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第十四章 王子の初恋

今日はいろいろ詰め込みすぎて、量が多くなってしまいました。ゆっくりでもいいので読んでみてください。

王子は夢を見た。


忘れもしない十年前。僕は生まれて初めて恋をした。


今まで近づいてきた貴族の娘たちは王子自身ではなく、僕の美しい顔に心を奪われ、部屋を出れば女たちに囲まれる始末だった。


「グラナイト王子だわ!」


(うるさい、黙れ)


「キャー!わたくしを見てくださったわ!」


(貴様なんか見たところで、何の得もない。失せろ)


毎日が苦痛だった。


表の顔は、優しくてイケメンな王子。だが裏の顔は、女などに一切興味がなく、口の悪い王子。いっそのこと、早く本当の姿をさらけ出してしまおうか。



だが女どもを落ち着かせたとしても、今度は別の集団が僕を取り囲む。



「グラナイト様、お待ちしておりました。実は私の娘を紹介したく存じます。私の娘はこの国でも一際美しく、聡明で・・・・・・」


「いえいえ、わたくしの娘のほうが、より優れております。この前なんて・・・・・」


(ああ、聞き飽きた。貴様らの娘の話なんざどうでもいい。さっさと失せろ。この豚がよ)



この顔に加えて第一王子という肩書もあるがゆえに、僕の周りには腐った目をした伯爵やら侯爵やらも寄ってたかってくる。



「本当に目障りだ」


「グラナイト様、お口に出ていますよ」


廊下を歩いているときに、うっかり心の声が漏れてしまった。


「エピドート、辺りには誰もいないか」


「はい。ご安心を。どなたもいらっしゃいません」


「ならいい」


「よくはありません。今回は運がよかっただけですが、次に誰かに聞かれましたら大変なことになってしまいますよ」


「・・・・分かってはいる。だが僕ももう限界なんだ。いつか僕は宮殿の外に出るんだ」


「宮殿から出られた後、何をなさるおつもりですか?」


「それは・・・・」



エピドートが痛いところをついてくる。



「ちゃんと働くさ」


「何をしてです?」


「・・・まだ決めてない」


そう言うと、エピドートは笑った。


「グラナイト様、あなたは将来この国の王となるお方です。そんなお方が宮殿を離れて暮らせるわけがありませんよ。現実を見てください」


「・・・・・」


僕は王座などに興味はない。


王になれば、妻を何人も娶り、子供を作り、そして国のために自分を犠牲にしなければならない。

そんな暮らし、僕は望んでいない。僕は、ただ自由に生きたいだけなんだ。


エピドートは、そんな僕の気持ちに気付いているのだろう。それでも、僕の立場を考えて気付かないふりをしていたのかもしれない。



「エピドート」


「はい、なんでしょう」


「王位継承権を、ベリルに譲ったらベリルが王になってくれると思うか?」


「っ・・・・・!それは・・・」


「分かっている」



僕はエピドートの言葉を遮った



「分かっている。あいつは第二王子だが、母親の身分が低い。僕が権利を譲ると言えば、臣下たちの反発は免れないだろう。だが、僕はあいつのほうが王にふさわしいと思っている」


「グラナイト様・・・・」


「・・・・・・」


僕はため息をつく。こんなことをいくら考えたところで、何も変わらない。



すると、エピドートが何かをひらめいたようで「あっ」と声を上げた。



「グラナイト様、もしよければ『やりたい事リスト』を作ってはいかがでしょう?」


「やりたい事リストだと?」


「はい。王様になったら、絶対にやりたいことを手帳にまとめてみるのです。そうすれば、それを目標に、これからの人生を楽しく過ごすことができるかもしれませんよ」


「目標を?例えばどんなものがあるんだ?」


「そうですね、例えば・・・・・理想の女性を正室として迎えるとか、ですかね」


「そんな女、いるわけがない」


「そうでしょうか?」


「ああ」


そう言って僕は中庭を指さした。その先にはたくさんの若い貴族の女たちが、キャーキャー騒ぎながらお茶会をしていた。


「あんなにたくさんの女が宮殿に出入りしているというのに、みんなブスばかりだ」


「そんな言い方してはいけませんよ。ですが・・・・そんなにお悪いですか?みなさん綺麗なお顔立ちされていると思いますがね」


エピドートも目を細めて女たちを見定める。


「馬鹿だな、顔なんかに興味はねえよ。僕は心の話をしているんだ」


「心ですか?」


「ああ。どれだけ顔が美しくても、心が汚れてたら全部台無しだよ。だけどな、心が綺麗な女なら、どれだけひどい顔でもきっと美しく見える」


「・・・・・」


エピドートが変なものを見たような目でこちらを見てくる。



「なんだ?」



「いえ・・・・・珍しく良いことを言うものですから、感心してしまって」


「はあ!珍しくってなんだよ!」


「申し訳ございません。口が滑りました」


そう笑ってエピドートは下を向いた。肩が震えている。必死に笑いをこらえているのだろう 。


「ったく。お前ってやつは!」


エピドートを見ていたら、僕まで笑いが込み上げてきた。



「グラナイト様、そろそろお時間ではありませんか?」


突然エピドートが思い出したように言う。


「ん?ああ、そういえば今日だったな」


僕もそれを思い出した。その瞬間、僕の心はまた沈んだ。



「モルガナイト王に、会う日だったな」



「さようです。さあ行きましょう」



そう言ってエピドートに案内された先は応接間だった。



「王様、グラナイト様がお越しです」


「通しなさい」


エピドートが声をかけると、重みのある声が聞こえてきた。


扉が開き中へ入ると、王である父上、そして先代のモルガナイト王が対面になって座っていた。


(ん?子供?)


近づいてよく見ると、モルガナイト王の隣には女の子がちょこんと座っていた。


「ああ、王子。よく来てくれた。紹介しましょう。こちらは私の息子であり、第一王子のグラナイトです」


「ああ、あなたがグラナイト王子ですか。噂通り、美しい顔立ちをしていらっしゃる」


思っていた人物と違い、モルガナイト王は優しそうな老人だった。


「グラナイト王子、こちらも紹介しましょう。私の孫娘の〇〇〇〇です」



何故だ・・・・あの子の名前が思い出せない・・・・・



「私がマラカイトに行くと言ったら、どうしてもついていきたいと駄々をこねるものですから・・・・・ご迷惑をおかけし、申し訳ない」


「いやいや、実はグラナイトにはほとんど話し相手がいないのです。是非、息子と仲良くしてやってください」


「ははは。それはこちらのセリフですよ。グラナイト王子、しばらくこの子をお願いできますか?」


「はい。喜んで」


いつもの作り笑顔を見せて、僕はその子の手を引いて部屋を出た。


部屋の中からは楽しそうな声が聞こえてくる。意外と仲が良いのだろうか。


「おにい、さま」


「ん?」


その子は目を輝かせながらこちらをのぞき込んでくる。

どうせこの子も他の女と同じだ。僕の顔に惚れたのだろう。


「チェスはできる?」


「チェスか?できることにはできるが・・・・」


「じゃあやろう!」


そう言って、女の子は僕の腕を引っ張った。


子供の重りに嫌気がさしたが、王の命令には逆らえない。少しだけでも、付き合ってやろう。


「分かった分かった!じゃあ僕の部屋でやろうか」


仕方なく僕の部屋へ連れていき、チェス台を取り出す。


「おにいさま、これ・・・・・」


「ボロボロで悪いな。これは僕が子供の時に作ったやつだ」


「おにいさまがつくったの?」


「うん、そうだよ。こんな下手くそなのしか今は持っていないんだ。最近はチェスなんてやっていなかったからね」


「すごーい!おにいさま、いろんなものをつくれるんだね!」


思いもよらない反応に、僕は驚きを隠せなかった。


「ボロボロなやつは嫌じゃないのか?」


「ちっとも。こっちのほうが、おにいさまのよさがでてていいとおもう!」


「わたしもおにいさまみたいに、いろんなものをつくれるようになりたいなあ」


そう笑うあの子の目は、キラキラと輝いていた。



「さあ、はじめよー!」



こうして僕たちはチェスを指しはじめた。驚くことに、僕がどれだけ本気を出しても一勝もできないほどこの子は強かった。


「君はすごいなあ!どうしてそんなに強いんだ?」


気が付いたら僕はチェスに夢中になっていた。


「えっへ。たくさんのひとと、チェスをしてるからかな。きづいたらじょうずになってた」


「宮殿の人たちと仲がいいのか?」


「ううん。ちがうよ」


その子は首を横に振った。


「チェスをやると、そのひとのにんげんせいがわかるんだよ」


「人間性が?どういうことだ?」


「おはなしするだけじゃわからないことも、いっしょになにかをやることによって、ボロがでてくるんだよ。まけたらくやしがったり、かったときにうれしがったり」


「それって普通のことだろ?人間には感情があるんだから、喜んだり悔しがったりするのは当たり前だ」


「うん、だけどね。ひとそれぞれこせいがあるんだ。ひょうじょうや、うごき。こういったものはそのひとのにんげんせいをしめす」


「・・・・・・君は・・・・・・頭がいいんだね・・・・・・」


僕は正直驚いた。子供だから、女の子だからと、勝手に偏見を持っていたのかもしれない。

だが、この子も僕と同じで宮殿という恐ろしい檻の中に閉じ込められている。


敵なのか味方なのか。それを見極めることで、自分の身を守ってきたのだ。


「君も、大変なんだな」


「あはは!おにいさまほどじゃないよ。わたしはおんなだもん。かわいくちょこんとすわっていればいいの」


「王女に生まれて幸せか?」


何も考えず、失礼なことを聞いてしまった。


「ああすまない、変なことを聞いたな」


「ううん。へいきだよ。しあわせかってきかれたら・・・しあわせかもね」


「それは・・・・・どうして?」


「だって、おかねとけんりょくがあれば、まずしいひとのためにつくせるでしょ?」



「っ・・・・・!」



この子は・・・・・こんなに幼いのに、そんなことを考えていたのか。


それなのに、僕は・・・・・



「ねえ、おにいさま。おにいさまは、いずれおうさまになるんでしょ?」


「あ・・・・ああ、そうなるだろう、な」


「そしたらさ、ひとつおねがいしてもいい?」


「ん?なんだ?」


その子は姿勢を正し、まっすぐな瞳でこちらを見つめた。



「このくにのぜんいんが、しあわせだとおもえるようなくにをつくってください」



「っ・・・・・・・!」


その時、初めて誰かを美しいと思った。顔じゃない、その心。そして信念。

彼女の全てが眩しい。それに比べて、僕は・・・・・


「僕に、そんなこと・・・・できるかな・・・・・」


「できますよ、ぜったいに」



彼女は断言した。



「あなたとチェスをして、おもったことがあります」


「なんだ?」


「あなたは、おうにふさわしい。じぶんにじしんがもてれば、きっとりっぱなかたになります」


その言葉に胸が締め付けられた。



「あなたなら、きっとできますよ。グラナイト様」



彼女の光が、僕の影を照らす。

僕にならできる、きっとできる。だって、君がそうやって背中を押してくれるから。



「分かった。必ず期待通りの王になってみせるよ!」



その言葉を聞くと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。




この笑顔が好きだった・・・・・だから・・・・・・もう一度だけ・・・・・・



長文でもお読みいただきありがとうございました。ゆっくりと目を休ませてください。

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