第五章 王子、驚きの提案
第五章です。ここから段々と面白くなっていきます。
「あ、おにいさん、おはよう」
「あー、えっと、おはよう」
朝起きると、王子の様子が昨日と何か違った。
「えっと、お前、どうしたんだ?」
「んー?なにが?」
「いや、だって・・・・」
コールは机の上に置いてある料理を指さして言った。
「いろいろとおかしいだろ!」
「だからなにが?」
王子は子供っぽく口に指をあてる。
「なにがじゃなくて、なんでお前が朝飯を作ってんだよ!」
「ああ!なるほど!そのことか!」
「はあ?」
コールの天才頭でも、この謎は解けないらしい。
「そもそも、俺たち昨日お前を縄でちゃんと縛っていただろ?なのになんでお前が自由に動けているんだ?」
「ああ、それはね。シュルルルルって、なわがほどけちゃったんだ!みんなねてたから、かわりにごはんつくっちゃった!」
「作っちゃった!じゃないって」
ギギギイイ
木の擦れる嫌な音と共に、扉が開いた。
「見回り終わったぜ・・・・って、なんでこいつが歩き回ってんだよ!」
拠点の周辺を見回りに行っていた二人が戻ってきた。
「コール!お前が縄を解いたのか?」
「俺じゃねえよ。こいつが自分で解いたんだ」
「うん。ぼくがやったよ。だってゆるかったんだもん」
その言葉を聞くとコールは呆れ顔になってスピネルを見る。
「おい、確か昨日お前が縄を結んでたよな?」
「・・・・・・」
「何が俺のせいだ。お前のせいじゃないか、まったく」
喧嘩しているように見えるが、実際はその逆だ。彼らには「怒り」の感情はないので、子供のじゃれあいのようなものだと捉えていいだろう。
「・・・・・俺のせいだったよ。悪かったな」
「分かったならそれでいいんだ」
二人はまた笑顔になる。こうやってみると、普通の人間にしか見えない。
彼らが今まで何人も殺してきている男たちには見えなかった。
王子はシトリンをチラッと見る。彼女は密偵ではあるが、どちらかというと何かを探るよりも殺しを任されるほうが多かった。その理由は言うまでもないだろう。
「それで?縄を解いたお前が、どうして逃げずに朝飯を作っているんだ?」
ここでようやく最初の疑問にたどり着いた。
「ごめんなさい。おいてあったたべもの、かってにつかっちゃった」
「それを聞いているんじゃない。どうして逃げなかったのかと聞いているんだ」
「ああ、なるほど」
またいつもの口癖、質問の意味を理解できたらしい。
「それはね、ぼくがここにいたいっておもったからだよ!」
「は?」
「あ、でもあんしんして。ぼく、しっかりはたらくから!」
「は?」
かみ合わない会話が少しの間続いた。そこでようやくスピネルが会話に割って入ってきた。
「二人とも、一旦話をやめてくれよ。このままじゃ一生終わりが見えねえぞ」
シトリンも二回ほどうなずいた。
「スピネル、シトリン。こいつの話を聞いてやってくれ。俺は少し疲れた。こんなに脳を酷使したのは初めてだ」
「こくし、ってなに?」
「ああ、もうやめてくれ・・・・」
説明をあきらめて、コールはベッドへ倒れ込む。二人は特に心配をすることもなく、王子に向き直った。
「それじゃあ教えてくれ。なんでお前は逃げずにここに残りたいんだ?」
「それは、おにいさんたちと、もっといっしょにいたいからだよ!」
「うーん、お前は俺たちのことを誤解しているな」
スピネルは膝をついて、王子と目線を合わせる。
「俺たちは、お前を使って、お前の父親を殺そうとしているんだ。だから、お前が俺たちのために料理なんて作る必要もない。むしろ、俺たちのことが怖くて、隙をついて逃げようと企んだりするのが普通なんだ。分かるか?」
「ふうん、でもそんなこといっちゃっていいの?おにいさんたちには、ぼくがにげないでいるほうがつごうがいいでしょ?」
「・・・・・そりゃあ、そうなんだが・・・・・」
スピネルは困ってしまった。
「なんていうかよお、お前が子供らしくねえから、なんか不気味なのかもしれねえな」
「こどもってこんなもんだよ!へへへ!」
「まあとにかくな、もう二度と俺たちと一緒にいる、なんて言うんじゃねえよ。もう少しだけ普通の子供みたいに怖がっていてくれ。分かったか?」
「・・・・・」
そう言われると、王子はうつむいてしまった。
「ん?なんで返事しないんだ?」
「・・・・やくそく、できないから・・・・・」
「あ?」
「ぼく、やくそくできないよ!」
王子はうつむきながらも、きっぱりと言った。
「だから、なんで」
「ぼく、おにいさんたちのこと、もっとしりたいんだ!」
スピネルは困った表情を見せる。
「ぼく、いままでそとのこと、しらなかった。でも、ずっとでてみたかった。おにいさんたちみたいな、『みってい』?がいるのって、きっとわるいことなんでしょ?そのことについて、もっとまなびたいんだ!」
「学ぶ?そんなことをか?」
「うん!こわいひとたちのはずなのに、なぜかぼくはこわいとおもわない!ぼくとたくさんはなしてくれたから!きっと、いいひとなんだとおもう」
王子はスピネルの手を握りしめる。
「だからね・・・・おにいさんたちのはなしをきいて、もし、おとうさまがわるいひとだったら・・・・ぼく、おとうさまをころすの、てつだうよ!」
「はああああ?」
スピネルは頭を抱えた。だがそれも当然のことだ。この子供は、初対面の誘拐犯とたった一日過ごしただけで、自分の父を殺すと言い出すのだから。
「急になんで・・・・むしろ俺たちにとってはいいことなんだとは思うが・・・・」
その通り、願ってもない提案である。もともとこの計画では、王子を何らかの方法で脅迫して協力させる。というものであった。脅迫になるような材料と、それを探す手間が省けたのだから、三人にとっては都合がよすぎるくらいだ。
だがこの状況では喜ぼうにも、素直に喜べない。
「もちろん、じょうけんがあるよ。いまもいったけど、おとうさまがわるいひとで・・・・しんだほうが、みんなしあわせになれるなら・・・・そうする」
「お、おう。それだけか?」
「あと、もう一つ」
王子はそう言うと、シトリンを指さした。
「おねえさんが、ぼくのおかあさまになること!」
「「・・・・・・」」
「えええええええええ!!」
一瞬思考が停止した後、スピネルが拠点がグラつくほどの大きな声を上げた。
「なななななんだよ!」
寝ぼけたままのコールがベッドから飛び降りてきた。
シトリンは何事もなかったかのように、その場に立っている。
「急に大声出しやがって、なんのつもりだ!」
「おか・・・・おかあ・・・・おかあ・・・・・・」
「はあ?」
スピネルは驚きすぎて声が全く出ていない。
「おい、シトリン。何があったんだ?」
コールは寝ぼけて、全く役に立たない助っ人に説明を求めた。
もちろん返答はない。ただ肩をすくめるだけだった。
「おい、王子!何があったんだ?説明しろ!」
急に迫られて、さすがの王子も恐怖を感じたようだ。反射的に一歩後ろに下がってから、慌てて説明を始める。
「・・・・えっと?じゃあつまり、王子が父親を殺す代わりに求めた条件の一つに、シトリンが母親になるというものが入っていたと・・・・」
言葉にして再度王子の言葉の意味を確認すると、コールは「もう俺にはついていけん」と言いながら、フラフラとベッドに戻っていった。
その間に、スピネルはいつもの元気さを取り戻した。
「なあ坊主。話せないシトリンの代わりに、俺がいろいろと聞いてもいいか?」
「いいよ!なんでもどうぞ!」
王子は満面の笑みを見せる。
「どうしてお前は母親が欲しいんだ?」
「ぼくには、おかあさまがいないからだよ。ぼくをうんですぐしんじゃった」
「そうか。ずっと母親の愛がほしかったんだな。じゃあなんでシトリンを母親に選んだんだ?」
「それはね、ひとめぼれだよ!」
「ひとめぼれ?シトリンにか?」
「うん!」
王子は顔を赤らめながら、シトリンの前に膝をついて改めてお願いした。
「おねがいです。ぼくのおかあさまになってください!」
お読みいただきありがとうございました。
少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。




