第十二章 失った存在の重さ
第十一章です。よろしくお願いします!
「何!?アゲートが急死しただと?」
「はい、残念ながら。自ら命を絶ったようで」
翌日、スフェーンが部屋を訪れたかと思うと、何の感情も見せずに淡々と説明をしたのです。
「どうやら昨夜、お父様が亡くなったことを聞いて、後を追ったのでしょう」
「何を言っておる。そんなはずはない、アゲートがそんなことをするはずが・・・・・・私が直接確かめに行く」
私は何が起きたのか実感がわかないまま、アゲートの部屋へ向かいました。
ベッドの上には顔に布を被せられた者が横たわり、呼吸をしている気配がありませんでした。
「布をめくってくれ」
顔にかかっていた布を外させると、そこに眠っていたのは確かにアゲートでした。顔は青白く、人間とは思えないとても冷たくなっていて_____
「っ・・・・・・・!」
私はその場に崩れ落ちました。何故、こんなことに_____
私が乱心していると、スフェーンも部屋へ来ました。
「おお兄上よ、どうしてこうなってしまったのだ。あれほど元気であったというのに、父上の後を追って命を絶つなんて・・・・・おお、なんと嘆かわしい」
そう叫びながら、顔を両手で覆ってその場に座り込みました。
ですが、私には分かりました。本当の彼ならば、こんな大げさな泣き真似などしない。スフェーンがアゲートを殺したのだと。
私はアゲートの葬式に出られませんでした。
世間では私は死んだことになっています。アゲートの部屋へ行くことも、本来は叶いません。
私にアゲートが死んだことを確かめさせるために、特別にあの部屋へ行かせたのです。
この部屋がある棟と、アゲートの部屋があった棟は隣どうしでした。この二つの棟には彼の信頼できる部下しか出入りを禁じているのでしょう。
少しでも疑念を抱かれれば私を助けようとする者が現れるので、スフェーンは何としてでもそれは避けたいはず。
ですがあの子だけは私を助けようとしてくれました。
父親に嫌われることになっても、私を助けようと試行錯誤してくれていたのです。
私は抜け道を使って外へ出ることはできません。
私がいなくなれば、私が死んだと思っている臣下たちが殺されてしまうかもしれない。
彼らを人質に取り、戻ってくるように強要してくるでしょう。それだけは避けたかった。
だから私はあの子に全てを懸けたのです。危険な懸けだとは分かっていました。ですが、あの子ならきっと止められるような気がしたのです。血の繋がりはなくても、スフェーンは私の大切な息子でした。
スフェーンが、また昔のように優しさを取り戻してくれたら______
ですが、そんな淡い期待は、すぐに砕かれることになりました。
私の元へ届いたのは彼女の訃報でした。
彼女はかつては私に仕えてくれた臣下たちを説得して、反乱を起こそうとしてくれていたのです。
しかし、その反乱が起こる直前に発覚し、無念にも彼女は捕らえられてしまいました。
ですが、捕らえらるだけではありませんでした。彼女は自らの父親の手により、毒を飲まされ殺されてしまったのです。最後の最後まで父親を信じ、多くの者を救いたいという彼女の信念は・・・・・実の父親によって、粉々に砕かれてしまいました。
恐らくですが、スフェーンは自らも感情をなくす薬を飲んだのでしょう。
そうでなければ、あんなに残酷なことを何の躊躇もなくできるわけがありません。
私は最愛の者を次々と失うこととなったのです。
いっそのこと死んでしまおうかとも思いました。ですが、彼女は言いました。
「死のうなどとは思わないで下さい」と。
その言葉が頭から離れず、今もこうして情けない話ですが、死ぬことが出来ていないのです。
ここまで話し終わると、先代王は涙を流しながらグラナイトの胸に倒れ込んだ。
「悪いのはこの私です・・・・・・私が選択を誤ったせいで、多くの者の人生が狂ってしまいました」
「そんなことはありません。僕たちが必ずあなたを救って見せます」
「いいえ、私は良いのです。そう言ってくださるのは嬉しいのですが、もう私は誰も失いたくありません」
「あなただけのために行うのではありません。この国のためにも、現王を退ける必要があります。僕はあなたのお孫さんをただ一途に想っておりました。彼女が亡くなったと知ったときには胸を酷く締め付けられ、いっそのこと自分も死んでしまいたい。と思ったほどです。ですが彼女のために、自分の国も、他の国も関係なく平和な国にしたいのです・・・・・!」
「グラナイト王子・・・・・・・」
「ここまでお話を聞かせていただき感謝します。話していてとてもお辛かったでしょう」
「そんなことはありません。少しでもあなたのお役に立てたのなら良かったです」
「何故、敵国の王子である私にそんなに優しくしてくださるのですか?」
「それは、あの子が昔、何度も口にしていたからですよ。『グラナイト様ならあの国をよりよくできる王になれる。私はそう思いました』と」
「っ・・・・・・・・彼女がそんなことを・・・・・・・・」
「彼女だけではありません。あそこにいるアリアもそうです。普段は警戒心が強い子ですが、あなたをここまで連れてきてくれた。きっと何か彼女の心を動かすものがあったのでしょう」
そう言って、先代王は彼女を手招きした。
「おいで、アリア」
すると恐る恐るアリアは近づいてきて、グラナイトの横に立った。
「そういえば、彼女は一体・・・・・・」
「アリアについては私も分かりません。あの子が毒を飲まされ亡くなったと聞かされてから少し経ったある日、突如としてここに現れたのです」
「・・・・・というと・・・・・・」
グラナイトはアリアの顔を見た。
「ワチもよく覚えてないんだ。気づいたらここにいて、仕方なくじいさんの世話をしてるんだ」
「逃げ出さなかったのか?」
「逃げられねんだ。倉庫は普段鍵が掛かってるし、この部屋だってじいさんの採血の時間にしか扉は開かないんだ。もしワチがここにいるってバレたら、ワチは殺されるかもしれない。その時間は逃げずに、ただベッドの下に隠れてるしかないんだ」
「食事とかは半分にしているのか?」
「ワチはご飯食べないんだ」
「何だって?」
「多分だが、ワチは人間じゃないんだ。何かしらの影響を受けてここにとどまってる妖精かなんかだろな。じいさんは幽霊だと言うが、ワチは自分が幽霊だとは思っちゃいない。もっとすごい何かのはずだ!」
そう言って笑う様子はどう見てもただの人間の子供だ。確かに幽霊には見えない。
「じいさんが死んじまったらワチはどうなるんだろか。一人ぼっちになるか、それとも消えちまうんだろか?どっちにしても嫌だ!じいさん、絶対死ぬなよ!」
そう先代王の体を激しく揺すった。かつては王であったお方への扱いが雑すぎる。
「分かった分かったよ。お前がいるからまだ大丈夫だ。心配するな」
その柔らかい眼差しは、まるで今は亡き孫娘を見守っているようであった。
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