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わがままな本音

 ということはディンゴ先生も吸血鬼なのか?

 じっと観察するが、羽は見えないし、牙も無さそうだ。


「おいおい、そんな目で見るなよ。先生は人間だぞ」


「す、すいません」


 そうだよな。俺より先に学園へ潜入していたんだ。

 俺に見破られる程度なら吸血鬼にもバレている。


「いや、いい。それでこそ吸血鬼ハンターだ。すべてを疑ってかかれ」


「……はい!」


 なんだろう、腹に力が入る。

 吸血鬼ハンターとしての志が蘇ってくる気がした。


「で、だ。話は早い方が良い。分かるな?」


 注射器を見せてディンゴ先生は色々と省略した。

 面倒臭がりなのは素のようだ。

 俺は注射器を受け取って、ひもで二の腕をしばって採血した。


「たぶんヒドラの血が出ると思いますよ。奴が最後に取り憑いたのは俺でしたから」


「ほう。それは初耳だな。だが、操られているようには見えない」


「奴は死んだ。それだけです」


 採血を終えて注射器ごとディンゴ先生に渡す。

 ディンゴ先生は緑の液体が入った小瓶に血を垂らした。


「これは吸血鬼の血だ。もしお前がヒドラの血を持つなら、血は混ざり合う」


 そう説明しながら小瓶のフタを締め、軽くシェイクした。

 緑の液体の上に赤い血が浮かぶ。


「……俺にヒドラの血は流れてないってことですか?」


「そうなるな」


 肩の荷が下りた気がした。


「まだ安心するのは早い。一番の問題はお前の任務だ」


 ほっと一息入れる暇もない。せっかちな先生は二枚の紙を取り出した。

 それには学生証が印刷されている。

 羽鳥エルゼ、姫里ココ……。


「その二人がどうかしたんですか?」


 二人のうちどちらかが俺を噛んだ可能性がある標的だとはノーニャにも報告していない。


「とぼけるのも大概にしておけ」


 胃の中に氷を流し込んだような感覚がした。

 そうだ。ノーニャと違ってディンゴ先生は学園で俺たちを見ていた。

 そんな相手に俺はバカの一つ覚えみたいに言い逃れしようとした。この腹の重たさは恥だ。


「俺は……」


 言葉がつっかえて出てこなかった。

 ディンゴ先生を直視することもできず、甚平に合わせた草履を眺める。


 ポン


 うっ、肩に手を置かれた。俺はどうしたら……。


「羽鳥エルゼと姫里ココ、どっちが自分を噛んだか悩んでいるんじゃあねえのか?」


 顔を上げると面倒くさそうだが頼れる大人の顔があった。

 なんか、泣きそうになった。

 ここで泣いたら本当にガキだと思って、自分の太ももを拳で強く叩く。


「っ! その通りです。恥ずかしながら俺は二人の女子を好きになってしまいました!」


 俺の抱える悩みはこれしかない。

 そしてそれが俺の任務の問題でもある。

 案の定、ディンゴ先生は面倒そうに額を掻いた。


「ずいぶん思い切りが良いこった。だが、自分の問題を何か把握できているのはまずまずだ」


 褒められてるのか貶されてるのかよく分からなかった。

 だが、腰を据えて話を聞こうという姿勢はよく分かった。


「どっちが自分を噛んだか明らかにするまで報告を保留していました」


「だが本音は別のところにある」


 なんて話の分かる男だろう。いや、俺の知らないうちによく見られていたということか。

 もう打ち明けるしか無さそうだ。


「はい。俺は二人を……二人を討つ自信が無くなったんです」


 それを聞いてディンゴ先生は吸血鬼ハンターとして俺をどう見るか。

 事と次第によっては機関に戻らなければならなくなるだろう。

 だが、ディンゴ先生はふっと笑みを浮かべた。


「安心しろ。そうなった時は先生が代わってやる」


 俺の代わりにディンゴ先生がココかエルゼを討つということだ。

 二人とも失いたくない。

 そのワガママこそ一番の本音なのだと今はっきりと気づいた。


「ディンゴ先生、俺は……」


 その時だった。

 屋台通りの方から悲鳴が聞こえた。

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