第二十一章 正しい決断
第二十一章です。よろしくお願いします。
王子に別れを告げたエピドートは、ここを通るのはこれで最後であろう廊下を歩く。
「これでよかったんだ・・・・・」
エピドートの心には、少しの迷いがあった。
王子に連れ添った時間があまりにも長すぎたのだ。
だが、これ以上彼を甘やかし続けると、彼自身のためにならない。
グラナイト王子は一見、完璧な王子に見える。
しかし、完璧を演じているだけだ。心の奥底には、抑えきれない欲望が秘められている。
自分でその欲望を制御できたなら、エピドートはここまでしなかった。
しかし、今の王子は自分の欲望に負けてしまっている。
欲があるのは良いことだが、それを追い求めることによって、他のことを疎かにするのはよくない。
薬を手に入れることを優先にせず、自分の気持ちを最優先に考え、一週間も計画を先延ばしにしている。
普通の者であれば、何も言わなかった。だが、彼はこの国の第一王子であり、次期国王となるお方。
今回ばかりは厳しく接しなければいけないのだ。
「はあ・・・・・・・」
ため息が絶えず出続ける。その時、後ろから肩を優しくたたかれた。
「・・・・?」
後ろを振り向くと、そこには優しい微笑みを浮かべたマラカイト王が立っていた。
「っ!王様・・・・・・」
慌てて目線を落とし、その場で跪く。
「エピドート、構わない。さあ、立ってくれ」
「・・・・・・はい」
恐る恐る立ち上がり、目線を戻すと、王は申し訳なさそうに微笑んでいた。
「そんなに難しい顔をしてどうしたのだ。またグラナイトがお前を困らせたのか?」
「いえ・・・・・そうではなく・・・・・・」
エピドートは、ためらっていたが、「話してみなさい」と優しく促され、ついに口を開いた。
「この度、騎士団を辞めることに致しました・・・」
「っ・・・・なんということだ・・・・・それは一体何故なのだ?」
エピドートは、王と歩きながら事の経緯を説明した。
王はその一言一言に耳を傾け、何度もうなずく。
そして話が終わるころには、庭園に足を踏み入れていた。
「エピドート、お前には感謝の言葉しかない」
「いえ、そんな。私はグラナイト様のおそばにいておきながら、何のお役にも立てませんでした」
「いいや、そんなことはない。あの子は昔からあの性格だ。一時は、王位継承権を他の王子に譲ろうかとも考えていたのだ」
「そうだったのですか」
「ああ。だが、あの子はある時を境に大きく変わった。今まで王の座になど興味がなく、民の声に耳を傾けることもなかったあの子が、民のために何かをするようになった。王子を変えたのは、そのモルガナイト王女だったのだな」
「はい、あのお方と出会ってから、グラナイト様はまるで別人のようになられました」
それを聞くと、王は嬉しそうにうなずいた。
「きっかけがあったことは、良いことだ。何か欠点があっても、それを克服して立派な男になろうとする心構えは、実に素晴らしい」
「私もそう思います」
「だがな。お前の言う通り、今のグラナイトには王を任せることはできない。あの子のせいで、その密偵の三人が苦しんでいるのだろう?」
「・・・・はい」
「特に、そのシトリンというおなごは、実に気の毒だ。これでは王子の玩具のようにされてしまっとる。グラナイトの心に、何かしらの変化がない限りは、あの二人の間にある問題は一生解決しないだろう」
「何かしらの変化とは・・・・・・?」
王は間を置いてから、ハッキリと断言した。
「あの子が想い人を忘れることだ」
「っ・・・・・・!」
「あの子が過去の縁を断ち切ることさえできれば、この問題はすぐに解決するだろう」
「ですが・・・・・それは無理なのでは?グラナイト様は、十年もの間、ただ一途に王女様をお慕いし続けておりました。それを今更忘れろと言ったところで・・・・・・」
「完全に忘れろとは言っていない。あそこまで深くのめり込んでいることが、よくないのだ。心の奥に、小さくとどめておけばいい」
エピドートは言葉を詰まらせる。全くその通りだと思った。
「エピドート、お前恋愛小説を読んだことはあるか?」
「恋愛小説、ですか・・・・・あまり読んだことはありません・・・・・」
「恋愛小説というものは、女主人公のそばに必ず二人の男がいるのだ。女はそのどちらか一人と
結ばれ、もう一人の男は想いを諦めなければならない。王子もその男のように、自分のためにも周りのためにも、想いを断ち切る必要がある」
「・・・・・・・」
今まで恋愛小説に興味のなかったエピドートでも、王の言いたいことは痛いほど分かった。
「だからな、エピドート。想いを断ち切らせようとさせたお前の行動は正しい。お前がグラナイトのそばを離れれば、すぐにあの子は己の過ちに気付くであろう。そしてその全てを償うために、またお前の力が必要となる」
「・・・・・・王様」
「エピドート。王としてではなく一人の父親として、お前にお願いがある」
そう言うと、王はエピドートの手を握った。
「お前の力が必要となった時には、またあの子のそばについてやってくれないだろうか」
その声はとてもやさしく、だがどこか芯があった。
エピドートは少し考えたあと、もう片方の手で王の手を包み込む。
「もちろんでございます。このエピソード、いつでもグラナイト様の力になりましょう」
王はそれを聞くと安心したような笑みを浮かべ、ゆっくりとうなずいた。
いかがでしたでしょうか。今回も楽しく読んで頂けたなら幸いです。




