第十九章 ワチが犠牲になっても
第十九章です。どうぞお読みください!
「あ、帰って来たぞ!」
「何があったんだ?王子さん。急に消えたから何が起きたのかと」
コールとスピネルの反応からして、少しの間僕たちは消えていたみたいだ。
「もう大丈夫なのかよ」
「そうだ、シトリンは?」
二人がシトリンに視線を向けると、シトリンは
「もう大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
と優しく笑った。
「え・・・・・・・・・」
二人は顔を見合わせると
「「シトリンが笑ったあああああああああああ!」」
と抱き合いながら叫び声をあげた。
「今までごめんね。迷惑をかけたよね。でももう大丈夫。私は記憶も感情も、そして声も取り戻せた」
そう言うと、父のほうを向いてハッキリと言った。
「私はあなたを許しません!命を懸けてもあなたを止めて見せます!」
「この父に歯向かうつもりか」
「今更父親気取りしないで下さい」
「ほう、ならばやってみよ」
王がそう笑って右手を挙げると、奥から十数名の騎士たちがゾロゾロと出て来た。
「くっ・・・・・・あの二人、血を飲ませられなかったのか・・・・・・」
「それはそうだろう。あの騎士らが血を飲ませようとしていることは、シトリンを通じて余の耳に入っていたのだからな」
五人は囲まれてしまった。
だが、五人はこの騎士を殺すことなどできない。殺すのは現王だけだ。
「お前は娘までも殺そうというのか」
「私の頭の中で悪魔の声が繰り返し聞こえるのだ。コロセ、コロセとな。娘であろうが誰であろうが、殺さねば余がやられる。それを教えてくれたのがその悪魔なのだ」
「悪魔だと・・・・・・」
「シトリンがいなければ余はあの扉を開いた瞬間に、神には会えずに地獄へと落ちていたらしい。シトリンのおかげで現世に戻れたものの、その代償として悪魔の声が鳴りやまないのだ」
「だからと言って、悪魔のせいにして命を奪っていいはずがないだろう!」
「うるさい。お前の声はまるで雑音のように頭に響く。おい、さっさと殺してしまえ!」
五人はとっさに剣を構えた。
だが、予想外なことに騎士の半数が逆に剣を降ろした。
「な、何をしている!早く殺せ!」
王が怒鳴ると、一部の騎士たちは五人に剣を振りかざそうとした。
だがそれは叶わず、仲間の騎士たちに取り押さえられてしまった。
「な、何が起こっているのだ・・・・・・」
王が唖然としていると、部屋の扉がゆっくりと開いて誰かが入ってきた。
月の光が彼らを照らす。
「っ・・・・・・エピドート!カーネリアン!」
グラナイトたちの顔が一気に明るくなった。
「遅くなり申し訳ございません。予想以上に手こずってしまいまして」
エピドートが頭を下げると、スピネルが叫んだ。
「どうしてここにいるんだ!何が起こってるんだよ!」
その問いに、グラナイトが答えた。
「僕たちが宮殿へ入ったあと、こっそり二人にも侵入してもらっていたんだ。そして僕の目を共有させてあの騎士二人を見張っておくように頼んでおいた」
「ええ、彼らを見張っていたら、二人が他の騎士に殺されそうになっているのを目撃したんです。恐らく現王が命令したのでしょう。私たちは二人を助け、一部の騎士に液体を飲ませることに成功したのです」
「ですが、どうしても全員に飲ませることはできませんでした。申し訳ございません」
カーネリアンも頭を下げると、グラナイトは二人の肩を優しく叩いた。
「心配するな。二人のおかげで命を救われた。まだ飲んでいない彼らにも液体を飲ましてやってくれ」
「はっ。かしこまりました」
その時だった。
「ふざけるなあああああ!」
王の怒鳴り声が部屋中に響き渡った。
「お前はもう終わりだ!お前を守ってくれる味方はもういない!諦めて降参しろ!」
「降参など、してたまるか!絶対にしないぞ!してたまるかあああああああああ!」
その瞬間、大きく地面が揺れた。
「地震・・・・・・か?」
だが、そうではなかった。ドーンと大きな音と共に、地面にヒビが入り、黒い何かが這い上がってきた。
「何なんだ!」
「スピネル!伏せろ!」
舞い上がった岩や石が降ってくる。その場にいた全員が頭を守った。
「一体・・・・・何が・・・・・・・・」
辺りが落ち着き、目を開けると、驚きの光景が目に入った。
「そ、そんな・・・・・・・・・!」
目の前には人間の何十倍にもなる巨大な黒龍が立っていた。屋根を突き破り、この部屋は瓦礫と化した。
騎士たちは次々と逃げていき、遂にはグラナイトら七人しか残らなかった。
「おかしいだろ!なんでこんなもんが出てきちまったんだよ!」
「いや、待てよ。聞いたことがある。これが本物の黒龍だとしたら、こいつは地獄の使い魔である可能性が高い・・・・・・・」
「使い魔ってなんだよ」
スピネルが頭を抱えると、コールが説明する。
「地獄には神ではなく悪魔がいる。黒龍は、その悪魔に仕えている見張り役だ」
「ってことは、現王がこいつを地獄から連れて来たってことか?」
「いや、もしかしたら頭の中で鳴り響いていた声っていうのは、地獄から聞こえて来たものではなく、現王の体の中に潜んでいた黒龍の声だったのかもしれない。扉を開けた瞬間からもう既に、現王はこいつに取り憑かれていたんだ!」
「じゃあどうすりゃあいいんだ!こんなものに勝てるわけねえだろ!」
するとグラナイトが一歩前に出た。
「僕の中にある力なら・・・・・・・可能性はあるかもしれない・・・・・・・」
そう胸に手を当てると、胸から小さな光が溢れ出る。
「そ、それってどんな力なんだ・・・・・・?」
スピネルが恐る恐る聞くと、シトリンがそれに答えた。
「人間の欲を浄化する力です」
神がその力をシトリンに直接与えなかったのは、現王がシトリンの力を欲しがると分かっていたからだろう。だからグラナイトに託した。
「素晴らしいお方だ・・・・・・・・」
そう呟くと、シトリンの肩を抱き寄せる。
「準備はいいか?」
「はい。いつでも大丈夫です」
そして二人で片手を黒龍へ向け、力を込めた。
シトリンの力が自分に注ぎ込まれる。暖かい。どんどん力が漲ってくる。
もう少し、もう少しで力を発動できそうだ。
だが、その時______
グオオオオオオ!!
黒龍が叫び声を上げると、その勢いで吹き飛ばされそうになる。
「っく・・・・・・・!」
足に力を入れ、なんとか体制を維持するが、集中力が切れそうになる。
エネルギーが貯まる速度が徐々に落ち始める。
これでは力を発動できないどころか、その前にこの黒龍に殺されてしまう。
黒龍の瞳がこちらを捉えた。その瞬間、大きな翼を広げ、口を大きく開いた。
「っ・・・・・・・!」
口から勢いよく放たれる炎がこちらに迫ってくる。
このままでは全員灰になってしまう・・・・・・・
その時だった_______
「ワチらの邪魔をするなああああ!」
炎を跳ね返せるほどの巨大な結界が目の前に張られた。
「っ、アリア!?」
結界を張ったのはアリアだった。二人の目の前に立ち、両手であの炎を支えている。
「アリア!無茶だ!早く離れろ!」
「そんなこと言ってる場合があったら、早くエネルギー貯めとけ!」
アリアのおかげでこの瞬間にもエネルギーは確実に貯まっている。だが、問題はそこではない。
「この力はあまりにも強大すぎる・・・・・・・アリアがそこにいれば巻き込まれてしまう!早く逃げろ!」
「無理だな。今逃げればこの炎は二人をあっという間に灰にしちまうよ」
「だったらどうしろと言うんだ!」
「簡単だよ」
そう言って顔をこちらに向けてニヤリと笑った。
「ワチを犠牲にすればいい」
「っ・・・・・・!」
「ワチ!そんなこと、私たちにはできない!」
シトリンが必死に止めようとするが、アリアは聞かなかった。
「もうこれしか方法はないんだ。それに、ワチは元々人間じゃねえんだ。死んだところで・・・・・」
「人間だろうがなかろうが、関係ない!アリアは大切な僕たちの仲間だ!」
「っ・・・・・・・・!」
アリアの体がピクリと動いた。
「そうよ!アリア、あなたは私たちにとってなくてはならない存在なの!お願い、死ぬなんて言わないで!」
「・・・・・・・・」
アリアは唇をギュッと噛むと、冷静な声で言った。
「生きる選択肢があったら、とっくに選んでる。その選択肢がないから、こう言ってるんだ」
「・・・・・・・」
「今ここで二人が死んじまったら、この黒龍を倒せる術が完全になくなっちまう。そしたらこの国、いや、この世界はどうなる!何億人ものやつらが犠牲になるか、それとも犠牲はワチだけで済むか。どちらを選ぶべきかは、二人も分かっているだろ!」
「それは・・・・・・・・」
「やれ!迷う必要はないんだ。さあ、発動しろ!」
「ワチ・・・・・・・」
二人は拳を握った。力は十分に貯まった。いつでも発動できる。だが、そうしたらアリアは・・・・・
迷っている二人に、アリアはもう一度叫んだ。
「やれえええ!!」
「「っ・・・・・・・!」」
二人は息を合わせ、最大限の力を振り絞った。
ピュイーーーーーーーーン
結界を超え、光と炎が激しく嚙み合った。
火焔がうねり、押し返そうとするが、その中心で光はなおも前へ進む。
「行けえええええ!!」
やがて均衡は崩れ、
光線は烈火を突き破り、炎を貫いて一直線に相手へと突き抜けた。
グオオオオオオオオ・・・・・・・・・
黒龍の体に光が走ったかと思うと、途端に二つに分かれ、その場に倒れた。
アリアの姿は光の中へと消えて行った。
残ったのは、舞い散る灰と、温もりの残像だけだった。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。




