよ。国というものは、民から収穫物と労働、そして軍役を徴することで成り立っている。民がいなくなってしまえば、その国もすぐに滅んでしまう」
コールは真剣に耳を傾ける。
「王子が誘拐されて行方不明になっていると民たちが知れば、王への不満がさらに高まるじゃろ?王はそれをなんとしてでも避けたいんじゃ。だから騎士団も、目立った行動はできない。密かには探しておるじゃろうが」
「なるほどな」
コールは納得した。
「じゃあ王子が行方不明になっていると民たちに広めれば、国に混乱が起きて王を殺さなくても、勝手に国が滅んでくれるかもしれないな」
「いや、それは無理じゃろう」
「何故だ?今じいさんだって言っていただろ?」
「それは最悪の場合の話だ。もしそれがたやすく起きてしまうのであれば、この国も、わしらの国も、とっくの昔に滅んでいるじゃろう。ちょっとした不満であれば、国が滅びるまでにはならん」
「・・・・・確かに、そうだな」
「モルガナイトも、マラカイトも、初めから国があったわけではない。誰かが指導者となり、国を建国して、やっと一つの国ができる。じゃが、破滅も早い。国ができ、滅び、また新しい国ができ、そしてまた滅びる。それの繰り返しじゃ。急がずとも、いずれどんな大国でも滅びる運命にある。わしら人間と同じなんじゃ」
「・・・・・」
「だがそれを待っているだけでは、何も変えることはできん。誰かがやってくれるのを待つのではなく、自分たちで行動するのが大切なんじゃ」
「・・・・・」
それを聞くと、コールは立ち上がった。
「ありがとう、じいさん。いいことを教えてもらった。冷静に考えてみれば、勝手に国が滅んでくれるわけないよな。ははは!」
そう笑ってコールは扉へ向かっていく。
「今まで通り、俺は自分の立てた計画を着々と進めてみるよ。我らが王のために」
コールは扉に手をかける。
「コール」
急に老人が呼び止めた。
「なんだい?じいさん」
扉に手をかけながら、コールは振り向く。
老人は少し迷った後、真面目な顔で言った。
「あまり、王を信仰しすぎないほうがいい。物事は自分の目で見て、感じて、それから自分の正しいと思った道を選んで進むべきじゃよ」
「っ・・・・・・」
コールは一瞬目を見開いたが、すぐに視線をそらし、そのまま靴屋をあとにした。
第十章も最後までお読みいただきありがとうございました!
みなさんのおかげで、私も楽しく物語を書くことができています!
これからも是非ハラハラ、ドキドキしながら読んでいただけると幸いです。




