第八章 二人の絆
第八章です。今回は少し短くなっています。
エピドートは、宮殿を出た後は実家へと戻っていた。
「母さん、庭の草むしり終わったよ」
エピドートは土で汚れた頬を拭いながら家に入ってくる。
「ありがとね」
中で料理をしていた年老いた母親がこちらを見た。
「懐かしいねえ。あんたが宮殿に行く前は、毎日のようにそうやって草むしりをやってくれただろ?」
「そうだったな、母さん」
「もう宮殿には戻らなくていいのかい?」
「宮殿は辞めたんだ。多分、もう戻ることはないよ」
グラナイト様なら、自分がいなくとも自らの力で道を切り開いていくはずだ。少し寂しいが、彼の成長のためには自分が身を引いたほうがいい。
「グラナイト様のためにも、あのお方の側を離れるべきなんだ」
「確かに、グラナイト王子のためにはなるかもだね。でもね、あたしが心配してるのは、あんたのほうだよ」
「え?」
「家に帰ってきてからというもの、あんたはずっとソワソワしてるだろ?王子が元気にやっているか心配なんじゃないのかい?」
「母さん、それは・・・・・」
「あたしには分かるよ。だってあたしの息子だからな」
「・・・・・・・」
「いつか王子のほうから、お前に会いに来るさ。お前と王子は切っても切れない仲なんだよ。一緒にいる時間が多ければ多いほど、縁も切れにくい」
「王様にも、同じようなことを言われたよ・・・・・」
それを聞くと、母親はうなずく。
「王様は、あんたを相当気にかけてくれてるみたいだねえ。素晴らしいお方だ。あんたら二人のことをようくご存じのようだ」
そう言って母親が窓の外を見ると、何かに気が付いてニコッと笑った。
「噂をすれば、だねえ」
「え・・・・・・?」
その瞬間、扉が勢いよく開け放たれた。
「エピドート!」
「ぐ、グラナイト様!?」
扉を開けて入ってきたのは、まぎれもなくグラナイト王子であった。
「な、何故ここに・・・・・」
「お前を迎えに来たんだ」
「わ、私は既に騎士団を辞めた身ですよ?そう簡単に宮殿へは戻れません・・・・・・」
「いや、お前は辞めてなどいない」
「え?」
グラナイトは王から受け取った休暇許可証を広げて見せた。
「こ、これは・・・・・・」
「父上がお前がいつでも戻ってこられるようにと、この外出期間を休暇として申請して下さった」
「・・・・・・・王様」
『お前の力が必要となった時には、またあの子のそばについてやってくれないだろうか』
あの時の王の言葉は、本心だったのだ。王は初めから本当にエピドートに戻ってきてほしいと、準備をしていたのだ。
「あなたは本当に・・・・・・素晴らしい王様です」
そう呟くと、口元がかすかに緩んだ。
「エピドート。もう一度だけ、また僕のもとに戻ってきてくれないか」
エピドートはまた真剣な顔に戻って王子に問う。
「私がいなくなって、あなたは成長したのですか?私が去った理由をお忘れで?」
「ああ、よく覚えている。僕がまだ未熟であったからだろう」
「そうですね。それで、あなたは完璧な王子になれたということですか?こんな短期間で?」
「いや、まだ未熟だ」
「ならば・・・・・・」
「だが、僕は自分一人で何かを成し遂げることは、不可能だと理解できた。誰かに頼りすぎることは確かに良くない。だが、自分一人では何も成し遂げられない・・・・・・」
「・・・・・・」
「お前がいなくなって気が付いたよ。一人で何かをしようと頑張った。だが、無理だった。もう前みたいに正しい道から外れるような行動はしない。だから、また僕のもとへ戻ってきてくれ。お前がいなければ僕は未熟なままだ。お前と、そして他の仲間と共に、成長していきたいんだ」
「・・・・・・」
エピドートは考え込んだ。返事に困っている様子だった。
「迷うことなんてないよ」
エピドートの背中を押したのは、母親だった。
「人間、時には間違えることもあるさ。だがね、それを共に乗り越えていける仲間がいれば、どんな困難も易々と乗り越えられるもんさ。お前の心は何て言ってるんだい?少しでも戻りたいって気持ちがあれば迷わず行けばいいさ」
「だが、母さんは・・・・・・」
「あたしはまだ元気だからあんたがいなくたって何とでもなるよ。さあ、どうするんだい?」
「・・・・・私は・・・・・・・」
胸に手を当てて自分に問う。
また宮殿へ戻りたいか、グラナイト様のお側で仕えたいか。
「ああ、仕えたい・・・・・・」
エピドートは顔を上げた。
「宮殿へ戻りたい・・・・またグラナイト様のお側に戻りたい・・・・・・」
「っ・・・・・・エピドート・・・・!」
王子はエピドートの手を強く握った。
「ああ、帰ろう。そしてお前と共に成長していきたい。必ず、立派な王になってみせる!」
エピドートはそれを聞くと、笑顔でうなずいた。
もしかしたら、このお方なら本当に立派な王になれるかもしれない。いや、きっとなれる。私がお側でそうなれるように誠心誠意で支えますから。
エピドートは胸を叩いて、息を大きく吸った。
「これからまた、よろしくお願いします!」
そんな二人の様子を側で見守る母親の目から、一筋の涙が零れ落ちた。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました!




