第七章 モルガナイトとマラカイト
第七章です。この辺りから少し話が複雑になっていくので、分かりづらかったらごめんなさい。
「ねえねえ! モルガナイトはどんなくになの?」
その一言から始まったこの任務は、思ったよりも彼らを疲れさせた。
王子にモルガナイトによい印象を与え、逆にマラカイトの印象を下げる。というものである。
「モルガナイトはな。冬は寒いが、夏は涼しくて過ごしやすい場所だ。鉱山がだらけだから、武器とか鎧とか、そういったもんを簡単に作れる」
「そうそう。この辺の国の中では軍事力では、モルガナイトが一番だろうな」
「ほかには?」
「景色もいいぜ。高い山々は冬になると雪が積もる。それが絶景なんだ」
「へえ、ほかには?」
「川も綺麗なんだ。水が透明で、川底にいる魚まではっきり見えるんだぜ」
「たべものは?なにかおいしいものとかある?」
「食べ物・・・・・食べ物か・・・・・」
三人は自慢できそうなものを探してみるが、思い当たらない。
「鉱山が多い分、作物を育てられる土地が少ないんだ。それに土も悪くて、ジャガイモやサトイモくらいしか育たない」
「だから他国からの輸入で賄っていたんだよな。だが貧しい者は輸入品なんて高くて買えなかったから、満足に食えていないんだ」
「だから俺は、生きるためにこの組織に入ったんだ」
「そうなんだあ。みっていになるまえは、なにをしてたの?」
「毎日食べるものに困ってたからな。盗みとか色々とな」
「へえ!スピネルおにいさんも?」
「いや、俺は家族がいたからな。こいつよりはマシだったぜ。だけどそれでも毎日満足には食べれなかったからよお、俺もこの組織に入ったんだ。俺の身と引き換えに、家族のとこには多少金が入っただろうな」
「そうだったんだね。でもマラカイトにはおいしいもの、いっぱいあるんだよ!」
「ああ知ってる。だから我らが王は、まずこの国に目をつけたんだろうさ。周りの国を統一するとなると、おそらく長期戦になる。その時に、食糧確保が一番の問題になるだろうからさ」
言い終わると、コールはハッとした。味方の情報を敵国の人間にうっかり話してしまったからだ。
「うーん、むずかしくてわからないよお」
そう首を傾げる王子の様子に、コールはホッとする。敵国の人間とはいえ、この子はまだ五歳である。こんな難しい話を聞かれたところで、問題はないだろう。
「そんなことよりもさあ」
王子は話題を変えた。
「かんじょうをなくすクスリって、ほんとうにあるの?」
予想外の質問だった。
「どうしてお前はそんなことが気になるんだ?」
「だって、それってふしぎでしょ?まほうみたい!」
「魔法、か」
「うん!まほうをかけられたなら、おにいさんたちのこころも、まほうでとけるかもしれないよ!」
「魔法で解ける、だと?」
「うん!」
笑顔でうなずく王子の前で、二人の男は困惑する。
「それは無理だろうな」
「どうして?」
「それは魔法じゃないからだ」
「まほうじゃないの?じゃあどうやってつくったの?」
「それは・・・・」
二人は言うべきか否か迷ったが、王子が「ねえおしえてよお!」とあまりにせがんでくるので、とうとう二人は折れてしまった。
「どうせ難しい話で、このガキも理解できねえだろうさ」
「確かにな」
二人は王子に話し始めた。
「俺たちが飲んだ薬っていうのは、先代のモルガナイト王の血液らしい」
「ええー!」
二人は薬を飲まされた夜のことを簡単に語った。だがやはり五歳の頭にはそれを理解する力などないようで、最後まで話し終わると難しい顔をする。
「やっぱりぼくにはむずかしいや」
「だろ?だからあんまり聞かねえほうがいいんだぜ」
「けつえきをのんだっていうことだけは、わかったよ!でもなんでけつえきに、そんなちからがあるのかなあ」
「おーそこだけは理解できたようだな。偉い偉い!」
二人がからかうと、王子は頬を膨らませて拗ねてしまった。
「だから俺らの感情は、そう簡単には戻らねえんだ。俺らだってあの薬について全く知らねえんだからよ。ま、俺らもそれが悲しいとか思ってねえけど」
「だな」
王子は頬杖をつきながら一瞬迷った後に口を開く。
「ねえ・・・なかまがしんじゃっても、やっぱりなにもかんじないの?」
王子に聞かれて二人は目を合わせる。
「ありがたいと思ってるぜ。俺らがさらに強くなるためには、あいつらの死が必要不可欠だったんだ」
「だな。我らが王は、俺たちが成長するための試練を用意してくださった。仲間の死を乗り越えて、また一つ強くなるっていうな。本当に、仲間たちには感謝しているよ。彼らの命は俺たちの命の一部となり、俺たちの力をさらに強めてくれた」
「それなのに、俺らは勘違いをして、王にひどい言葉を浴びせてしまったんだ。ほんとに、なんであの時俺らは全員で立ち向かっちまったんだろうな」
「笑えるよな。はははは!」
王子はそんな二人を怪訝な目で見る。だが、その様子に二人は気が付いていない。
その時、シトリンがお茶を入れてきた。
「気が利くな、シトリン」
ずっと話していた二人の喉はカラカラだった。もちろんそれは王子も一緒だった。
「わーい!おかあさまがいれてくれたの?いただきまーす!」
王子は表情をコロッと変えて勢いよくお茶を飲む。
「あっち!」
王子は赤くなった舌を出した。
「急いで飲むからだよ」
「ゆっくり飲むこともできねえのか?ははっ!やっぱお子様だな!」
「ううー!」
子供扱いされて機嫌を悪くした王子に、シトリンが樽からすくった水を差しだす。
「あいがおう」
真っ赤な舌を出しながらお礼を言うと、王子は水を飲んだ。ひんやりしていて気持ちいい。
「あー、いたみもひいたよ!」
元気になった王子はまたしゃべり始めた。
「あついけど、おかあさまのいれたおちゃ、とってもおいしいよ!」
「そうだな。お前少しは母親らしくなったんじゃねえか?」
「この前はどっちが親だか分からなかったけどな」
王子に朝食を食べさせてもらっていた様子を思い出して二人は失笑する。
「あれは、たしかに」
「今思い出すと、変な親子だったな」
何がそんなに面白いのか理解できずにいるシトリンの前で、二人は声を出して笑い合っていた。
そんな三人を見つめていた王子の瞳が、かすかに光った。
第七章まで読んでくださってありがとうございます!
みなさんは、王子のことをどう感じていらっしゃるのでしょうか。少し気になります。




