第二章 王子誘拐作戦!?
第二章です。是非読んでみてください。
数日後、死を免れた三人はマラカイトの地へ足を踏み入れた。
小さな拠点を地下に作り、そこで作戦を立てている。
大きな男の名は、スピネル。奴隷の子として生まれたが、生まれた時から人よりも体が大きく力も強かったため、幼くしてこの団体に引き入れられた。
薬によって、「怒り」「恐れ」「悲しみ」「嫌悪」「軽蔑」のほとんどの感情は失ったものの、幸運にも「驚き」「喜び」などの一部の感情は残っている。
小柄な男の名前はコール。
物心ついた時には、すでに両親はいなかった。
生きるために食べ物を盗んで生活していたが、騎士団では衣食住が与えられると聞いて、志願した。彼の剣の力は褒められるものではなかったが、頭をうまく使い戦う相手を打ち負かしていった。
騎士団で剣を振るより、策士としてこの団体に所属したほうが役に立つと思われたらしい。
彼も薬のせいで「驚き」「喜び」の感情しか残っていないが、彼の頭脳は健在なままである。
そして唯一の女であり、ジェイダイトの最年少でもあるこの女。名前はシトリン。
彼女の過去は、あの薬によってすべての感情とともに消えてしまった。
ほかの二人と比べ、彼女の受けた代償は大きかったようだ。ジェイダイトに入る前の記憶、そして自分の声も失ったのだ。
シトリンはともかく、コールとスピネルは剣の腕は特に優れているというわけではない。自分たちが殺される前に、シトリンが他の者たちを殺してくれたおかげで、奇跡的に命を繋いでいる。
おまけに一部の感情も消えずに残っている。本当に運がいいとしか言いようがない。
「スピネル、シトリン。次の任務の説明をする。座ってくれ」
コールに促されて、二人は置いてあった丸太の上に座った。
スピネルが人一倍大きい分、拠点が小さく感じられる。
コールは立ったまま両手を机に置いて話し始めた。
「今夜シトリンが片づけた男は、マラカイトの密偵団体であるコーラルの一人だった。俺の調べによると、コーラルは八人の男たちで構成されている。ということは残り七人」
「ずっと思ってたことなんだけどよお。なんであの男を殺す必要があったんだ?王の首を取ることが俺たちの目標なら、直接王を襲って首を跳ねりゃあいいだろ」
スピネルが腕を組みながら首をかしげる。
「確かにその通りだ。だがそう簡単にできることじゃない。コーラルは密偵団体とは言っても、ジェイダイトとは違う。俺たちは国を超えて活動しているが、あいつらは常に王の周りを護衛している。つまり、俺たちが王を殺しに言った瞬間、隠れていたコーラルが一斉に襲い掛かってきて、結局三人とも無駄死にする。正面からというのは相当なリスクがあるんだ」
「こっそり王の寝室に飛び込んで一人で寝ている隙に殺すってのはできねえのか?」
「無理だな」
コールは即答した。
「王が寝ていても、風呂に入っていても、コーラルが離れることはない。天井やカーテンの裏、壁の裏、寝具の下。言葉通り、全方位から王を守っている」
「そんなにいるのかよ!」
「ああ、王も薄々俺たちが狙っていることに気付いているんだろうさ。最近はやけに警備が固い」
「そんな状況下で、よく一人でも殺せたよな」
スピネルはシトリンを横目で見た。もちろん彼女は何も言わない。
「あの男はコーラルの中でも一番下っ端だった。いつも王の護衛は任されず、伝達ばかりを任されて街中を走り回っていたそうだ。だから他と比べても殺しやすかったのさ」
コールが代わりに答えると、スピネルは納得した。
「だが、あとの七人は宮殿からほとんど出ない。王が外出するときは一緒に出るだろうが、そもそも王が外出することなんて滅多にないもんだから、これは困った」
困ったと言ってはいるものの、その表情は明るく見えた。
「そうだ、シトリン。頼んでいたものは回収できたか」
コールが尋ねると、シトリンはポケットから手紙を取り出した。
「ん?なんだよこれ」
「密書だ。あの男が王の命令で誰かに極秘で渡そうとしていたものらしい」
「密書だって!?」
スピネルが声を上げる。
「ああ。俺が知っている情報屋の話によると、最近王は何か怪しい動きをしているらしい」
「怪しい?」
「そうだ。だからコーラルの行動を見張るように、シトリンにお願いしていた。すると見事に予想は的中した。あいつは密書を持って郊外に出たんだ。郊外は夜になるとほとんど人通りがない。密書を奪うには都合がよかった」
コールは手紙を受け取ると、開封して内容を確認した。
「・・・・・なるほどなあ・・・・・」
「何がなるほどなんだよ」
「向こうの王も、俺たちの国を狙っているらしい。コーラルの人数をさらに増やすために、大きな訓練場を新たに建設したいんだと」
「なら急いで王の首を取らねえといけねえな。これ以上コーラルが増えれば、王に近づくことすらできねえんだからよ。時間がねえ」
「だな」
「何かいい方法があるんだよな?」
「ないとは言えない、な」
コールは口角を上げた。
「本当か!」
「ああ。すぐに訓練場ができてコーラルが倍以上に増えたとしても、王の首を取る方法が一つだけある」
「なんなんだ?もったいぶらずに早く教えてくれよ」
コールは一瞬黙ったあと、口を開いた。
「スピネル、王に警戒されずに近づくことができるやつは誰だと思う?」
「答えじゃなくて質問かよ」
スピネルはあきれた顔をした。
「答えてみろ」
真面目な顔で言われ、スピネルは仕方なく考えてみる。だが、結局体格しか取り柄のない男の脳みそでは答えを導きだすことができなかった。
「シトリンは分かるか?」
シトリンはチラリとコールの顔を見たが、すぐに視線を戻して首を横に振った。
「答えは簡単だ」
少し間をおいて二人の顔を交互に見る。
「王子だ」
「王子?」
スピネルは首をかしげる。
「ああ、王子だ」
「王子って王の子供のことだろ?」
「ああ、そうだ」
「そりゃあ王子は一番王に近い存在だってのは分かるけどよお、なんで今王子の名前が出てくるんだ・・・・あっ!」
「気づいたか」
コールがフッと笑うと、スピネルは信じられないと言わんばかりに口をあんぐりと開けた。
「お前まさか、王子を脅して王を殺させようって話じゃないだろうな?」
「その通りだ」
「正気かよ!」
「もちろん、俺はいつだって正気さ」
スピネルは頭を抱える。
「ちゃんと成功の見込みがある策なんだろうな?」
「ああ、もちろんだ。そうでなければこんな提案はしない」
「分かった、じゃあ聞かせてくれよ」
スピネルは前のめりになって話を聞いた。
「まず初めにこの国の王子の話をしよう。この国の王には十人の子供がいる。そのうちの六人が女、そして四人は男だ。十人のうち、俺たちが狙うのは一番下のグラナイト王子だ。彼は今年五歳になる」
「なんでそんなガキを?一番年上を狙えばいいじゃねえか」
「いや、長男の第一王子は今年二十歳になる。そんな大人じゃ、俺たちが狙うのは難しい。何より、第一後継者がいなくなったら国中大騒ぎになる。だが、後継者争いから最初に除外されるであろう末っ子がいなくなったところで、そこまで騒ぎにならないはずだ。何にしろ、子供が十人もいるんだからな」
コールは淡々と話を進める。
「宮殿には、王、王妃、側室、王子、王女、そして何百という召使や騎士たちが多く集まっている。そんな大人数じゃ誰かがいなくなったとしても、下手をしたら気づいてもらえないかもしれない」
「だけどよ、さすがに王子なら気づくんじゃねえか?」
「まあな、さすがに王子であれば気づくだろう」
「ん?つまりどういうことだ?」
「数名の召使や騎士が消えたところで、すぐに気づく者は少ないだろう?」
「まあ、な」
「王子を誘拐するまでに、俺たちが何人か殺してもすぐにバレることはないんだ」
「まあ、確かにそうだな」
スピネルは、コールの言いたいことが何なのか、必死に考える。だが彼の脳みそでは全く分からない。
「よし。スピネルのために、俺の計画を分かりやすく説明していこう。まず、俺たちは事前に宮殿の外に出てきた召使と騎士の服と通行証を奪っておく。そして、そいつらに成りすましてから宮中に潜り込む」
コールは机の上の街の地図を指さしながら話を進めていく。
「シトリンは王子の捜索を、スピネルと俺は宮中の騎士を数名殺し、その死体をどこかに隠しておく。シトリンは王子を見つけたら、隙を見て誘拐する。もちろん王子がいなくなったら、王は犯人を捜索するだろう。だがその時、もし騎士が数名行方不明になっていたとすれば、きっと王はそいつらが王子を誘拐したと思い込む。数日後、その騎士たちの死体が見つかることによって、本当の犯人がほかにいることが判明する。だが時すでに遅し。俺たちはとっくの前に王子を連れてこの拠点に監禁しているのであった」
「なるほど、俺たちが安全に逃げるための時間を稼ぐってわけか」
「そういうことだ。召使よりも力の強い騎士を犯人に仕立てあげるほうが、より怪しまれずに済むからな。それに第一王子と比べても、おそらく警備は緩いはずだからスムーズに事が運ぶはずだ」
「そこまで考えているとは流石だぜ。だが、わめく王子を連れて宮殿の外まで出るのは少し無理があると思うんだが?」
「その点は心配いらない。召使に変装したシトリンが王子に睡眠薬を飲ませて眠らせれば、おとなしく運ぶことができるし、荷車を使って荷物と一緒に王子も乗せれば怪しまれることはないはずだ」
「そんなに簡単にいくか?」
「俺たちの人生は自分たちで決められるものじゃない。俺たちの命は我らがモルガナイト王が握っている。王のためにどんな困難な道でも突き進まなければならない。我らが王のために!」
コールが右手を挙げるとスピネルも同じように手を挙げて叫んだ。
「ああ、あのお方は生きる価値などなかった俺たちに、生きる術と、機会を与えてくださった。命を懸けて挑もう、我らが王のために!」
その二人の様子をみて、静かにシトリンも右手を挙げるのであった。
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