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顔面パンパンマン

 翌日、放課後、自分の部屋。俺はベッドでうなされていた。

 顔中が痛い上になんでこうなったのか記憶がなかったからだ。

 腫れが引くまで登校できない。吸血鬼なら治る傷だから。


 コンコン


「だれだ?」


 初めてだ。自室をノックされたのは。

 この顔を見られるわけにもいかないし、居留守を使おう。


「バンくーん?」


 ココの声だった。

 いや待て、ここ男子寮だぞ。

 あわてて飛び起きて、ドアを開けた。


「急にどうし……え?」


 そこにいたのは可愛らしいナースさんだった。巨乳。しかもミニスカ。網タイツ!?


「うわ……、ごめんなさい、バンくん」


「え? 今なんて言ったんだ?」


 いま、謝られた気がする。

 顔の腫れのせいなのか耳の聞こえが悪い。


「いいえ、顔面パンパンマンと言いました」


「顔面パンパンマン」


「保健室で薬と氷をもらってきました。ささ、怪我人は安静にしましょうね」


「え? え? ほんとに顔面パンパンマンって言ったの? 会って早々に?」


 いくらなんでもそれはひどくない?

 うろたえ中の俺をココが押すので仕方なくベッドに腰を下ろした。


「はい。でも、バンくんも自分の顔を差し出すヒーローじゃないですか」


 そりゃあ彼は僕の顔をお食べと差し出すけど、俺の顔はあんぱんで出来てない。

 でも顔を差し出すというか、自分から打ち付けたような痛みが額にある。

 その痛みのところを覆ったガーゼをココが剥がそうとする。


「うっ、痛い痛い!」


 逃れようとしてもココが追いかけてくる。


「ダメです! 我慢してください」


「あっ、うっ、ぐぎぎ……」


「なんですかそんなに必死に抵抗して! 男の子でしょう!?」


 うお、幼馴染系ヒロインに言ってほしい台詞ナンバーワンが飛び出したから、抵抗する力がゆるんだ。

 その隙を突いてココは俺をベッドに押し付けるようにした。

 痛みにあえいだ末に、一通りガーゼを交換してもらった。


「あ、あの」


「ふぅ、なんですか?」


「この姿勢、ちょっとまずいかも」


 ちょうど俺の下腹部に乗っかるような姿勢で、その、やわらかなアレがナニで、はい。


「――っ!」


 言葉にならない叫びを上げながらココはベッドから飛び降りた。耳まで真っ赤にしている。

 でも、俺は助かった。あいにく痛みのおかげで最小サイズだったから。

 上体を起こし、俺は床に腰を落とすココの頭に手を置く。ナースキャップが少し邪魔。


「気にするな。吸血鬼ハンターの俺が吸血鬼に欲情すると思うか?」


 まあ、そういうことだ。可愛いとかキレイとか思っても、異性としては見れない。

 一部の例外を除いては。

 ……あれ? でも、今までココを異性として意識してたはずなんだけどな。


「バンくん。何か思い出しましたか?」


 ココが顔を上げる。俺はその頭に乗せていた手で自分のあごをさすった。

 記憶が芋づる式に蘇る。


「思い出した。俺の顔がボコボコなのは、ココの魅了で意識を失わないようにするためだ」


「そうです。だから改めて謝ります。ごめんなさい」


 ココはその場で手を付いて頭を深々と下げた。もはや土下座だ。


「いいって! ココが祭りに来たのだって俺の姉の友達を見ようとしたからだろ。半分は俺のせいだ」


 機関の使者を姉の友達だと嘘を吐いた。俺に興味があるらしいエルゼがそれを見過ごすわけもない。ココが一緒だったのはどうせエルゼに誘われたからだ。半分俺、半分エルゼのせいだと思う。

 ココが顔を上げる。真剣な眼差しだ。


「全部、私のせいです。あの日、エルゼ様に協力してもらって、バンくんに私の正体を打ち明けるつもりでした」


 花火の見える展望台で俺とココは示し合わせたように二人きりになった。それはココが仕組んだことだったのだ。


「ココがサキュバスだってことだろ。俺は気にしない」


 昨日のことは飛び飛びだけど覚えている。

 吸血鬼相手に友達だと公言してしまったのも当然な。


「はい。それはありがとうございます。でも、ちょっと悔しいです……」


「悔しい?」


 ココは目を見開いて、うつむいて顔を隠した。


「今のは忘れてください!」


 まったく、変なやつだな。


「言いたいことがあれば何でも言ってくれよ。友達なんだからな」


「くっ……」


 すごく悔しそうだ。

 悔しがる理由に心当たりはあったが、それは胸のうちに秘めておくことにした。

 本題が別にあるからだ。


「ココ、聞きたいことがある」


 俺の真面目なトーンに、ココも姿勢を改めて、部屋の窓際に置かれた椅子に座る。


「なんですか?」


「ココはいつ吸血鬼になったんだ?」


 サキュバスの魅了体質を改善するために、彼女の母親は男たちを吸血鬼の供物にした。そしてココは吸血鬼にしてもらった。連続殺人事件は六年前。ちょうど俺が吸血鬼にされた日のこと。


「吸血鬼がそれを明かすのは実力を明かすのと同じってことは分かってますか?」


「ああ。吸血鬼は日を追うごとに強くなるからな」


 そして人間としての部分を失っていく。銀の首輪が無ければ吸血鬼歴五年の俺などとっくに人間ではない。

 ココはナース服の短い裾を直して答える。


「一年半前です」


 たっぷり息を吸って、湧き上がる気持ちを鎮める。


「そうか」


 これでハッキリした。

 俺を噛んだのはココじゃない。

 この気持ちが嘘じゃないなら、俺を噛んだのはエルゼだ。

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