第一章 感情なき殺し屋
この度、初めて「なろう小説」に投稿してみました。
感想、アドバイスなどあれば是非よろしくお願いします。
「おねがいです。ぼくのおかあさまになってください!」
この一言が、ある一人の殺し屋の運命を変えることとなったのだった。
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シュッ
銀色の細く美しい剣が刹那に光る。
そしてその後に響いたのは、男の片腕が落ちる音と、言葉でも悲鳴でもない音。
男は、かつて右腕があった場所を左手で押さえながら、目の前にいる女を睨む。
全身が痛い。呼吸が荒くなる。汗が止まらない。足が震える。自分が殺される立場にあることが痛いほどに分かってしまう。
「っ・・・・貴様は、何者だ・・・・!」
荒い呼吸のまま、男は聞いた。男の眉間に深いしわが刻まれる。
そんな男とは裏腹に、女は何の表情も見せないまま、無言でじりじりと距離を詰めた。その手には赤く染まった剣が強く握りしめられている。
「っ・・・・!貴様、俺を本気で殺す気か!俺を殺したところで何の価値があるってんだ!」
そう話している間にも、女は足を止めない。男の足は震えを増す。
「なあ、お、俺と取引するのはどうだ。俺を殺さねえっていうんだったらよお、そっち側に付いてやってもいいぜ?俺がたくさんこの国の情報を提供してやるよ。な?悪くねえ取引だろ?俺だからまずはその剣を置いて・・・・」
ザシュッ
男が話し終わる前に、男の体が崩れ落ちた。胸から腹にかけて一直線に切られた傷口からは、大量の血があふれ出し、路地裏の石畳を赤く染める。
女は剣をしまい男の懐から何かを取り出すと、素早くその場をあとにする。自分の殺した男のことなど一切興味がない。
ここは世界の外れにある国、マラカイト。都市部は多くの貴族や商人たちで賑わっており、白いレンガ造りの家で統一されているので、とても美しい。
宮殿では華やかな年に数回舞踏会が行われており、一見平和な国だと思ってしまう。だが、一歩でも郊外に足を踏み入れれば、貧しい人々が暮らす地域が広がる。
こういったところでは、毎日誰かが命を落としている。
それは病気、事故、そして殺人。
様々な要因があげられるが、死んだ者を弔う者は数少ない。身寄りのいない者や身元不明の死体は、運が良ければ山まで運ばれるが、運が悪ければそのまま放棄され野良犬に喰われる。
そういった治安の悪い街では、夜に出歩くことなど滅多にない。笑い声が聞こえても、叫び声が聞こえても、誰も外に出ようとはしない。それは自分自身の命を守るためだ。
今夜死んだ男のことなど、誰も気にしないだろう。
しばらく歩くと、女はある家の前で足を止めた。二階建てのあまり綺麗とは言えない石造りの家。ところどころに苔が生えている。
ここは女の家。家と言ってもほとんど帰ることはなく、今夜のように誰かの命を奪ったときに全身についた赤い汚れを洗い流しに帰ってくるだけだ。
女は洗面台に立ち、石鹸を使って顔を洗う。血の匂いはなかなか取れない。何度も何度もこするうちに、少しはましになってきた。
顔を上げると、目の前の鏡に自分の姿が映った。
まだ幼さの残る顔。黒い髪は艶がなく、白い肌にはいくつもの切り傷が残っている。
何より、目には光が灯っていなかった。
顔を洗い終えると新しい服に着替えた。持っている服はすべて黒色。闇に溶け込むには最適な色である。そして長い髪を一つに結びなおし、再び家を出た。
女がたどり着いた先は、とある空き地。
辺りには草が生い茂っており、長年この土地を管理していないように思われる。
その一角に、人ひとりが入れるほどの小さな地下通路が掘られていた。
その通路を通り、奥へ進むと閉ざされた木製の扉の隙間から小さな光がいくつもあふれ出している。
ギギギイイィ
建付けの悪い扉を開くと、中には大きな男と、小柄な男がこちらを見た。
「お、片づけたか」
小柄な男が聞くと、女は小さくうなずく。
「ご苦労だったな」
三人の会話はこれで終わった。
しばらく沈黙の時間が続く。
この組織の名はジェイダイト。隣国、モルガナイトの密偵である。
国が正式に認める騎士団とは違って、ジェイダイトは裏で活動している。その存在を知る者はほとんどいない。騎士団に志願した者のうち、認められたものだけがジェイダイトに勧誘される。勧誘というが、断るという選択肢はない。秘密組織であるジェイダイトを知ってしまった者は誰であっても、殺されてしまうからだ。
そんな優秀な者たちが集うジェイダイトは今、敵国であるマラカイトで活動している。
三人の運命は、王に忠誠を誓った時から始まった。
モルガナイトを発つ前、我々は宮殿の中にある王の間で初めて王に会った。
「余はこの地域の国々を統一するために、じきに侵略戦争を行う。そのためにはまず、隣国マラカイトを併合しようと思っておる。そのためには、マラカイト王を殺さなければならない。そこでだ」
王は目の前に並ぶ十人のジェイダイトを見て言った。
「今宵、そなたたちジェイダイトの中から、その任務を行う密偵としてふさわしい三名を選出する」
全員が息をのむ。彼らにとって王に直接認められることは、何よりも嬉しく、何よりも誇らしいのだ。
その三名に選ばれることができれば、身分の低い者でも功績を残すことができる。
「その方法は・・・・」
王が立ち上がった。そして右手を挙げる。
「殺し合いだ」
その瞬間、扉から何十という騎士が入ってきた。部屋の周りに隙間なく並び、そして槍を構える。
「な!?」
「どういうことだ!?」
その場にいた十人は戸惑った。まさか今まで仲間であった者たちと殺し合いをすることになるとは思ってもみなかった。
「我らが王!これは一体どういうことですか!」
一人の男が叫んだ。恐怖で手足が震えている。
「言葉通りだ。余は強い者以外を生かすつもりなどない。ましてや、ここにいるお前らは全員、卑しい身分の者ばかりだ。ただでさえ、こうして国のために尽くせる機会を与えてやっているのだぞ。何故怒る必要がある。命が欲しければ、弱者を殺せばいいだけのこと」
「ふざけるな!こんなことが許されるとでも思うか!」
「ああ、許されるとも。何せ余はこの国の王だからな」
「クッソ!こんな組織なんか今すぐやめてやる!獣以下の王なんかに、忠誠なんか誓うかよ!」
男はこの場から立ち去ろうと思ったが、部屋の周りは騎士が厳重に囲っている。
「おい、通せよ!俺は帰るんだ。何年も一緒に暮らしてきた仲間なんか殺せるかよ」
その言葉を聞くと、他の仲間も動き出した。
「そうだ!俺たちは厳しい訓練に耐えてきた仲間だ!殺し合うことなんてできない!」
「自分が助かる代わりに、仲間の命を奪えるわけねえんだよ!」
「みんな!帰るぞ!」
そう言って数名が扉の前の騎士に向かって殴りかかる。だが、何の武器も持っていない挙句、人数差がある。そう簡単に逃げられるわけもない。
「クッソ!こいつらビクともしねえぞ!」
「どうすればいいんだ!」
絶望する彼らに、王は笑いをこぼした。
「これで分かったであろう。お前たちに逃げる術はないと。逃げようとすれば、一斉にこいつらは襲ってくるぞ。余の言うとおりにするのが得策だと思わないか?」
「ふざけるな!たとえ全員死ぬことになっても、俺たちは構わない!」
「はっはっはっ!そうか。そういう姿勢は嫌いではない。だが、皆に死んでもらうわけにもいかないからな。多少強引な手を使ってでも、三人に絞ってもらう」
王は騎士たちに合図を送と、一斉に襲い掛かってきた。
彼らは必死に抗うが、あっという間に取り押さえられてしまった。どう足掻いても、全く身動きが取れない。
「何をする!」
「はっはっはっは!体は動けなくても、口だけは達者だな」
「ふざけるな!殺すならいっそ殺せばいい!死など怖いものか!」
「そうだ!殺せ!」
男たちは次々と叫ぶ。王はそれを聞くと、豪快に笑った。
「そうか、死など怖くないか。ならば死よりも恐ろしいものを味あわせてやろう」
そう言って王は手を挙げた。
騎士たちが器に入った赤い液体を持ってくる。
「なんだ、これは・・・・!」
「これか?これはな・・・・」
王が不気味に笑いながら見つめる中、騎士たちが強引に彼らの喉に流し込む。
「うっ、ぐ・・・・!」
彼らは口を閉ざして必死に抗うが、口をこじ開けてでもそれを飲ました。生ぬるい液体が、意志とは無関係に喉を落ちていく。
「これは、先代の王の血で作られた感情をなくす薬だ」
王がつぶやいた時には、全員の目に光が灯っていなかった。
「さあ、殺し合え。最後の三人になるまでな」
静かになった十人は、ゆっくりと立ち上がり、騎士の持っていた剣を奪い取って殺し合いを始めた。
弱い者はすぐに倒れ、命を落としていく。
だが、一人の少女が動き出した途端、一気に状況が変わった。
彼女はとても強かった。ジェイダイトだけでなく、近くにいた騎士も構わず斬っていく。
十、二十、三十・・・・・・・止まることなく、剣を動かし続ける。
そして、残りの二人のジェイダイトに剣を振り下ろそうとした、その時___
「そこまでだ!」
王が命令した。
少女はすぐに剣を降ろし、ひざまずく。
「なかなか面白いものを見させてもらった。もうよい」
王は笑って生き残った三人の前まで来る。
「お前たちはジェイダイトとして、余のために忠誠を誓え。そして隣国マラカイトへ行き、マラカイト王の首を取ってこい」
そして三人を抱きしめて囁いた。
「ようく覚えておくといい。感情というものは人間を弱くさせる。それを消し去ったお前たちは今よりもさらに強い存在となった。さあ、生き残りし強者たちよ。死んだ仲間たちの分まで、余のために命を懸けて戦うのだ」
{今宵、王の歪んだ愛によって、七人の尊い命と、三人の運命が夜に消えていった}
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。




