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第十一章 捕らわれた王

ドキドキハラハラしながら、この先も読んでくださると幸いです。

私の孫娘の名前は、もう忘れてしまいました。人の記憶というのは、まず名前から忘れるものです。

この私の力を持っても、今となっては彼女の名前を思い出すことはできません。


ある日の朝のことでした。私がまだこの国の王であった時のことです。


孫娘が私の部屋を訪れました。とても可愛らしいドレスを身にまとった彼女でしたが、その顔はいつもよりも深刻でした。


「おじい様、お父様を止めて下さい」


「急にどうしたのだ?お前の父が何かしたのか」


「・・・・・・おじいさまにとって、この先お父様は脅威になります。今のうちに宮殿から追放して下さい」


「急に何を言い出すのだ!()()などという言葉、そう易々と使って良いものではないぞ!」


「分かっています。自分が何を言っているのか。ですが、私ではお父様を止められません。止められる力を持っているのは、おじい様だけです」


私はとても驚きました。まだ成人にもなっていない孫娘でしたが、彼女はとても賢く、何も考えずにそんなことを言い出す子ではありませんでした。


「訳を話してくれんか」


私がそう言うと、彼女は言いずらそうにしていましたが、遂には話してくれました。


「お父様は、壊れてしまいました・・・・・・・」


「何だと?」


「お父様には・・・・・神の力がないから・・・・・・・」


私は最初、彼女の言っている意味が理解できませんでした。我が息子のスフェーンに、神の力がないはずがありません。

長男のアゲートにはその力が確かにありました。何故次男の彼にはないのか。


「何かお前は勘違いをしているのではないか?王の血筋の者は皆、その力を受け継いでいるのだぞ?そなたもそうではないか」


「いいえ、私にもその力はありません」


「な、何を言っているのだ・・・・・・」


その時、私は信じがたい言葉を彼女から聞くことになったのです。



「お父様は、おじい様の息子ではないからです」



「っ・・・・・・・!」


「そして、お父様の娘でもある私もまた・・・・・おじい様の孫娘ではないのです」


私はその言葉が信じられませんでした。急にそんなことを話されたとして、どの父親でも受け入れがたいでしょう。


「どういうことなのだ・・・・・・・」


「お父様も私も、物心ついた時からずっと、神の力を持っていないことには気が付いていました。努力をすれば、いずれ隠れている力を操ることが出来ると思っていました。ですが、違いました。私たちの血には元々その力など流れていなかったのです」


「そ、そんなことは・・・・・・」


「お父様だけでなく、私にも神の力はなかった・・・・・・それを知ったお父様は、遂におばあさまのもとへ行き、問いただしたのです。おばあ様は、包み隠さずに全てを話してくださいました・・・・・お父様は、おじい様との子供ではないと・・・・・・」



「っ・・・・・・!いや、そんなこと、そんなことがあるはずが・・・・・・・・!」


「いいえ、これが真実なのです。おばあ様はおじい様に嫁ぐ前、他に恋い慕う方がいらっしゃったそうです。嫁いだ後は、もうそのお方のことは忘れようとしたらしいのですが、偶然また再会した際に・・・・やはり思いを断ち切れなかったようです。残念ですが、私はおじい様と血の繋がりはありません」


「・・・・・・・」


「私がこの事をお話ししたのは、おばあ様を責めてほしい訳ではありません。私は今でもおばあ様のことを恨んではいませんし、血の繋がりがないからと言って、おじい様のことを嫌いになった訳でもありません。いつまでも、永遠におじい様は、私の大切なおじい様です」


「っ・・・・・お前というやつは・・・・・・・」


私は彼女の頭を撫でました。こんなに辛い現実に直面しても、私のことをおじい様と思ってくれていたのが、とてお嬉しかったのです。



「ですが、お父様は違います。お父様は、完全に壊れてしまったのです・・・・・・・」



涙目で父のことを話す娘の姿に、こちらまでも泣きそうになってしまいました。

スフェーンの気持ちも分かります。どれほど辛かったことか。


「今のお父様は、もう私の知っているお父様ではありません・・・・・・何をするか分からないほどです・・・・・下手をすれば、おじい様に害が及ぶかも・・・・・・」


そう私を心配してくれる孫娘の頭をもう一度優しく撫でました。


「分かった。そなたの父とよく話してみよう。心配してくれてありがとう。もう大丈夫だ」



「・・・・・・おじい様・・・・・・・」


そう言って私は彼女を抱きしめました。彼女との話はこれで終わり、有能な医師にスフェーンの様子を見てもらいました。医師は、そこまで彼の状態は悪くないと診療結果を出したので、それ以降私はあまり気にしていませんでした。しかし、この時の私は事の大きさを甘く見すぎていたのです。




数日後、私の部屋に何十もの騎士が押し寄せてきました。



「な、何事だ。急に王の部屋へ押し寄せるとは、なんと無礼な」



その時、騎士の後ろからスフェーンが現れました。


「父上、驚かせてしまったようで申し訳ありません。ですが、我々についてきて頂きたい」


「スフェーン、何を言っておるのだ」


「残念ですが、あなたはもう王ではなくなります」


「な、なんだと・・・・・!?」


「さあ、お連れしろ」


スフェーンが騎士たちに命令をすると、騎士たちは何の表情も変えないまま私を連れて行きました。

そう、その場所というのがこの部屋なのです。


「スフェーン、何故だ。何故こんなことを!」


「父上、あなたの時代は終わったのですよ。あなたは今日病で死ぬのです。そして明日からこの国の王は私となる」


「何を・・・・・おい、お前たち!この国の王は私である!何故私ではなく第二王子の命に従うのだ!」


だが騎士たちは何も言わなかった。


「無駄ですよ、彼らには感情がないですから」


「感情が、ないだと?」


「ええ。私は感情をなくす薬を手に入れたのです。感情をなくすと同時に、彼らの忠誠心はこの私に捧げられます。父上の言うことなど、彼らの耳には届かない」


「っ・・・・・・・・!ふ、ふざけるでない!そんなことが許されると思うのか!」


「父上はこの部屋で大人しくしていて下さい。何日かに一度、あなたの血を採血しに来ますので、その時はどうかご抵抗なされまするな。大切な者たちの命はこの私が握っていますからな」


そう言うと、スフェーンは部屋を出て行きました。


私はその場に崩れ落ちました。あの子の言っていたことを、もっと真剣に捉えておけばよかったのです。

本当にあの子には申し訳ないことをしました。勇気を出して話してくれたに違いありません。

それを私は・・・・・・・・



「おじいさま」



その時、隣から小さな声が聞こえました。


慌てて振り向くと、そこには確かに孫娘がいたのです。


「な、何故ここに」


「しっ、小声でお話しください」


彼女は人差し指を立てて口に当てました。外には騎士がいます。聞かれてしまったらこの子の身が危ない。

私はうなずくと、彼女は小さな声でここへ来た経緯を話し始めました。


「近くの倉庫からここへ通じる抜け道があります。そこを通ってここまで来ました。やはり、お父様は・・・・・・」


「すまなかった。お前の話をもっと重く受け止めていれば・・・・・・」


「いいえ、そんなにご自分をお責めにならないでください。私がなんとかします」


「な、なんとかとは?頼むから危険な事はしないでくれ。私はこの血液のおかげで死は免れたが、その血液を持たぬお前は、命が危ない」



「いいえ、おじい様。私は大丈夫です」



彼女はそう断言し、笑顔で言った。



「だって、私はお父様の実の娘ですから」



「っ・・・・・・・」


ああ。この子はこんなに変わってしまっても、未だに父親のことを信じているのだな。

なんと愛らしい私の孫娘なのだろう。


「何が起ころうとも、決して自らの命を捨てようなどとは思わないで下さい。約束ですよ?私が必ずお父様を止めて見せます」


「ああ、約束しよう。だが、無理だけはしないでくれ」


私たちは手を握り合いました。この子の言う通り、スフェーンがどれだけ変わり果てても、実の娘には手は出さないだろう。そう思い込んでいたのです。



ですが、それは私の思い違いでした。事態はさらに悪くなっていったのです。


最後までお読みいただきありがとうございました!

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