第八章 小さな違和感
第八章です。いつもより少し短めですが、よろしくお願いします。
「なあ、俺がこうやって聞くのもおかしな話だけどよお」
コールが頬杖をつきながら聞く。シトリンとコールは買い出しのために街へ出かけている。
この拠点にいるのは、スピネルと王子の二人だけだ。
「なあに?」
「お前、どうして家に帰りたいって言わないんだ?本当は帰りたいだろ?」
「ううん、ちっとも」
王子は即答した。
「な、なんでだ?家族とかに会いたいとか思わないのかよ」
「うーん・・・・・だってぼく、おかあさまいないし。おはなしするひとも、あそんでくれるひともいないだもん。ここのほうが、ずっとたのしい!おかあさまもいるしね!」
「ああ、前もなんかそんなことを言っていたな。だから料理が得意だと」
「そうだよ」
「父親とも、仲良くなかったのか?」
「うーん、あんまりあったことないから、わからないなあ・・・・・」
「あー、そうだったのかよ」
二人の会話はこれで終わった。王子はお茶を飲む。今度はゆっくりと冷ましてから味わうことにした。
スピネルは誰かと話をするのが苦手だった。コールとは、会話が続くのだが。
「なあ、お前は王になりたいとは思わないのか?」
王子がお茶を飲む手を止めた。
「おうさまに?なんで?」
「普通、誰もが王の座が欲しいと思うだろ?」
「おうさまになったら、なにができるの?」
「そりゃあ全部だろ。うまいもんたくさん食って、臣下に命を下して、数えきれないほどの美女を妻に迎えて、お前みたいな顔立ちの子ガキが俺のことを『おとうさま』って呼んでくれるんだぜ?そんな生活一度でいいからしてみたいぜ」
「ぼくに、おとうさまってよんでほしいの?」
「そんなことを言ってるんじゃない。お前は確かに綺麗な顔立ちをしてると思うぜ。シトリンは何も思わないだろうが、そこらの女がお前を見たら目を奪われるだろうさ」
「ぼくが?」
驚く王子にコールはうなずく。
「ああ。お前がもし王になったら、妻を何人迎えることになるかな。そういう未来を見てみたいもんだ」
「そんなことしないよ!ぼくはいちずだもん!」
「一途?よくそんな言葉知ってるな」
「っ・・・・・」
王子は言葉を詰まらせたあと、慌てて表情を作った。
「ぼ、ぼくのメイドが、よくはなしてるんだ。おんなのひとって、そういうはなしをするのがすきみたいだから」
「ああ、そうだったのか」
スピネルは深く考えることもなく納得した。女というのは、誰が誰を好きで、誰が誰の女を奪ったか、などといった他人の恋の話を聞いて、まるで自分事のように胸を高鳴らせるのだ。
「宮中だと、王子の恋愛事情とかについて話してんだろうな。あんなにいっぱい王子がいるんだ。お前のように顔がいい男もたくさんいるんだろ?メイドたちがキャーキャー言ってそうだな。頑張れば自分が妾になれるんじゃないか、とかな。ははは!」
「ん?なんのおはなし?」
「おっと、坊主にはちょっと早かったか」
スピネルが気まずそうにしてたところに、外に出ていた二人が戻ってきた。
「おお、いいところに帰ってきてくれたな」
笑顔で出迎えるスピネルとは違って、二人の顔は穏やかではなかった。
「二人とも、どうしたんだ。街で何かあったのか?」
コールは難しい顔をしながら、買ってきた食材を机に置く。
「それがな」
コールは王子のほうをチラッと見た。その様子に気が付いたスピネルはシトリンに言う。
「シトリン、ガキと外で遊んできてやってくれ。しばらく太陽に当たってないから、病気になっちまう」
シトリンはうなずくと、王子の手を引いて外へ出ていった。
王子は「えー、ぼくもききたい!」と駄々をこねていたが、今回ばかりは許されなかった。
その様子を確認すると、コールは腕を組んで話し始める。
「食材を買いに街の中心部まで行ったんだけどよお。どうもおかしいんだ」
「何がだ?」
「一国の王子が誘拐されたというのに、騎士団が動いている様子が一切見られない」
「そうか?裏では探してるかもしれないだろ?お前が前言ってたじゃんか。後継者争いから一番遠い第五王子だったら、いなくなってもそこまで大きな騒ぎにはならないって」
「確かに最初はそう思った。だが、それにしても・・・・・」
「何がそんなに心配なんだ?むしろ大掛かりに探されないほうが、俺らにとっては都合がいいんじゃないのかよ」
「それは、そうなんだが・・・・」
コールは顎に手を当てる。
「なんか・・・・・違和感があるんだよな・・・・・」
「違和感?」
「ああ・・・・・なんか腑に落ちないんだ・・・・」
「あ?腑に落ちない?」
「ああ、だが・・・・・何に対しての違和感なのか・・・・何に対して腑に落ちないのか・・・・分からないんだ・・・・・」
「分からない違和感なんか、違和感じゃねえよ。お前の勘違いだ」
「・・・・・」
「ああ、心配すんなって。俺も今日あのガキと話して、確信したことがあるんだ。あいつは親からも、周りのやつらにも愛されなかった生活を送ってきたらしい。だからあいつがいなくなっても、誰も気にしてねえんだよ」
「あいつがそう言ってたのか?」
「ああ」
スピネルは先ほどの王子との会話の内容を共有した。話し終わると、コールが口を大きく開けて頭を抱えた。
「おいおい、そっちのほうがまずいだろ。それが本当なら、あいつを味方に引き入れたところで、そもそも王に会えなきゃ王を殺せないじゃないか!」
「ああ!」
スピネルも口を開けた。
「このままだと、俺らが命を懸けて盗んだ宝の価値が完全になくなっちまうってことだよな」
「そうだ。なんのためにあんな危険を冒してまで王子をさらってきたのか。このままだと、振り出しに戻ることになる」
「おいおい、それだけはまずいって。唯一の策なんだろ?」
「ああ。今のところ、これ以外にいい案はない」
「でもよ、さすがに自分の子供だぜ?誘拐された子が帰ってきたら、一度くらいは会いに来るんじゃねえか?」
「・・・確かにそうなる可能性も、なくはない・・・・・」
「だったらよお、その確率にかけてみようぜ」
コールは真剣なまなざしで考えて答えを出した。
「・・・・・・ああ、そうするしかなさそうだ」
コールは頭を押さえる。
「俺は万が一に備えて、新しい策がないか考え直してみることにする」
「おう、任せたぜ。でもよ、そんなに心配することもねえと思うぜ。俺らは運がいいからよ!」
「ああ、そうなることを願おう」
別の問題が浮上したことで、コールは初めに感じた違和感のことに目を向けなくなった。
だが、このミスが後に彼らに大きな影響を与えることになるとは、思ってもみなかった。
今回もお読みいただきありがとうございました。




