第二十章 さようなら、私の王子様
ついに第二十章です。どうぞお読みください!!
「グラナイト様、失礼します」
エピドートは王子の部屋の扉をノックもせずに開け放つ。
扉を叩いたところで、今の状態の王子が返事をするとは思えなかった。
「エピドート・・・・何か用か・・・・・・・」
そこには、山積みになった分厚い古書一つ一つに目を通す王子がいた。
「何日目だとお思いで?もう既に一週間経ちましたよ」
そう問いかけるエピドートの声は厳しかった。
怒るのも当然だ。エピドートから『王女が存在を消された件』について説明を受けた日から、王子は一週間もこんな調子なのだから。
「仕方がないだろ・・・・・急いで情報を集めなければ、いずれ完全に彼女を忘れてしまう」
「それよりも優先しなければいけないことがあったでしょう。薬を手に入れる方法を話し合わなければ」
「それについても考えてはいる。だが、今はこちらのほうが大切なんだ」
「それに、この一週間、一度もシトリン様に会いに行かれていませんよね。ついこの間までは、毎日足を運ばれていたのに」
「それは・・・・・」
そう言うと、王子の手が止まった。エピドートは、ため息をこぼしながら王子を呆れた目で見ている。
「あなたが拠点で我々に『豪華な装飾を施した一番大きな部屋を早急に用意してくれ』と命令をしたあと、どれほど忙しかったことか。シトリン様のお部屋を一から作るために、寝るのも惜しまずに働いたのですよ!それを今更『やっぱり初恋の人じゃなかった~。勘違いだった~。だからもう用はない~』で済まされるとお思いですか・・・・・・・!」
「・・・・・・・」
「私が怒っているのは、それだけの理由だけではありません。一番腹立たしいのは、シトリン様があなたの欲望に利用されていることです!」
「・・・り、利用などしていない!」
王子が机を勢いよく叩く。
「そうでしょうか?あなたの過去の行いを省みてはいかがでしょう。シトリン様を勝手に初恋の相手だと思い込んで、感情がないことをいいことに部屋に閉じ込め続けているではありませんか」
「それは・・・・・シトリンに良い生活をさせてあげようと思って」
「そして子供のふりをして相手を騙し、愛を求め続けている。本当は母の愛ではなく、愛する女からの愛が欲しいくせに」
「っ・・・・!余計なお世話だ!シトリンが子供相手のほうが接しやすいと思っただけだ。それに、母の愛が欲しかったというのも、嘘ではない。母様は本当に亡くなってしまったのだからな」
「ええ、そうですか。ではシトリン様を無理やり湯船に浸からせ、タオル一枚で勝手に一人で舞い上がった末に倒れてしまった件については、どう説明をするおつもりで?本当はイヤらしいお心を少し持っていたのでは?」
「そ、そ、それはっ・・・・・・それは、だな・・・・・・・!っていうか、お前は何故そんなことまで知っているんだ!」
「お忘れですか?少し前にあなたが泥酔した夜に、私に教えてくれましたよ。太陽の刺青だけならまだしも、後ろから抱きしめられたときの感触から温もりまで・・・・・全て、包み隠さずに」
「あああああ!!やめろおおおお!!」
王子は真っ赤になった顔を両手で覆い隠した。だが、エピドートの口は止まらない。
「本当に気持ち悪い王子様です。ただシトリン様はあなたを心配して、母親らしく抱きしめてさしあげた・・・・というのに、あなたというお方は・・・・・・愛に飢えた獣のように・・・・・・」
「もういいだろ!!」
そう勢いよく立ち上がる王子を見て、エピドートはここまでにしてあげた。
「つまり、私が言いたいことはですね・・・自分の行動には、最後まで責任を持つべき。ということです」
「・・・・・分かってはいるんだ・・・・・・。シトリンが彼女じゃなくても、おかあさまとしてしっかりと見守るつもりだった。だが・・・・・」
王子は拳を強く握りしめる。爪が肌に食い込んで血がにじむ。
「王女を失って・・・・・しかも、その記憶さえも失ってしまうかもしれない・・・・やることが多すぎる・・・・時間がないんだ・・・・・・・・・・今は、会いに行く時間が惜しい・・・・・・」
「・・・・・・」
「勝手に初恋の相手だと思い込んで、勝手に浮かれて・・・・・・シトリンには申し訳ないと思ってる。いずれ必ず薬は手に入れる・・・・だが、急がなければ王女の記憶が消えてしまう・・・・それだけは絶対にダメだ・・・・・・!」
「あなたの都合で、初めの計画を遅らせるおつもりで?」
「これは仕方のないことなんだ。計画については、今はコールに任せている」
エピドートは、顔を歪ませた。
「彼だけでは限界があります。あなたがいない分、計画はさらに遅れることになるでしょう。そうなれば、感情を取り戻す日が先延ばしになります。どうなさるおつもりで?」
「申し訳ないが、少し待っていてもらうしかない」
「・・・・・・は?」
言葉の意味が掴めず、反射的に声が漏れてしまった。
「ほんの少し計画が遅れたとしても、支障はないだろう。彼らはもともと密偵であり、殺されるはずだったのだからな。命を繋いでやっている分、多少は我慢してもらいたい」
「ですが・・・・・我々は既に協力関係を結んでいます・・・・・・しかも『感情を取り戻すこと』を最優先にする条件だったではありませんか」
「そうなのだが、状況が変わった」
「あまりにも・・・・・・・無責任です・・・・・・・!」
「無責任ではない。必ず感情は取り戻して見せる。ただ少しだけ待っていてもらうだけだ。王女についての糸口が見つかれば、すぐにでも・・・・・・」
「ふざけないでください・・・・・・・・!」
エピドートが叫んだ。眉間にしわを寄せながら、必死に涙をこらえている。
「エピ、ドート・・・・・・・」
王子は息をのんだ。
「あなたは、人の人生を何だと思っているのですか!感情がない者たちは、少し待たせてもだ問題ないだろうと?シトリン様においても、しばらく構わなくても、何も感じないからきっと許してくれるだろうと、そう思っているのですね・・・・・・」
「違う・・・・それは・・・・・」
「何も違くありません・・・・・・!」
エピドートは、感情のままに机を思いっきり叩く。
「こんな自分勝手な王に、国を任せられると本気でお思いで?いいえ、無理です。あなたにこの国を任せられません」
「エピドート・・・・・・」
「あなたは昔、王位継承権をベリル様に譲りたいとおっしゃっていましたね。ええ、是非そうなさるべきです。あなたなんかよりも、よっぽどベリル様のほうが王にふさわしい」
「ま・・・・待ってくれ、エピドート・・・・・・・・」
「私があなたにお仕えしてきたのは、どんなにやる気がなくても、どんなに口が悪くても・・・・・きっと民を平等に扱ってくれる王になってくれると思っていたからです・・・・・ですが、私の気持ちは今変わりました。あなたに、そんな美しい未来を作ることなどできるわけがない」
そう言い切きってから、剣をゆっくりと抜く。
「な、何をしてるんだ・・・・・」
戸惑う王子を前に、エピドートは剣を机の上に置く。
「私は本日で騎士団を辞めます。今までお世話になりました」
そう言って、王子の顔を見ることなく扉に手をかけた。
「待ってくれ、エピドート・・・・・!」
王子が叫ぶと、一瞬動きが止まった。
「頼む・・・・・僕が悪かった・・・・・・・考え直してくれ・・・・・・・・」
だがそんな軽い言葉では、エピドートの心を動かすことはできなかった。
みなさんのおかげでここまで書き進めることが出来ました。
正直、こんなに楽しく毎日書くことができるとは思ってもみませんでした。
本当にありがとうございます!これからもよろしくお願いします!




