第十八章 太陽と月
第十八章です!是非お読み下さい!
「シトリン、目を覚ましてくれ!」
グラナイトは必死に訴えかける。
「無駄だ。薬の作用というものは非常に複雑でな。余がいないときはお前たちの言うことを聞いていたかもしれないが、余の前ではいくらお前たちと仲が良かったとは言え、余の命令にしか耳を傾けない」
「っ・・・・・・・!どうすれば・・・・・・・!」
彼女が生きていた・・・・・・・それは涙が出るほど嬉しかった。
だが、今は素直に喜べない。どちらか一方が命を落とすなど、絶対にあってはならない。
「シトリン、思い出すんだ!神に与えられた力とは一体何だったのかを!」
「・・・・・・・・」
シトリンは何も言わずにただ現王の目を見ているだけだった。
まるで命令を待っているかのように。
「構わぬ。さあ、殺せ」
途端にシトリンがこちらへ走り出し、宙を舞った。
「っ・・・・・・・・!」
鋭い剣先が振りかかってくる。
カキーン!
金属同士がぶつかり合う音が鳴り響く。
「シト、リン・・・・・・・・!」
腕がもう限界だった。何度も何度も激しいぶつかり合いの末、遂に______
キーーーーーン・・・・・・・・・・・・
グラナイトの剣が弾き飛ばされた。
「っ・・・・・・・・・!」
目の前に剣先が迫る。
抵抗できない。
これで・・・・・・・終わりなのか・・・・・・・・・
グラナイトは目を瞑った。愛する人に殺されるのであれば、本望だ。
だが、せめて『愛してる』と伝えたかった。君のおかげで僕は変われたと・・・・・・・
多少の悔いを残して、僕は死ぬはずだった。
だが、いつまで経っても痛みを感じない。
恐る恐る目を開けてみる。
「っ・・・・・・・・!」
シトリンは今まさに剣を振り上げていた。しかし、その刃は振り下ろされることなく、空中で止まっている。
「・・・・・・・・・・」
シトリンの唇が震えている。
何故だ・・・・・今まで人を殺すことに何のためらいもなかったはずなのに・・・・・・何故・・・・・
「何をしておる!早く殺さぬか!」
その時、シトリンの瞳から一筋の涙が零れ落ちた。
「シト、リン・・・・・・・・・?」
グラナイトはその涙を手で拭ってあげた。
すると、シトリンの手から剣が滑り落ちた。
ガクリと膝から崩れ落ちると、シトリンは体制を崩した。
床に倒れる前に、グラナイトは抱き寄せる。
その時だった。
二人に刻まれている模様が白く光ったのだ。
その光は徐々に二人を包み込み、グラナイトは思わず目を瞑った。
「・・・・・・・・・」
目を開くと、見覚えのある空間に座っていた。
腕の中にはシトリンをしっかりと抱きかかえながらあたりを見渡した。
やはり周りには何もなく、ただ雲がかかっているだけだ。
グラナイトは前にも一度、この空間へ来たことがある。
「ほう。ようやく二人とも戻って来たのだな」
聞き覚えのある声に思わず振り向いた。
「あなたは・・・・・・・」
「久しいの。数年ぶりか」
目の前には神が立っていた。シトリン、そして自分に力を与えた者。
「何故僕たちはここに?」
「それは二人の運命がここへ導いたのだ」
「運命?」
「ああ。シトリンは太陽、そしてそなたは月。二人にはそれぞれ異なる宿命を持っておる。わしはまず初めにシトリンに太陽の力を与えた。そして、その次にそなたに月の力を与えたのだ。月は太陽がなければ輝けぬ。それはそなたも知っているだろう?」
「ええ、まあ」
「シトリンに与えた力というのは、月の力を持つ者と出会い、その者に自身の持つ力を分け与えることで、その者の持つ隠された力を最大限に引き出せる、というものだった」
「それは、つまり・・・・・・」
「強大な力を持っているのはシトリンではなく、そなたなのだ。だが、そなたはその力を一人では引き出すことは出来ない。太陽が月を照らすことで月が輝けることと同じように、シトリンがいて、初めてそなたの力が発動する」
「ですが、それはおかしな話では?シトリンにその力を与えたとして、その後に月の力を授かった者が私でなく、他の者だったとしたら、一生シトリンに会うことができずに力を発動できなかったかもしれないのですよ」
グラナイトの疑問に神は頷く。
「確かにその可能性は大いにある。だが、わしはそなたらの縁があの一度の出会いだけで終わるようには見えないほど固く結ばれていることに気が付いた。神は、人の縁をこの目で見ることが出来る。シトリンに力を与えた後、月の力を誰に与えようかしばらく悩んだ。コール、スピネル・・・・・彼らも彼女との縁は強く出ておる。だが、その中でも特に赤い糸で結ばれていたのが、そなただったというわけだ」
「あなたが過去に私をここへ連れて来たのは、シトリンのおかげだったと?月の力を与えてもらったのも、全てシトリンのおかげだったということですか」
それを聞いた神は首を横に振って言った。
「いいや。わしはそんな簡単には人間に力を与えはしない。そもそも、どれだけ素晴らしい人間でも、心が汚れていたらここへ連れてくることは不可能だ。善人は天へ上り、悪人は地獄へと落ちる。それと同様、生きている人間でも同じだ」
「ですが、僕は欲まみれの男です。そんな僕がここへ来る資格などないのでは」
「確かに昔のそなたならそうだったかもしれぬ。だがシトリンと出会い、知らぬ間に心の穢れも浄化され、民のために尽くせる王子へと成長したであろう?そなたなら、これからも十分期待できると思ったのだ」
「未来の私に託して下さったと?」
「ああ、そういう風に捉えてもらって構わぬ」
それを聞いてグラナイトの胸はいっぱいになった。やはりシトリン、そしてたくさんの仲間がいなければ今の自分へと生まれ変わることは出来なかったのだ。
「ん・・・・・・・・」
腕の中で声がして、慌ててのぞき込むと、シトリンがゆっくりと瞼を開けた。
「シトリン・・・・・・・!」
名前を呼ぶと、シトリンと目が合った。その瞳には、確かに光が灯っていた。
「グラナイト様・・・・・・・・・」
確かにハッキリと自分の名を呼んだ。
「シトリン、僕が、分かるのか・・・・・・?」
「はい。ようやく全て思い出しました・・・・・・」
「何故今になって・・・・・・・」
「薬を飲んだ時点で、既に彼女の感情は戻っていたはずだ。だが、彼女は父親を憎むことができずに感情と記憶を自分自身で無意識に封じ込めてしまったのだ」
神が説明をすると、シトリンは頷く。
「どうやらグラナイト様を殺めたくないという強い思いが、私の感情と記憶を呼び覚ましたのだと思います・・・・・・・今まで本当にご迷惑を・・・・・うっ・・・・・・」
シトリンが胸を押さえて苦しみだした。
「シトリン、どうしたんだ!」
「案ずるでない。これがこの子の代償だ」
神は冷静に言った。
「代償?」
「ああ。たくさんの命を奪ってしまったことへの、な」
その時、シトリン目から大粒の涙が次々と零れ落ちる。
「私が・・・・・選択を誤ったせいで、多くの者の命が消えていきました・・・・・・私自身も、どれほどの数の命を奪ったことでしょう・・・・・・・・」
シトリンの呼吸が荒くなる。彼女のせいではないが、自分を責めてしまう気持ちは痛いほど分かる。
「シトリン、お前のせいではない・・・・・・・お前のせいでは・・・・・・・」
震える彼女を強く抱きしめた。この苦しみを僕と分かち合うことができたなら、彼女はもっと楽になれただろうに。
「あの時、父を信じずに止めればよかったのです・・・・・・・そうすれば・・・・・・誰も死ぬことなどなかった・・・・・・・・・」
どれほど後悔しても失ったものは戻らない。だからこそ、こんなにも心が締め付けられるのだ。
「シトリン、今からでもいい。現王を、いや、お前の父を止めよう!」
「グラナイト様・・・・・・・」
「この残酷な時代に終止符を打つべきだ。お前に難しければ、お前は下がっていていい。わざわざ見る必要はない、僕たちでなんとかしよう」
すると、シトリンはグラナイトの手を握った。
「いいえ。私にも手伝わせてください。次こそ・・・・・正しい選択をさせて下さい・・・・・!」
「シトリン・・・・・・お前はそれで平気なのか?」
「はい、やらせて下さい」
シトリンの固い意志に、グラナイトは深く頷いた。
「決まったようだな。シトリン、もう思い出したであろう?太陽が月を照らす方法を」
「はい。グラナイト様、私の力をあなたに捧げます。これで、父を・・・・・・・」
シトリンは震える手で体から光を取り出す。そしてグラナイトに渡した。
「感謝する。必ず、やり遂げて見せる」
震える手を優しく握り、抱き寄せた。
「さあ、行ってこい。そしてこの世界をよりよい世界へと導くのだ」
まばゆい光に包まれると、神の姿は徐々に遠ざかっていった。
いかがでしたでしょうか。お読みいただきありがとうございました!




