ココの秘密
港を抜けると学校が見えてきた。
だが、そこにも人がいる。学園の生徒じゃなさそうだ。数は少ない。
「ココ、突っ切るぞ!」
そう声を掛けた流れでココに振り向いてから、頭の痛みがもうほとんど無いのに気づく。
――まずい。
◆
気づいた時には立ち止まってココに向き合っていた。押し倒す形になって、太ももの間に膝を割り込ませている。
ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ!
ココが目をそらす。
「……バンくんはしてないです」
間に何があったか記憶がない。
でも、頭が割れそうだ。っていうか、血だ。出血してる。頭から。なるほど、割れてんだ、頭。
痛いを通り越して感覚が無い。手は動く。足も動く。まだ行ける。
「行くぞ!」
ココを立ち上がらせ、校門へ走る。少なかったはずの人が増えてる。
「ウボァ!」
すぐ後ろから男が飛びかかってきた。
躱す。
地面に倒れ伏した男を飛び越える。
「はっ、はっ、はっ……、いくらなんでも多すぎだろが」
島じゅうの男たちが集結してるんじゃないのか?
どうする? 銀炎術を使うか? 一般人を巻き込むぞ。学校の前だから生徒にも見られる可能性だってある。
相手は人。逆に言えば特別な力を使わなくても解決できるか?
頭を使えば使うほど、感覚が鋭くなっていく。当然、握ったココの手の柔らかさにも――
◆
ああああ! くそ! また意識が飛んでいた。
ちょっとでもココを考えただけで俺は本能に体を奪われる。
でも、なんでだ? また頭が割れてる。もはや顔中が痛ぇ。
「バンくん!」
二人の男がココにたかり、浴衣を半脱ぎにしていた。
俺は右の男をローキックで蹴り飛ばし、左の男に飛び膝蹴りを入れる。
「ココォ!」
ココの胸に飛び込み、浴衣の前を閉めた。なんでこんな必死になって肌の露出を抑えようとしてるのか自分でも分からなかった。いや、分かっていた。この行動が決定打だったのだろう。
「バンくんはどうして本能に抗うんですか?」
鼻と鼻を突き合わせられるような至近距離でココはおずおずと切り出した。
吐息がくすぐったい。
◆
「うおぉうおああああっ!」
俺は咆哮した。頭からどくどくと血を流しながら。
アスファルトにココを押し倒している。血がココの顔の横にぼたぼたと垂れた。白いところに赤が目立つ。横断歩道だ。校門の前の。
「落ち着いてバンくん! 本当のことを話します! だから、自分を傷つけないで!」
支離滅裂思考のカオスにココの通る声が一筋の線を引いた。
それは間違いなく一筋の光だった。
霧が晴れ、雲間から月光が降りてくる。
「うぉ、ご……?」
舌が回らなかった。でも言葉は不要だった。
横断歩道に尻を付いた俺は、ココがゆっくりと立ち上がる姿を目に焼き付ける。
浴衣を脱ぎ捨てた彼女の腰骨には悪魔の尻尾、全身を覆う扇情的なコスチューム。
「ずっとバンくんを騙していたのは……、私なんです。見てください、この尻尾。私、実は吸血鬼とサキュバスのハーフなんです」
ココの姿は言葉より明らかだった。




